養護施設「自由の森」(詩集)

与方藤士朗

恵まれない子どもたちと、親代わりの「先生」たちの楽園

 私は、幼少の頃、「自由の森」で育ちました。

 ジユウノモリ? 何ですか、それは?

 養護施設といいまして、今でいう「児童養護施設」です。

 ああ、大昔の「孤児院」みたいなところですな。

 そうです。ただし、今はいわゆる「孤児」はほとんどいません。

 じゃあ、今その場所にいる子らには、親がたいていいるってことですね。

 まあ、そういうことです。被虐待児とか、いろいろ、おりますな。

 ところであなたは、なぜ、ジユウノモリに?

 ××県の福祉担当者の「措置」で、12年間ほどそこで過ごさせられました。

 ところで、そのジユウノモリとやらは、さぞかし、居心地がよさそうで。

 確かに、悪くはなかったとだけ、申しておきましょう。それ以上は・・・

 それ以上は?

 ノーコメントです!


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 まあまあ、そういわずに、その頃のこと、話してくださいよ。

 ノーコメント! 武士に二言はない!

 私ね、その施設のホームページ、拝見しました。

 あ、そ。それで?

 まさに、名は体(たい)を表すというじゃありませんか。

 あなた、何が言いたいのか?

 だって、そんな楽しそうな場所で子ども時代を・・・?


 てめぇ、死にてえらしいな?

 え?!

 わかりもしねえのが、さっきから何故わかった口をききまくっている?

 い、いえ、その・・・?!

 テメエのような外面しか見えん薄盆暗に、真実なんか追及できねえだろうな。

 だって・・・、たくさんの子どもと先生がいる、楽園、なんでしょ?

 それがテメエの浅はか見立てというのだ。スローガンを信じる薄馬鹿の典型が。

 同じ釜の飯を食った仲間って、言うではありませんか。

 そんなものは、浅はかを通り越して、下らん情緒論に過ぎん!


 まあまあ、そう怒らないでくださいよ。ぼく、あなたを応援しているんです。

 テメエに応援なんかされるようでは、終わっとるな、わしも。

 ところで、ジユウノモリの外の社会って、厳しいですよね。

 それは、テメエの能力だろうが。

 あなたのような方に論評してもらえるなんて。まあそのぉ~、照れるなあ。

 照れる前に死ね!

 まだ、死にたくないです。ぼくには、妻子もいます。我が子、かわいいです。

 あ、そ。だったら、死にてぇような口はきくなや。

 結婚生活って、いいですよ、なぜ結婚されないのです?

 テメエのようなクズの奨めるものに、よいものなどあるはずもないわ!


 最後通告。これ以上わしに物を抜かすなら、テメエ、法的措置とるぞ。

 そ、そんなぁ~。トモダチになってくださいよ。

 死ね。そんな言葉は、テメエの子女のお遊び会でほざいとけ!


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 ええか、よう耳かっぽじって聞いとけ。

 

 自由の森って名前の養護施設の中が子どもたちの楽園?

 子どもの頃は楽しかった?

 社会に出たら厳しい?


 よくまあ、そんな子どもだましのプロパガンダの出来損ないを並べよって。

 酒も飲まずに、よくまあそんなごみのような言葉で酔いくらえたな。

 あんなところの職員風情に、社会性などみじんもなかったな。


 テメエの自由と引換に、はした飯恵まれて住居与えられて、

 それにいくばくかの給料と称する金ももらえて、

 ついでに、福利厚生とやらも恵んでもらって・・・。

 それで、仕事と称して家庭と銘打って、子どもを支配する。


 おまえら職員には、さぞかし「ジユウノモリ」だったのだろうよ。

 わしら児童は、そのための「出汁」。

 おまえらを食わすための国からの措置費を引出す、「金づる」や。


 いつかおまえら、ほざいておったな。


 この「自由の森」は、温室のような場所。

 社会に出たら、一人で何でもやっていかなきゃいけない。

 でも、結婚して家庭を築けば・・・。


 おまえら風情が「温室」などという言葉を使うな!

 栽培農家に失礼にも、ほどがあるわ。

 おまえらのほざく安っぽげな社会論など、無料(ただ)でもいらんわ。

 一人暮らしは寂しい? 家庭を築けば癒される?

 あ、そ。群れるしか能のないクズには、さぞかし、地上の楽園だわな。

 恵まれない子どもたちと親代わりの「先生」という大人らの、楽園、ってか。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 ぼく思うにね、先生たちも、あなたを憎くて対応していたのではないと。

 人の内心など、知ったことではない。論評の要などない。

 待ってください! 先生たちは、あなたのためを思って・・・。

 ためを思えば免罪符か? ずいぶん安っぽげな免罪符やな。

 だって、学歴がなくても、大学に行けなくても・・・

 人間としてよければ、ってか?

 はい。そうじゃないですか。この現代社会・・・

 やかましい! どうせテメエの社会論など、聞く値打ちなどないわ。

 そんな・・・。寂しい話です。

 くだらん郷愁論をこれ以上述べても無駄だ。

 話せばわかるというではありませんか、もう少し、お話を・・・

 どっかの政治家の猿真似さらすな! 問答無用!

 !!! !!! !!!!!!!


 おねがいです・・・、もうすこしだけ・・・

 もはや貴殿の話を聞く必要は、ない。以上。じゃあな。


 下人の行方は、誰も知らない。(芥川龍之介「羅生門」最後の一文より)

 ??? ??? ???????


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 あんたを救うものは、もう、宗教レベルの救済しかない。

 そうですか。

 そうです。並のアドバイスなど、くその役にも立たんでしょう。

 ま、そりゃそうでしょう。

 結婚して家族を作ってとか、ね。

 そりゃ、最悪の悪手ですわ。不幸になる人間を自ら増やすこともない。

 あんた、よくわかっておるではないか。

 ええ。テメエのことも満足にわからん無能低能が多すぎるのです。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 嗚呼、また、総括と称して人を殺してしまったかもしれぬ。

 だが、救いもある。

 これは不能犯。刑事事件として立件されようもない。

 そればかりでは、ない。

 殺された側も、殺されたという認識もないし、物理的には傷ひとつ・・・、


 まあ、それはいいだろう。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 自由の森。そうか、あの言葉には少しばかり、救いもあった気がする。

 こんな、私にも、な。


 あれはその実、「自由への森」だったのか。

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