第4話偽りの神様




黒市場

偽りの神様


哲学者とは何か。つねに尋常でない物事を経験し、見聞し、猜疑し、希望し、夢見る人間だ。   


ニニーチェ「善悪の彼岸」




































 第四商 【 偽りの神様 】
























  「なんだ、トムか。静かだから気付かなかった。どうした?今日は何を買いに来たんだ?」


  トムと呼ばれたその小さな少年は、考える様な仕草をしながら、自らやってきた小さな店の中を歩き回る。


  うろうろとしたあと、トムは店のおじさんにコレ、と言う様に指をさす。


  「ああ、いつものな。それと・・・?今日はジャムも買って行くのか。割れやすいからな。割れないように、気をつけて持っていくんだぞ」


  おじさんはトムの指差したパンとジャムを棚から取り出すと、ビンが割れないように紙袋に包み、さらに袋にいれてくれた。


  ほい、とトムに差し出すと、トムはお金を丁度払って帰っていく。


  店の奥の方から女性がやってきた。


  「トムが来てたのかい?」


  「ああ」


  「あの子も健気だよお・・・。小さいころに声が出なくなって、それからすぐに両親も病死しちまって・・・。まあ、あんなに素直に育ってくれたのが、せめてもの救いだね」


  「本当にな。少しでも手助けしてやれればいいんだけどな」






  トムは今年で八回目春を迎えた。


  まだ大人の胸よりちょっと低い身長だが、その存在は誰もが知っていた。


  声が出ないトムだが、毎日明るく生きていた。


  風の音が好きだ。鳥の唄が好きだ。空の色が好きだ。木々の匂いが好きだ。


  声が出ないからと言って人と触れることを怖がることも無く、自然と共に楽しみながら日々の生活を送っている。


  小さいころ、といっても今でもまだ充分小さいトムだが、両親を亡くしてからどうやって生活をしてきたのか、簡単に説明してしまおう。


  両親が亡くなってから、トムは最初、親戚の家を転々としていた。


  しかし、話すことのできないトムをどうやって扱うべきかわからないのか、トムは一人、親戚に渡された古家で住むこととなった。


  生活に必要な最低のものは揃っていたが、それでも、一人でいる空間であることに変わりはなかった。


  太陽が出れば外に出て走りまわり、雨が降れば傘をさして水たまりで遊んだ。


  それでも、食べ物はそこを尽くものであって、トムは地下でトンネルを掘る仕事を始めた。


  文句も反論も出来ないトムは絶好の労働者といってもよく、大人たちはトムをこき使うだけ使い、きちんとした賃金を払う事はなかった。


  それでも、一人で暮らすトムにとっては足りるものだった。


  そんなことを知りながらも、トムを助けてあげられないでいる街の大人たちは、出来るだけトムを助けた。


  慣れない道具で怪我をすれば、無償で治癒した。


  夜通し働かされていれば、寝かせてやれとみんなで言いにいった。


  お金が無くてお腹を空かせていれば、パンなりスープなりを与えた。


  どんなにきつい仕事でも、どんなに長時間働かされても、どんなに一人の時間が長くても、トムは笑顔を絶やさなかった。


  そんなトムだが、最近、気にしていることがあった。


  それは、“言えない”こと。


  両親がいないことに対して“寂しい”とも、厳しい労働を強いる大人に対して“嫌だ”とも、自分を助けてくれている大人に“ありがとう”とも。


  トムは絵を描くのが好きだ。話せないからこそ、自分の気持ちを絵で示すことが多かった。


  それで良かったと思っていた。








  ある日、トンネルを掘っていると、指図をしているだけの大人たちの会話が聞こえてきた。


  「あーあ。やっぱり前の女の方が良かったなぁ・・・」


  「またその話かよ。あれ?てか、お前の女って、なんか大変なことになったんじゃなかったか?」


  「ああ、そうそう。なんかイオに俺と一生一緒にいられるようにしてくれ、って頼んだらよ、女としての遺伝子を採られちまったみてーで。ま、最初はふざけてそんな話してるのかと思ったけどよ」


  「まじなのかよ、あの噂って・・・。俺もちょっと頼みてーことあったんだけど、やっぱり危ない橋は渡るもんじゃねーな」


  「石橋とかつり橋とか、そんな次元の話じゃねーからな。ありゃ、ぺらっぺらの紙の橋だよ」


  「言えてる」


  ―イオ?


  初めて聞いたその名に、トムは首を傾げながら、額に出来た汗を拭く。


  仕事が終わったのは、空が真っ暗闇に包まれた真夜中のことで、トムは自分よりも先に帰って行った大人の一人に近づく。


  ちょいちょい、と裾を引っ張れば、鬱陶しそうにトムを見る。


  「ああ?なんだよ」


  口をパクパクさせてみれば、それは当然伝わらない。


  トムは突然地面にしゃがみ込むと、足下にあった石ころを手に取り、土になにやらを書き始めた。


  それを見て、なにかをわかったのか、大人は「ああ」と返す。


  「もしかしてお前、イオんとこに行こうとしてるのか?」


  コクコク、と大きく首を上下に動かして頷いてみせたトムの目は輝きに満ちていた。


  すると、いきなりトムの頭をぐいっと引っ張って自分の顔の前にトムを持ってくると、眉間にシワを寄せて笑う。


  「止めとけ。お前なんてあいつに支払うものがねーだろ。あったとしても、命取られんのがオチだな」


  そう言うと、掴んでいたトムの頭を地面に向けて放り投げ、家の中に入って行ってしまった。


  トムはもとからそんなに綺麗でも無い服に着いた汚れを取ると、いつも寝ている自分の古家へと戻っていく。


  どうしてもイオに会いたくなったトムは、それからというもの、何回も何回もイオの居場所を聞いてみる。


  しかし、決まって答えは一緒。


  「あいつに居場所はない」


  まるで自分のようだと、トムは毎日をすごしていた。








  「おい、てめぇ!!!何をさぼってんだよ!!!!」


  雨が降り続くある日、トムは仕事中に倒れた。


  はあはあ、と肩で息をしていて、どこからどう見ても熱があるのは分かるのだが、そんなこと関係ないと言わんばかりに、トムを無理矢理立たせようとする。


  それでも身体に力の入らないトムは、また地面に倒れてしまった。


  「くそがきが!!」


  「ちょ、ちょいと止めてあげな!この子、きっと熱があるんだ!今日は帰してやれよ!」


  「そうだ!俺達がその子の分まで掘る!それでいいだろう!!」


  トムに蹴りを入れようと足を動かした男に、他の労働者が一斉に声を荒げる。


  「ああ?てめえらが?」


  男が睨みをきかせれば、ごくりと生唾を飲み込む者もいた。


  「まあ、いいじゃねえか。明日もこんなんなら、もう使い物にはならねえよ」


  男の肩をぽん、と叩きながら、もう一人の男がやってきて宥めると、男は他の労働者たちに指図をしたあと、トムを担いだ。


  トンネルの出口まで来ると、トムを雨の降る寒空の下、投げた。


  降りしきる雨の中放りだされたトムだが、熱もあるのに、一人で家まで帰れるはずもなかった。


  誰に助けを求められることも出来ず、トムはゆっくりと目を閉じたー








  「?」


  身体が温かくなってきたのを感じ取り、トムは大きな目を開ける。


  ゆっくりと身体を起こしてみると、そこは見たことのない狭いがなんとも居心地の良い場所だった。


  小さなテーブルの上にトン、と出されたスープ。


  それが出された方に顔を向けて見ると、そこに立っていたのは見知らぬ男二人で、トムは二人の顔をあっちこっち見る。


  「大丈夫?まだ熱あると思うから、もう少し寝てると良いよ」


  「・・・・・・」


  一人の男は優しそうに微笑むが、もう一人の男はフードを被っていてあまりトムの方を見ようとしない。


  「君、名前は?家は何処?送っていくよ?」


  男の問いかけに、口をパクパクさせているだけのトムの姿に、二人の男は察する。


  「もしかして、話せないのかな?」


  「・・・・・・」


  トムが精一杯自分の名前を言ってみるが、男はうーん、とずっと悩んでいるだけで、“トム”という二文字を伝えられずにいた。


  「トム」


  「え?」


  「・・・・・・そいつの名前だ」


  「わかるの?」


  「口の動きを見れば分かる」


  「さっすがイオ」


  「ヴェアルは相変わらず馬鹿だな。飼い主を見習え」


  「飼い主・・・?って、もしかして、シャルルのこと言ってる?え?俺って飼われてる?そんなわけないだろ?!」


  どんどんヒートアップしていきそうな二人の口論に、トムは見動きをして止めに入る。


  すると今度は、暗くて見えなかった天井からバサバサと何かが飛んできて、トムの前を通っていく。


  何かはよく見えなかったが、黒くて小さくて羽根の生えた生き物のようだ。


  「イオ、貴様は最近、人間に情を持っているように見えるが」


  「・・・・・・そんなことはない」


  「シャルル!俺、飼われてないよな?な?」


  「この小僧をどうする心算だ?このままノコノコと家まで帰す心算じゃないだろうな?」


  「帰すが、それがなんだ」


  「なんだじゃないだろう。どうせ貴様のことを周りの連中にベラベラと自慢話のように話すだけだ。一生口が聞けないようにするか、存在そのものを消すべきだな」


  「お前はヴェアルの温厚さと馬鹿さを少しは見習うべきだな」


  「馬鹿って言った?俺のこと馬鹿って言った?」


  益々過激になっていく空気に、トムは枕を誰かに向かってなげる。


  それは当然のようにヴェアルと呼ばれた男の顔に、見事にクリーンヒットすると、イオとシャルルは何事も無かったかのように話を元に戻した。


  そしてそれよりもトムが気になったのは、今自分の目の前にいる男が、“イオ”であるということ。


  口を動かしてまた“イオ“と何度も言ってみれば、イオはトムの方を見る。


  瞬間、ドキリとした。


  気にしてはいなかったというか、よく見えていなかったのだが、イオは赤い目をしていた。


  その赤い目は薄暗い部屋にぼうっと浮かぶように光っており、蝋燭の灯から時折ちらついて見える髪の毛は、どうやら紫色をしているようだ。


  「なにやら、貴様に頼みがあるようだな」


  「俺の噂を聞いているのなら、分かってるだろう。お前は何を差し出せる?」


  真っ直ぐに目つきの鋭い二人に見られると、トムはあ、あ、と考える。


  そして、男に言われたことを思い出す。


  また大きく口を動かしてみると、鈍いヴェアルにまですぐに理解出来た。




  “い”   “の”   “ち”




  確かに、トムはそう言った。


  「小僧のくせに、一丁前のこと言えるんだな」


  シャルルと言う男の方に顔を向けて見ると、こちらの男も目が赤かった。


  もう一度イオの方に顔を戻すと、イオはトムの顔をじーっと見たあと、赤い目がより一層赤くなる。


  心臓を何かが通ったような気もするが、それは一瞬で終わった。


  「いいか。例え声が出せるようになったとしても、死んだら無駄になる。分かるな?それに、お前の命に興味はない。そういうものは、交換品として成立しない」


  しゅん、と肩を落とすトムに、イオは付け足す。


  「どうしても声が欲しいと言うなら、命じゃない別のものを貰う。それでお前の人生がどうなろうと、俺は責任を持たない」


  ぱあっと顔を明るくしたトムは、冷めてしまったであろうスープを口に運ぶ。


  ニコニコと嬉しそうにしているトムを見ながら、シャルルは「ふーん」と言いたそうな顔つきでトムを見ていた。


  スープを飲み終えると、トムはまた静かに寝てしまったため、ヴェアルがトムを担いで家まで送って行った。


  その背中を見た後、シャルルはトムが寝ていたベッドに腰掛けると、優雅に足を組む。


  「それにしても、貴様にしてもヴェアルにしても、人間なんて放っておけばいいものを。何故に手助けするのか、全く以て理解不能だ」


  「別に手助けをしてるわけじゃない」


  「してるも同然だろう」


  「その代わり、あいつらの人生は奈落に落ちた。それはこれからも変わらない。欲は人を醜くし、愚かにする。深いものであれ浅いものであれ、欲であることに変わりはない」


  「へー。ま、結果的にはそうだがな。相手の願いを叶える時点で、俺の理解を超えてることに変わりはない」


  ひょいっとベッドから立ち上がると、シャルルは蝙蝠を引き連れて天井の方にある小さな小窓から飛んでいった。


  そこから綺麗な満月が見え、それとともに強い風が吹いてきたため、イオの被っていたフードがぬげてしまった。


  「・・・・・・寒い」


  明るい夜空にうっすらと見える雲が、とても切ない。


  月灯りに照らされて、美しくも妖しく映える髪の毛と瞳が、イオの存在証明。


  そしてイオは、またフードを被った。








  翌日、トムは自分の家で目を覚ました。


  イオに会えたことが夢なのか現実なのか分からずにいたが、温かいスープの感覚は残っているため、トムはニコッと笑ってベッドから起き上がる。


  「トム、お前大丈夫か?風邪ひいたって聞いたぞ?」


  満面の笑みで笑いながら頷けば、みな安心したように頭を撫でてくれた。


  ―声が出せるようになれば、みんなにありがとうって言える。


  それだけを言いたくてイオにまでお願いをしたのだが、何を交換されるのかは分からない。


  しかし、イオは命には興味ないと言っていたから、まず死ぬことはないし、死ななければとりあえずはなんとかなる、そう思っていた。


  トムはまたその日から重労働をする日々を送る。


  自分と同じくらいの歳の子が何人かいて、重たいものを持って弱音を吐いていたり、怪我をして泣いていたりした。


  トムには出来ないことだ。


  小さいころから、泣き疲れるまで泣いたことも無いし、限界まで叫んだことも無い。


  「ガキ、それ終わったら井戸掘るのも手伝え」


  男に言われ、トムは笑って大きく頷く。


  井戸を掘る為に場所を移動し、またそこで男の指示をあおぐ。


  もうすでに随分と深くまで掘ってあった井戸だが、まだまだ深く掘るらしく、もう夕暮れになるというのに、トムと数人の子供で掘り続けろと言うのだ。


  勿論、トムは文句も言えるわけないため、せっせと掘っていた。


  夜中に一度休もうと井戸から上がっている途中、手を滑らせて井戸の底に舞い戻ってしまった。


  「―――!!!」


  誰かに自分の名前を呼ばれたような気もするが、そんなこと気にしている場合ではない。


  


  死ぬ




  そう思ったが、背中に感じた感覚は痛みでも土のものでもなく、ふわっとした誰かの温もりだった。


  恐る恐る目を開けてみると、そこには真っ赤な目をしたイオがいた。


  にこっと笑いかけてみるが、イオはいたって無表情でトムを見ており、トムにこう言った。


  「自分の欲を、呪うんだな」


  次の瞬間、何かがシャットダウンされたように、真っ暗闇に包まれた。








  「トム!トム!」


  何度も呼ばれる自分の名前に、トムは重たい身体を動かす。


  「よかったー。落ちちゃったから、もしかして死んじゃったかと思ったよ」


  「トム、大丈夫か?頭打って無いか?」


  あ、この声は・・・


  いつも同じ労働場所で聞いている人達の声に安心したトムは、いつものように口だけを動かそうとした。


  しかし、いつもとは違った。


  「え?・・・トム、今・・・・・・」


  トム自身が感じた違和感と、周りの人達が感じた違和感。


  「だ、い・・・じょぶ・・・」


  「トム!話せるようになったのか!!!」


  「すごいな!!なんで急に!!!」


  「よかったよかった!!」


  回りのみんなは、トムが話せるようになったことを、まるで自分のことのように喜んでくれている。


  トムも一緒に喜びたかった。一緒に立ちあがって、一人一人に感謝したかった。


  しかしそれよりも、トムに襲いかかってきたのは、今までに感じたことのないほどの“恐怖”だった。


  「トム?どうした?」


  「なんか、変だよ?」


  「やっぱり、頭でも打ったんじゃないのか?」


  「医者に診せたほうがいいんじゃないか?」


  ずっと話せなかったからか、上手く声が出て来ないし、口が回らなくて言葉が選べない。


  輝かしい未来を夢見ていたはずだったトムだが、その少年は小さいころから声を出すことが出来なかった。


  少年は夢を叶えるために、決して手を出してはならない毒に手を伸ばした。


  その毒はとても綺麗な色をしており、全ての人間の興味や関心を惹くだけではなく、その味もまた甘かった。


  だから少年は、気付かなかった。


  それが、一瞬にして身体を蝕むほどの毒薬だったことを。


  「トム、とりあえず、医者に行こう」


  「そうだな。あと飯でも食って、元気だせ」


  「これからトムとお話出来るんだね!!楽しみ!」


  「いっぱい喋って、話す練習もしなくちゃだな!!!」


  みんなの嬉しい顔が、浮かぶ。


  「あ・・・ぼ、ぼく・・・」


  「どうした?トム」


  「ぼ、く・・・、・・・ない」


  「ん?どうした?どっか痛いのか?何か失くしたか?」


  「顔色が悪いぞ?気持ち悪いか?」


  「あ・・・あ・・・」


  ああ、もうこれは夢じゃないんだ。


  やっぱり僕は、自然の摂理に身を任せておけばよかったんだ。


  今僕はここにいるのに、今僕がここにいる証明はない。


  「な・・・で・・・」


  初めて、声を出して泣くであろう言葉が、まさかコレだとは。


  「見え・・・ない・・・。何も・・・見、・・・ない!!!!!」






  思ってもいなかったんだ・・・・・・








  「五体満足とは、実に幸せなことだ。それでも幸せだと感じないのは、実に不幸だ」


  話したいと願った少年の代償は、視力――――






  手足が無い。耳が聞こえ無い。口が聞けない。目が見えない。


  少年は、ただ一言伝えたかった言葉があるだけだった。


  それなのに、少年には何も見えなくなった。


  瞳の奥から輝いていた少年だったが、今ではどこを見ているのかも、何を感じているのかも分からない。


  なぜ急に話せるようになったのか、そして目が見えなくなったのか、街の人には分からない。


  幾ら治療をしようと試みても、全く効果がなかった。


  トムは以前よりずっとずっと暗くなり、笑顔を少なくなっていった。


  「命になんて興味はない。命を取ったら、人間は何も感じなくなる。痛みも、苦しみも、迷いも、絶望もな」


  少年の瞳から消えたのは、何も光だけではない。


  今まで見てきた太陽も、月も、星も、雲も、空も、鳥も、花も、風も、色鮮やかな風景を始め、お世話になったおじさん、おばさんたちも。


  美味しいパンもスープも、自分の姿も・・・・・・。


  「貴様も酷だな」


  「だから俺は手助けをしてるわけじゃないと言ったんだ」


  「そりゃそうだが。まあ、かの有名ななんとかゲールも、目が見えて無かったって言うしな。目が見えてなくたって、生きてる奴はいることだしな」


  「・・・・・・俺は人間を助けるためにいるわけじゃない。ましてや、崇められる存在でもないんだ」


  イオがそう言うと、シャルルは肩を揺らしてククク、と笑う。


  「死神ってわけでもねえし、そもそも、求めたものより小さい代償で足りるなんて考えが甘い!!!・・・とはまあ、そこまで貴様は言えないだろうがな。というか、そこまで関心はないってところか」


  「どうでもいいだろう。俺はもう戻る。お前もさっさと消え失せろ」


  「俺に指図をするな。言われなくても帰る」


  バサッとマントを広げると、シャルルは空高く飛んでいってしまった。


  イオもジメジメした場所の一角に座りこむと、目を閉じた。








  人間の欲は、底知れぬ。





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