第16話 目が赤い気がするけど何かあった?
「やっぱりお泊まりの日の夜と言ったら恋バナだよね」
「涼也の話、気になる」
風呂から上がってしばらくした後、玲緒奈と里緒奈は突然そんな事を言い始めた。だが陰キャぼっちの俺に恋バナをしろというのは流石に無理がある。
「……いやいや、俺なんかに恋バナを求められても話せる事なんて何もないぞ」
「涼也君が童貞で彼女出来た事ないのはもう知ってるけど、流石に初恋とかはあるでしょ?」
「どんな感じだったか教えて欲しい」
2人はかなり興味津々な表情になっているためここで何も話さないという選択肢は到底取れそうになかった。
「確かに初恋はあったよ、まあ当然言うまでもなく片思いで終わったんだけどさ」
「ちなみに初恋の相手は具体的にはどんな人だったの?」
「早く話して」
俺の初恋について根掘り葉掘り聞くつもりらしい。それを聞いて彼女達に一体何のメリットがあるのだろうか。そんな事を思いつつも俺はゆっくりと話し始める。
「初恋は小学生6年生の頃で相手は隣の家に住んでる幼馴染だったな。しばらく片思いを続けてたけど、中学2年生の時その子に彼氏ができたから何も無く終わった」
幼馴染と恋に発展するような物語はよく見かけるが、あまり現実的ではないに違いない。そんな事を思っていると里緒奈が口を開く。
「初恋が幼馴染ってのは結構あるある、残念ながら結ばれるとは限らないけど」
「確かにそうなんだよな。幼馴染なんて所詮は子供の頃の顔馴染みに過ぎないし、それ以上特別な要素はあんまり無いから」
里緒奈の言葉に全面的に同意だった俺はそう答えた。すると玲緒奈がどこか得意げな顔で口を挟んでくる。
「ちなみにうちのパパとママは幼馴染同士なんだよ」
「えっ、そうなのか!?」
まさかの発言に俺は驚いてしまった。幼馴染同士で結婚するパターンはかなりレアだと思っていたためこんな身近にいるのは正直予想外だった。
「パパとママは今でも新婚夫婦みたい」
「だから私も里緒奈もちょっと恥ずかしいんだよね」
「めちゃくちゃ仲良さそうとは思ってたけど、そこまでなのか……」
玲緒奈と里緒奈の年齢的に多分快斗さんとエレンさんが結婚したのは20年くらい前だと思うが、そんな長期間ラブラブでいられるのだろうか。
そんな疑問が自分の中に生まれる俺だったが、新婚夫婦に見えるくらいだから何か秘訣があるのかもしれない。
「涼也君にだけ話させるのは不公平だと思うし、今度は私達が話すよ」
「……いや、別に俺は聞かなくてもいいけど」
「遠慮はいらない」
正直2人の初恋については聞きたくなかった。だって俺は今玲緒奈と里緒奈に対して完全に片思いをしているのだから。そんな2人の初恋話なん聞きたいはずがないだろう。だが俺の思いとは裏腹に2人は喋り始めてしまう。
「実は私と里緒奈の初恋は高校2年生になってからなんだよね」
「割と最近」
それから玲緒奈と里緒奈は初恋相手について一方的に語る。どうやら2人は同じ相手を好きになってしまっていて現在進行形らしく、幸せそうな顔で話していた。
最初はその相手が実は俺では無いかと心のどこかで期待していたが、めちゃくちゃカッコいいという玲緒奈の言葉を聞いて厳しい現実を直視させられる。
彼女達の愛が俺ではない知らない誰かに向けられている事実に耐えられなくなっていき、俺はだんだん涙が込み上げ始めた。
「……ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
「オッケー」
「いってらっしゃい」
部屋を出てからトイレに入った俺は声を殺して泣き始める。今まで何度も片思いをしては失恋してきたが、こんなにも辛いのは初めてだ。
今までの相手とは違って玲緒奈と里緒奈が俺に優しく接してくれたから余計に辛さを感じるのだろう。
しばらくトイレに篭り続ける俺だったがそろそろ戻らなければ怪しまれてしまう。だから隣の脱衣所で顔を洗ってから部屋に戻る。
「ただいま……」
「涼也、おかえり」
「目が赤い気がするけど何かあった?」
「……実は目にゴミが入っちゃってさ」
玲緒奈から理由を聞かれた俺はそれらしい理由を適当にでっち上げた。すると里緒奈はジュースの入ったペットボトルを差し出してくる。
「ちょっと声も枯れてる気がする。涼也これ飲んだら?」
「ありがとう」
俺は差し出されたペットボトルを何も考えずに受け取り、中身を一気に飲み干した。それから2人の初恋トークの続きを聞き始める訳だが、徐々に眠くなってくる。
「……涼也君、結構眠そうだけど大丈夫?」
「ごめん……あんまり大丈夫じゃないかもしれない……」
この間里緒奈の部屋で感じたような急激な眠気では無かったが、だんだん意識が遠のいていく。もしかしたら色々あり過ぎて自分が思っている以上に疲れているのかもしれない。
「無理は体に良くない。今日はもう寝たら?」
「後片付けとかは私と里緒奈がやっておくから」
「……ありがとう、マジで助かる」
限界が近かった俺は2人に感謝の言葉を述べてからベッドに寝転ぶとそのまま意識を手放した。
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