Sempre
maria159357
第一音【to Ο+】
Sempre
第一音【to Ο+】
登場人物
碧羽 恭久 あおばゆきひさ
紫崎 龍路 しざきりゅうじ
柑野 巧 かんのたくみ
芥子乃 伯馬 からしのはくば
碧羽 典人 あおばのりと
出又 奎 でまたけい
宗良 廉也 そうられんや
水墨 一雅みなもくかずまさ
第一音【to Ο+】
それは、朝の10時ごろのことだ。
「おっ、あぶねぇな。何かあったのか?」
「誘拐事件らしいですよ!」
「そりゃ大変だな。頑張れよ」
男が金髪を揺らしながら歩いていると、また別の男とぶつかりそうになった。
「なんだよ、今日は慌ただしいな」
「子供がいなくなったって通報があったんですよ!!すみません、急ぎますんで!」
「あー、さっきの誘拐のことか?」
あっちでもこっちでも皆が走りまわっているのを横目にしながら、男は震えだした携帯を取り出す。
そこに表示されている名前を見ると、男は耳に当てて話し出す。
「どうした?」
『問題発生』
「典人、それだけで俺がその問題とやらが何かを分かるとでも思ってんのか?」
『思って無い。周りに人いるか?』
「あー・・・そういう内容か。ちょっと待て。場所変えるから」
そう言うと、男は近くにある資料室に入り、中に誰もいないことを確認すると、再び話し出した。
相手の男、典人が淡々とその発生した問題を話している間、金髪の男は髪の毛をいじりながら相槌も打たずにただ聞いている。
典人が一通り説明を終えると、ようやくここで口を開く。
「典人、他の奴らは動かせそうか?」
『動かせないって言っても、動かせって言うんだろ、芥子乃は。大丈夫。さっきからお前に指示されるだろうって、こいつらずっと待機してるから』
「そうか。なら、今からお前らにしてもらうことを話す」
芥子乃と呼ばれた男がそう言うと、典人は自分の携帯をスピーカーにして、周りにいる3人の男たちにも聞こえるようにする。
芥子乃が適当に指名して行動を支持すると、1人、また1人と指示された順番に部屋を出て行き、最後には典人が残った。
「俺は俺で探すから、お前はあいつらのフォロー頼む」
『わかった』
電話を切ると、芥子乃はまた別の番号を並べて通話を押す。
10回以上鳴ってようやく出た相手は、芥子乃の名前を聞くこともなく、耳を傾ける。
「俺だ。実は聞きたい事があってな」
『なんでしょう』
「あいつ、そっちに行ってねえか?」
『何かありました?』
「実は・・・」
芥子乃は、その電話相手に自分たちの周りで起こっていることを簡単に説明すると、相手はすぐに状況を飲み込んだらしい。
しかし、こちらには来ていないと言われると、もしも戻ってきたら連絡を寄こすようにと言われて、そのまま一方的に切られてしまった。
勝手にかけてきて勝手に切るなんて失礼な男だとは思うが、特にそれ以上話すこともないため、受話器を置く。
「・・・・・・」
電話を顎に数回当てて何かを考えている様子の芥子乃は、何を思ったのか、部屋を出ると食堂へ向かってカツ丼を食べたらしい。
芥子乃から仕事を任された男たちは、それぞれの仕事へと取りかかっていた。
おやつの時間を過ぎた頃、誘拐事件の方は犯人から電話があり、お昼頃に交渉したはずの車と金の用意がまだ出来ていないのかという文句の電話があった。
犯人が指定した車を用意していたのは、宗良という男だ。
「よっしゃ。これだけ積んでおけば大爆発間違いなしっしょ」
ふー、と額に汗を流しながら何をしていたのかは、良い子の前では絶対に言えないが、爆発物の設置だ。
彼の靴には特注で作らせたスパイクがついており、手にはメリケンサック。
なぜこのようなスタイルになったのかは分からないが、それが宗良という男なのだと理解するしかない。
「伯馬に連絡・・・典人の方がいいか?ま、どっちでもいいか」
結局典人にした宗良は、任務が終了したことを報せると、典人は特に褒めるでもなく、労うわけでもなく、ただただ「ああ、そう」とだけ言って電話を切った。
もっと何かあっても良いじゃないかと、もう一度電話をかけてみるものの、すでに電源を切られてしまっているのか、それとも本当に一瞬で電波の届かない場所に行ってしまったのか、通じる事は無かった。
肩を落としながらも、宗良はめげずに本部へと戻る。
その頃、別の依頼を受けていた水墨という男は、自作の特別なセキュリティーシステムを使って何かを調べていた。
すると、ワイヤレスの耳にかける電話がかかってきた。
「・・・何」
『俺俺!』
「人違いです。切ります」
『嘘だろ!?俺だよ一雅!廉也だよ!』
「五月蠅いから切る。俺今芥子乃に頼まれてことやってるから」
『まだやってんの?俺なんかもう終わらせた・・・』
耳元でわんわんと話しかけてくる宗良が煩わしくて、電話を受けた水墨は強制的に電話を切った。
またしても宗良から電話がかかってきたようだが、面倒臭いためまた切った。
セキュリティー部門のプロも沢山いるものの、誘拐犯の居場所は未だ特定できておらず、逆探知も上手くいっていないらしい。
カタカタとパソコンをいじっていると、宗良とは異なる番号からかかってきたため、それにはすぐに応じる。
「何か」
『現状報告しろ』
「命令口調という圧力で過呼吸になった部下のことを忘れたのか。そういうのは今の若い奴らには通用しない」
『口答えはいい』
はあ、と電話をかけてきた相手、芥子乃に聞こえるようにわざと聞こえるようにため息を吐いた後、水墨はとりあえず今わかっていることを話す。
すると、芥子乃はそこにいるのであろう誰かに何か指示をしていた。
芥子乃からの電話を切ると、水墨はまたパソコンに目を向ける。
夜9時になる少し前。
某ビルの某部屋に、男が現れた。
エレベーターもあるが階段を使って上階へと上って行くと、辺りに誰もいないことを確認して、迷わずに向かった部屋のチャイムを鳴らす。
中からは声も聞こえず誰も出て来なかったが、もう一度チャイムを押してみたのだが誰も出てこなかったため、急いで作った鍵を穴にねじこむ。
くるりと回せば簡単に開く。
そして部屋の中に入ると、そこには何やら鉄のような臭いがした。
部屋の奥へと進んで行くと、そこには1人の男が倒れていた。
血まみれになっている男を横目に、その男の部屋にいる小さな身体を抱えると、自分の痕跡を消すようにしながらその場を後にする。
翌日11時ごろ、芥子乃と典人は誘拐事件の方に狩り出されていた。
とはいえ応援で、特に自主的に何かすることもなかった。
「車と金は用意出来た。どこに持って行けばいい?」
犯人からかかってきた電話に、交渉人は要求された車と金を渡す時間や場所などを聞いていた。
その時、交渉人による時間の引き延ばしが上手くいったようで、逆探知に成功。
犯人は移動しているらしく、その周辺に刺捜査員たちが向かうこととなった。
「典人」
「わかってる」
12時半―
指定された時間と場所に怪しい男が現れると、車の中に身体を押しこんだところで捜査員たちが一斉に男に飛びかかる。
単独犯であることは調べがついていたし、犯人の身元さえ分かれば人質をすぐに助け出せると思ったようだ。
「犯人確保!!」
犯人と思われる男が逮捕されている時、芥子乃と典人も犯人に近づいていた。
そして担当がその男を連れて行くと、芥子乃と典人はその場から何も言わずに去って行き、何かを持ったまま水墨のもとへと向かった。
「大丈夫か?勝手に持ってきて」
「平気だろ。スリされたことにも気付かないなんて、犯罪者としてどうかと思うが」
「普通気付かないだろ。やられて気付くのは同業者くらいだ」
勝手に持ち出したそれを水墨に渡すと、水墨はそれを受け取り、パソコンにつないで何かしていた。
「芥子乃と碧羽が狩り出されるとは思ってなかったけど、犯人捕まったの」
「ああ。無事に、な」
犯人と思われる男は誘拐などしていないと否認しているようだが、麻薬の売買をしていたということで、ひとまず再逮捕された。
誘拐に関しての供述はしておらず、麻薬を売りにあの車に行っただけだということだったが、男の部屋を家宅捜査しても何も出て来なかったそうだ。
もしかしたら共犯者がいたのでは、という警察の捜査に疑念を抱くマスコミ報道が流れていた。
翌日、14時を過ぎた頃。
芥子乃たちはとある場所へと来ていた。
そこは孤児院で、扉を数回叩くと中から1人の女性が現れた。
黄土色の短い髪の毛に、片目は髪で隠れているが包帯でまかれているようだ。
首から下にも全部包帯で巻かれているが、芥子乃はそこに関しては知っているのか興味がないのか、特に何も聞かない。
女性も芥子乃のことを知っているらしく、誰だ、といったような質問をすることは無かった。
「なんでしょうか」
「ガキはどこだ」
「・・・・・・」
少し緊迫した空気の中、何か二人で話しをしていたかと思うと、芥子乃はいきなり男たちを孤児院の中に送り込む。
女性は抵抗をしているようだが、男が女性の動きを封じ、中から子供たちを次々に外へと連れてきて、大型の車に乗せて何処かへと移動させていく。
「おい、こいつは檻ん中にぶちこんどけ」
芥子乃の一言で、女性は別の車に乗せられ、何処かへと連れて行かれてしまった。
まだ綺麗な研究所へ着くと、そこには沢山の子供達と、他にも何やら人間とは思えないような姿形をした生き物が拘束されていた。
孤児院から連れて来られた子供達は、そこに着くと最初こそ楽しそうにしていたが、その謎の生き物の拘束が解かれてしまうと、顔を引き攣らせて泣きながら走りだす。
しかし、子供達がいるところと芥子乃たちがいるところには透明の仕切りがあるため、子供たちが助けを求めてくるのを、芥子乃始め、研究職員たちも見ているだけで何もしない。
目の前で起こる出来事にも、誰も驚く様子などない。
がた・・・
「・・・!!」
小さな物音が背後からして、いち早く気付いた出又が銃を構えると、そこには見覚えのある男がいた。
「あれは確か・・・」
出又は許可を待たずして銃を撃ち続けるが、男はひょいひょいと軽やかに銃弾を避けながら出口へ向かい、急いでゲートを閉めるように指示を出したものの、後少しのところで逃げられてしまった。
急いでゲートを開けて追いかけようとしたが、ゲートを開けるには色々と手間がかかるため、諦めた。
「みられたな」
「どうする?」
典人、出又、宗良、水墨の4人が芥子乃の方を見ると、芥子乃は当然だというようにこう告げる。
「あいつらだ。抹殺しろ」
何の感情も含まずにそう言うと、4人は互いの顔を見るだけだった。
一旦化物たちを拘束すると、子供たちとの仕切りを外し、子供達を救助というのか、宥め始める。
逃げようとする子供もいたのだが、それを全員捕まえると、おやつがあると言って別の部屋に連れて行った。
その日の夜、何処かの建物が放火されたと通報が入った。
すぐに消防車が向かったそうだが、道幅が狭く難航、全焼してしまったという。
そこに住んでいた20名以上の遺体が焼けた状態で発見され、歯型鑑定がされたらしく、全員身元が判明した。
「さて、次はあいつだな」
その時、捕まえた女性の取り調べをさせていた担当者から連絡があり、トイレに行きたいと言うから連れて行ったら逃げられた、というものだった。
「馬鹿が。すぐに見つけ出せ。逃げるようなら射殺していい」
とは言ったものの、芥子乃はあの女性が何処に向かうかの検討がついていた。
すぐに水墨に車を用意するよう伝えると、典人たちにも連絡をしてその場所へと向かわせる。
目的地に着いたのは14時ごろのことだ。
「よし、着いた。あいつがここに来る前に絶対に捕まえろ。んでもって、抵抗するならさっさと殺しちまえ」
「怖いねぇ、拍馬は」
「変人だからね」
しかし、状況は一変した。
形勢逆転、とまではいかないかもしれないが、追い込まれたことに変わりは無い。
「おかしいのは俺だけじゃない!!」
銃をそいつに向かって撃てば、そいつの正体が明らかになった。
おかしいのは俺じゃ無い。
それから少しして、大きな音が響く。
建物が崩れていき、どんどん呼吸が出来なくなって、意識が遠のいて行く。
しかしそんな中、深夜にそこから這い出てきて、歩いている姿があった。
取れてしまった腕と、身体から出てきてしまったのであろう臓器のようなものを腕に抱えながら、影は歩く。
ふと、何処からか笛の音が聞こえてきた。
何だろうと思って振り向いてみれば、そこには蛇の影が見える。
それ以来というもの、彼らの姿を見た者はいないそうだが、事実はどうなのか、それは誰にもわからない。
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