本編

プロローグ

第1話 帰り道で何か良いことないかな

 朝起きて朝食を食べてギリギリに学校へ行き、放課後になるまで普通に授業を受けて家に帰り、風呂の時間までソシャゲやエロ動画を見ながらオナニーして過ごして、夕食を食べてから適当に寝る。これが俺、八神涼也やがみりょうやの平均的な平日の1日だ。

 顔はわりと普通だが身長は167cmと少し低め、高校の成績は真ん中よりやや下、運動は球技が苦手でそれ以外はそこそこ出来るという、自分で言ってて悲しくなるがはっきり言ってあまりパッとしない人間だった。

 その上、友達もいないぼっちであり、部活にも所属していないため学校に居場所というものが全くない。勿論言うまでもなく彼女なんているわけがなかった。


「……俺も友達とか彼女がいたらちょっとは人生が楽しくなるのかな?」


 帰りのホームルームが終わった後、靴箱に向かいながらそんな事をつぶやいてみたものの、友達や彼女なんてどうやって作ればいいのか分からない。

 小学生の頃までは友達が勝手に出来ていたが、中学生になってからは出来なくなったのだ。他人と普通に会話はできるためコミュニケーション能力が決して低い訳ではないのだろうが、とにかく友達ができない。

 周りは普通に友達を作っているというのに、その普通ができない俺はとにかく自分自身が本当に惨めだった。

 友達すら作れない俺に彼女を作ることはもっと無理で、好きな相手ができたとしても一方的な片想いで終わる事しか無かったのだ。

 アニメや漫画のように突然女の子からモテるようにならないかなどと時々妄想しているが、世界がそんなに甘くない事を俺は知っている。

 そんな事を考えながら廊下を歩いていると、目の前を歩いていた女子がカバンの隙間から何かを落とした。落としたのは筆箱のようだったが気付かずにそのまま歩いて行こうとしていたため、俺はそれを拾って慌てて声をかける。


「なあ、ちょっと待ってくれ。カバンから何か落としたぞ」


「……もしかして私?」


 俺の声に気付いた女子は立ち止まってこちらをゆっくりと振り返った。その顔を見て俺は学内の有名人に声をかけてしまった事に気付く。

 その女子とは日英クォーターの美人双子姉妹として名を馳せている剣城里緒奈つるぎりおなだった。

 剣城さんは一卵性の双子の妹であり、全く同じ顔をした姉がいる。姉である剣城玲緒奈つるぎれおなは一応俺と同じクラスではあるが、ほとんど話した事がない。

 ちなみに剣城姉妹は髪型と性格が正反対であり、姉は明るい性格でロングヘア、妹はクールな性格でショートヘアとなっているようだ。

 

「ほら、これ。剣城さんのだろ?」


「本当だ。拾ってくれてありがとう」


 剣城さんは無表情のまま俺にお礼を言うと、そのまま筆箱を受け取り背負っていたカバンを床に下ろす。

 アニメや漫画であればこれをきっかけに青春ラブコメが始まりそうな場面だったが、残念ながらこれは現実だ。

 カバンの中に筆箱をしまい終わった剣城さんは、もう一度俺にお礼を言うとそのまま歩き去っていく。


「……普段起きないイベントが起きたし、もしかしたら今日はそういう日なのかも。帰り道で何か良いことないかな」


 その予感は悪い意味で当たるわけだが、俺がそれを知る事になるのはもう少し後の事だ。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「だ、誰か早く急いで警察と救急車を呼べ」


 帰り道の通学路で赤信号を無視した大型のバイクが横断歩道に突っ込んで歩行者数人をはねた事で辺りは騒然となっている。

 バイクはそのまま道路脇で停車したため俺を含めその場にいた誰もが不幸な事故だと思い込んでいた。

 だがなんとバイクから降りてきた小太りの中年男性はヘルメットを地面に脱ぎ捨てると包丁で集まっていた野次馬達を次々に襲い始めたのだ。

 狂気的な笑みを浮かべた男が楽しんでいるように見える様子から、無差別殺人事件を起こす事が目的だと悟り、俺はその場から急いで逃げようとする。


「きゃあぁぁぁぁ!」


 だが近くから聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえてきたため、自分の命が危険な状況だというのに思わず足を止めてしまう。

 声がした方向を見ると、なんとそこには剣城姉妹がいた。彼女達も巻き込まれてしまったようだが、逃げている最中に運悪く妹の方が転んでしまったようだ。


「り、里緒奈。早く立って!?」


「……ごめん走れそうにない。お姉ちゃんだけでも逃げて」


「里緒奈を置いて逃げる事なんて出来るわけないでしょ」


 どうやら足首を捻ってしまったようで走れないらしい。更に運が悪い事に男はそれを見逃さなかった。相変わらず狂気的な笑みを浮かべた男は2人を次のターゲットとしてロックオンしたようだ。

 2人が狙われてくれたおかげで俺は何とか逃げる事ができそうだった。今の状況では多分2人を見捨てたとしても誰も俺の事を非難しないだろう。


「いや、見捨てるなんて出来るかよ」


 だが俺は2人を見捨てるという選択肢はとても選べそうになかった。下手すれば死ぬかもしれないが、女の子を見捨てるという選択は俺の中にあった男としてのプライド許さなかったのだ。

 もし死ぬ事になったとしても美少女2人を守って死ぬんだから最高にカッコいいに違いない。だから俺は包丁を振り下ろそうとしていた男と剣城姉妹の間に間一髪で割って入った。

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※本作は『俺が超絶ヤンデレな幼馴染に精神を破壊されて堕ちるまで』の続編となっています。読んでなくても大丈夫ですが、読んでいればより楽しめる思います。

ちなみに完結済み10万文字程度です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330652961717184

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