自由の森に隠したもの
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自由の森に隠したもの
小学校が放課後になると、二人の少年が帰宅の途についていた。
一人は、見るからに元気そうな少年だ。
名前を
もう一人は、一見して寡黙な様子があった。
名前を、
「春斗、帰ろうぜ」
翔が明るい声で呼びかける。
春斗は嬉しそうに笑った。
すると、一人の少女が話しかける。
幼子ながら利発そうな顔立ちをした少女だ。
名前を
「ちょっと、二人共待ってよ!」
すると、二人は足を止めて振り返る。
「悪い、彩。俺たち、これから用があるんだ」
申し訳なさそうに言う翔に対して、彩は首を傾げる。
いつもなら、翔と春斗と一緒に帰るはずだからだ。
それなのに、ここ最近、彩を避けて二人だけで帰ろうとするなんておかしいと思ったのだ。
だから彩は尋ねる。
すると、二人はとぼけたようにする。
「俺達、一緒に帰ってないけど……」
その言葉を聞いて、彩は衝撃を受けた。
自分だけ除け者にされているような気がしたのだ。
「怪しい。あの二人、絶対何か隠しているわね」
彩は、あることを思いつく。
それは二人の後をつけることだった。
だが、学校を出て少し歩いたところで見失ってしまった。
なぜなら、二人が突然走り出したからだ。
そこで彩は、地図に二人の行動と移動個所を書き込みながら調べた結果、森の周辺で姿が消えていることが分かった。
放課後になると、彩は先回りをする形で森の入口を見張ることにした。
すると、案の定、翔と春斗がやってきた。
森に入ると二人は、森の中へと消えて行く。
彩は、そっと後を付けた。
二人は、木々を抜けて傾斜の向こうへと歩いて行く。
彩は見失いそうになり、少し慌てて駆け出す。
すると、傾斜の向こうに行くと彩は足を滑らせた。
地面に倒れ込む。
「もう最悪!」
彼女は立ち上がると、滑り降りた傾斜部にポッカリと穴が開いていることに気がついた。
少し覗き込むと、石段が続いていた。
彩が興味津々で覗いていると、突然穴の中から出てきた翔と目が合う。
翔は驚きの声を上げた。
すると、彩も声を上げる。
それは悲鳴ではなく歓喜の叫びだ。
彼女は、ようやく二人が消えた先の全貌を知ることになったのである。
「あ、彩……。なんで、ここに?」
翔は驚いていた。
穴の入り口に、続いて春斗が顔を出す。
「翔、春斗! 見つけたわよ。私を除け者にして、二人共、何をしてたのよ!」
彩は興奮気味に言う。
二人は、困った顔をしていた。
「クソ。バレちまったぜ。せっかく男だけの秘密基地を作ろうとしたのに……」
秘密基地という単語を聞いて、彩は目を輝かせる。
「秘密基地? 何二人だけで面白そうなことやってんのよ」
彩は、ワクワクしながら尋ねる。
すると、春斗が答えた。
「いいじゃない。いずれ、彩にも教えるつもりだったんだからさ……」
春斗の言葉を聞いて、彩は満足げな表情を浮かべていた。
そんな彩の様子を見て、翔は言う。
「いつから、付けてたんだよ」
翔は、彩に尋ねた。
「ここ数日前からよ。二人とも急に帰っちゃうんだもん。それより、この中どうなってるの? 見せてよ」
彩は楽しげに言う。
翔と春斗は仕方がないといった様子を見せる。
二人は、彩を連れて穴の中へ入った。
入り口は狭かったが、中は以外にも広くコンクリートで固められた短い通路があった。
その先に扉がある。
二人は扉を開ける。
そこは、八畳程の部屋になっていた。
地下室なのに部屋は明るく、天井にはLED照明が設置されていた。
「え!? どうして照明があるの?」
彩は不思議に思う。
すると、春斗が答える。
「自家発電だよ。近くにある小川に水力発電工作で使う水車を設置して、そこから電線を引っ張ってきているんだ」
春斗は得意気に話す。
彩は、部屋を眺める。
机や椅子が置かれている。
壁際には本棚もあり、そこには漫画雑誌にラジコンや携帯ゲーム機などが置いてあった。
すると、翔が自慢げに語る。
「へへ。凄えだろ。旧校舎の古文書を読み解いて、この場所を見つけたんだぜ。そして、俺達だけの基地を作ったのさ」
彼は誇らしげだった。
「あれは、ただのプリントだけどね」
春斗が冷静に突っ込みを入れる。
「雰囲気壊すなよ。ともかく、俺と春斗は、ここに防空壕があるのを発見。二人で掃除をして、家財の類は旧校舎の廃材を再利用して作ったわけだ」
翔の説明を聞いた後、彩は部屋を見渡す。
二人で整えた思えないほど立派だった。
「ねえ。私も入りたい!」
そう思った彩は、思わず言ってしまう。
「翔、いいじゃない。いずれ彩にも話す予定だったんだろ?」
春斗が翔に言う。
翔は、しばらく考えた後、渋々と言った様子で言った。
「まあな。俺たち友達だからな。でも、俺たち3人だけの基地なんだぞ。他の奴が入ってくると秘密基地の意味ないじゃん!」
翔の言葉を聞いて、彩は笑顔になる。
彼女は嬉しかったのだ。
3人は自由にできる遊び場を手に入れたことで、ジュースで祝杯を上げていた。
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