第14話 私もお姉ちゃんもその辺は抜かりない

 午前中倉本から一方的に絡まれるなどのハプニングはあったものの、午後に関しては特に何事も無く過ごすことができた。

 まあ、教室内の居心地に関しては相変わらず悪かったため自販機スペースや中庭などに避難する必要はあったが。

 放課後は2人と一緒に帰り、里緒奈の部屋に直行してそのまま勉強を教えてもらった。昨日とは違い急激に眠くなる事は無かったため、今日は普通に家へと帰っている。


「今日は家に俺1人だし、何して過ごそうかな。テスト勉強は絶対するとして……」


 父さんと母さんは今日の夜から日曜日までの3日間旅行に行っているため不在であり、澪も友達と泊まりがけで勉強会をしているため家にいない。だから今晩家にいるのは完全に俺だけだ。

 しばらして家へと到着した俺は鍵を開けて家の中に入る。普段であればこの時間帯は絶対誰かいるはずだが、今日は誰もいないため当然家の中は真っ暗だ。


「確か澪は明日の夕方くらいまで帰ってこないって言ってた気がするし、その間は自分で色々やらないと」


 いつもは基本的に澪がやってくれていた食事の準備や掃除、洗濯などを自分1人でやらなければならないため少し憂鬱な気分にさせられる。

 だが家に1人というのは誰にも邪魔されず自由にできる事も意味しているためそこは楽しみでもあった。

 そんな事を思いながら自室に移動した俺は勉強机に向かう。里緒奈からは自力で勉強する事が難しい理系科目を教えてもらい、世界史や古典などの暗記科目に関しては自分で勉強するようにしていた。

 テストまで後1週間くらいしかない今、立ち止まっている時間など俺にはないのだ。それから集中して問題集に取り組む俺だったが、突然インターホンが鳴り響いた事で完全に集中力が途切れる。


「こんな時間に一体誰だ? 荷物が届くとかって話は誰からも一切聞いてないし、宗教勧誘とかセールスなら来るのが遅すぎる気がするんだけど……」


 そう言えば朝もこんな事あったなと思いつつインターホンのモニターを確認するために部屋を出て玄関へと向かう。そしてモニターに映し出された映像を見るとそこには見覚えのある2人組が映っていた。


「玲緒奈と里緒奈じゃん……」


 もしかしたらまた2人かもしれないと心のどこかで思っていた俺だったが大当たりだったらしい。俺は通話ボタンを押すとそのまま玲緒奈と里緒奈に話しかける。


「さっきぶりだな、こんな時間にどうしたんだ?」


「今日は涼也君が家に1人って聞いたから寂しがってるんじゃないかなと思ってさ」


「私達がいるから寂しくない」


「……とりあえず扉を開けるから少し待っててくれ」


 とんでもない理由に驚く俺だったが、2人を追い返すわけにもいかないためとりあえず家へ上げる事にする。


「じゃあ、お邪魔します」


「お邪魔します」


「……おい、その大きい荷物は何だ」


 モニター越しでは見えなかったが、彼女達は大きな旅行バッグを手に持っていた。ただ俺に会いに来ただけなら絶対そんな荷物はいらないはずだ。すると靴を脱ぎ終わった玲緒奈はカバンに指を差しながら口を開く。


「ああ、これの事? 私達今日は涼也君の家に泊まるつもりだから」


「ち、ちょっと待て。泊まる気なのか!?」


「うん、だからお泊まりに必要な物が入ってるよ」


 どうやら玲緒奈と里緒奈は俺の家に泊まる気でここに来たようだ。しかしそれは色々問題があると言わざるを得ない。


「いやいやいやいやいや、流石にそれは駄目だろ。俺達は年頃の男女なんだから万が一間違いが起きたら不味いし……」


「えー、別にいいじゃん」


「涼也は絶対そんな事しない」


 説得を試みる俺だったが2人は聞く耳を持ってくれなかった。何を言っても無駄な事を悟った俺は奥の手を使う事にする。


「帰らないなら2人の親に連絡してもいいんだぞ?」


 入院中に快斗さんとエレンさんから電話番号を教えてもらっていたため、いつでも連絡を取る事ができるのだ。流石にこれで諦めてくれるはずだと思った俺だが、なぜか2人は全く動じてない。


「ああ、それなら大丈夫だよ。パパとママには涼也君の家に泊まりに行くって言ってちゃんと許可を貰ってるから」


「私もお姉ちゃんもその辺は抜かりない」


「……えっ、嘘だろっ!?」


 まさかの両親公認だった事に俺は驚きを隠せそうになかった。百歩譲って付き合っている相手ならまだしも、付き合ってもいない男の家への泊まりを許可するなんてちょっと信じられない。

 いくら俺が彼女達の命の恩人とは言え、大切な娘の外泊を本当に許可するのだろうか。だがここまで自信満々な様子を見ると嘘をついてるとはとても思えなかった。快斗さんとエレンさんは娘達に対して放任主義なのかもしれない。


「これで心配な事は何も無くなったよね。だから泊まってもいいでしょ?」


「絶対涼也に迷惑はかけないようにするから」


「……ああ、もう。分かったよ」


 もはやこれ以上何も言えなくなってしまった俺は玲緒奈と里緒奈のお泊まりを許可する事しか出来なかった。

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