序章 革命、始動。

第1話前編 革命の白日

【ギルド:ブナジアムンカ】

 彼らがいる街――【レヴェル】にある広場。その中央にある、石レンガなどを中心に造られた建築物。

 三階建てではあるものの、二階層は通路に近い。一階層は食事処や交流場のようになっていてる。座席がいくつもあり、壁際には本棚や掲示板、装飾などもある。大きな扉の出入口の反対側に受付窓口がある。

 

 ツムグは受付にて魂札ライセンスを見せながら書類を記入つつ、魔法陣からアンデッド達の遺品を受付員に確認してもらう。


「はい、クエスト完了です。こちら、クエスト達成金1,500ラプテ、アンデッド7体討伐報酬1,050ラプテです。浄化等は済んでいるようなので、回収した遺品はこちらでお預かりいたします。」

「お願いします。」

「文献ですが、機関の方にダッシュさん名義で申請したところ承諾されたので、ダッシュさんの拾得物として扱って構わないとのことです。書類では所有者をダッシュさん、保証人をツムグさんにしています。」

「はい、ありがとうございます。」


 軽く会釈をして、貨幣と控え等の書類、そしてボロボロな分厚い本を持ってその場を離れる。

 こっちに歩いてくる途中、数人の冒険者達に声をかけられ、「おう」と手を向ける。冒険者達は挨拶なのか、ご飯を誘ったのかわからないけど、なぜかツムグはアタシを指差す。するとその冒険者達は慌てた素振りを見せ、苦笑いを浮かべてそそくさと受付へ行く。うん、あとで撃とう。


「申請通ったぞ。ほい。」

「あ、ありがとっ……あの、と、図書館行きたいっ…」

「おう。」


 ダッシュはボロボロな本を受け取り、右腕にかけていた透明マントを広げ、被るように羽織る。

 アタシは微笑みながらツムグに近付き、腕を絡める。ダッシュが彼の背中を優しくトントンと叩く。彼は二人に対して「離れるなよ。」と言って、出口へ歩き始めた。

 その際、とある声が耳に届いた。


「なんで…あんな弱職が…」

「随分といい御身分だな…」

「楽して稼げそうな荷物持ちだよな…チッ…」


 彼をよく知らない新人か、あるいは積極的に知ろうとしない者か…アタシら、というより彼を卑下するようにそしっている。

 問いかけるように彼の名を呼ぶが、「いや、いいよ。」と止められた。とくに表情をしかめるわけでもなく、ほら行こうと腕を引く。アタシは絡めていた腕に少し力を込めながら、静かに頷いた。多分ダッシュも何か言おうとしてたけど、言い淀み、ツムグの後ろに静かに着いている。


 レヴェルの街。ギルドの広場を中心に、半径約10キロメートルの街が広がっていて、道路は広場に集まるように、円形に9本ほど設置されている。その内の、北北西側の道を歩いて図書館へと向かう。

 ちなみに図書館からさらに先に向かっていくと、かつて多くの人々を救った勇者達が通ったと言われる『勝利の門』がある。

 街は賑わっており、今真っ昼間ということもあってか香ばしい肉の薫りや、スイーツの香りが立ち上る。

 すれ違う何人かが彼と挨拶や会話を交わす。アタシ達もいるからあまり長くは話さないとはいえ、流石に多い。


 しばらく歩くと、アタシも知ってる二人の顔見知りに声をかけられた。

 一人は朗らかな顔立ちの明るい茶髪の女性―ダイヤ、もう一人はキリッとした顔立ちの暗い茶髪の女性―スペード。

 彼が手をスッと上げて挨拶を返す。二人はスタスタとこっちに近付く。スペードは、彼と腕を組んでいるアタシの方をチラッと見る。


「今はヘルムだけか?」

「あっ、えーとダッシュが…この辺にいる。」


 彼女はそっかと返して、あぁそうそうと言いながら、彼のネクタイを掴む。グイッと引っ張り自身に寄せ、耳元で小さく呟く。


「また店来いよ。お前に会いたがってる奴多いから…な?」


 ダイヤもはっと思い出したように表情を明るくし、彼を見ながら少し速めに数回頷いた。彼がちょっと面倒臭そうに「あー、うん。気が向いたらね。」と返すと、スペードはパッとネクタイを離した。一歩後ろに下がりつ指を向けて、言質とったりというような声の調子で「絶対だかんな!」と念を押した。続けてダイヤも少し申し訳なさそうな、あるいは恥ずかしそうな声色で、「出来ればわたしのお店にも…」と付け加えた。

 彼は仕方がないなというような優しい微笑みを向けつつ、簡単な返事と挨拶をして別れる。

 腕を強く抱き締めながら微笑み、無言で彼の顔をじっと見つめる。


「なんだ。」

「詳しく聞きたいなぁ〜?」


 彼はスーっと息を吸いながら、絡められていた腕を引っ込める。何も言わずにいたけど、むしろそれが言っているようなもの。微笑みを消し、弓を構える。


「……よし、遺言は?」

「乗れダッシュ。ダッシュで行くぞ。」

「えっ」


 姿は見えないが概ねの場所は把握していたので、彼は振り向き虚空に手を伸ばした。よしいた!と少し大きな声で言い掴む。戸惑う彼女を持ち上げ、御呪バフを二つ自身に施した。素早い脚の切り替えでその場から離れていく。


「その脚、撃ち飛ばしてあげる!」


 しかし相手は狙撃手アタシ。距離を取れば不利になるのは当然彼だった。ダッシュに当たらないよう、変化軌道で彼へ矢を放つ。


☆☆☆☆☆☆


 少し進んだところにある、街中の森林公園。中にはいくつかの建物や井戸、灯りがあるものの、木々や湖、広けた場所など自然的なほとんどだ。奥の方に行くと、彼とアタシ、そしてテインの拠点でもある少し廃れた図書館がある。

 現在アタシ達の目的のひとつは、恩返しとしてその図書館に修繕費を寄付することであり、少しずつ資金を蓄えているらしい。


 さて、それはさておき現在。

 森林公園に入ってすぐのところにある木に寄りかかり座るツムグと、見下ろすアタシ、気まずそうに佇むダッシュ。

 ツムグの左脚には矢が一本刺さっており、ドクドクと血を流している。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

「ダッシュ、拘束お願い。」

「っ!?」

「おいせめて、矢ぁ抜いて治癒していいか……」

「……いいよ。」


 ダッシュが持っていた紐で患部の上を縛り、歯と歯を押し付け合うように強く噛みながら矢を抜き取る。流れてくる血の勢いが少し増す。それを押さえるように手を置き、『回復ヒール』と『活性化ガッツフレア』を施した。流れ出た血は戻らないものの、概ね治った。


ドッゴォォン


 話を続けようとしたら、轟音が聞こえてきた。図書館があるあたりから、巨大な樹木が上に向かい伸びている。現在あの位置にいて、このような芸当が出来る者に心当たりがあるかと言われれば、一人しかいない。アタシたちはそれを察するや否や、すぐに図書館へ向かうべく駆け出した。


「クロル、ダッシュのこと頼んだ!先に行く!」

「うん!話の続きは逃がさないからね?乗ってダッシュ!」

「っ!う、うっ、ん…!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る