基本無表情な幼馴染がいつでもどこでも猛攻を仕掛けてきます。

おきて

プロローグ

 みんな〜! はじめましてっ!

 私、池野遥いけのはるか! 花の高校一年生!


 いや〜、今年もあと半分を残すところ。教室の窓の外を見ると校庭にある木の葉っぱが赤く色づいちゃってもう、秋だなぁ〜って感じだよね〜!


 そんな紅葉狩りにぴったりな今日この頃、みんなに紹介したい人が二人います!


 一人目は、今まさにガラガラと戸を開けて教室に入ってきた女の子!


 腰まで流れるストレートの黒髪に、平均を遥かに下回る身長!


 二つの黒い宝石のような輝きを持つ瞳がはまっている、無表情であっても可憐すぎる顔!


 そして何より!


 クラスのみんな(主に男子)の視線を引き寄せてやまない、大きすぎる胸部装甲! 

 ん〜そうだなぁ……ここはあえてスケベにデカパイと呼ばせていただこう……ぐふふふ!


 そんな男の子の夢を体現したかのような身体の女の子、雛瀬晶ひなせあきらちゃん!


 ちなみに腰は細いしお尻もきっちりとむちむちしてるし向かうところ敵なしって感じの子です!


 正直……女の私でも心のち◯こが……その……下品なんですが……えへ……勃っちゃいますねぇ……

 



 さてさて、我がクラス1年F組の所属ではない彼女ですが、その身長に見合わないデカパイを揺らしながら窓際の席の一つへと歩を進めます。


 そしてそこにいるのは!


 身長は平均より少し下、顔面偏差値平均程度の黒髪の男の子!


 最近男色家ともっぱら噂の相沢知懐あいざわちなつ君!


 え、なんでそんな噂がって?

 んふふ〜、それはねぇ〜……


「……ね、ナツくん」


 っと、いけないいけない。どうやら晶ちゃんがいつも通りアクションを起こすようなので、こちら見ていきましょう!


「……どした、晶」


 肩をつつかれて読んでた本をしまった知懐君は、そのまま晶ちゃんの方に顔を向けます。


「……わかってるくせに」


 いじらしくそう言って、座ったままの知懐君の膝上に当然のように晶ちゃんは跨ります。あ、ちなみにほぼ対面◯位なので晶ちゃんのおっぱいが知懐君の胸板付近でそれはもう大変なことになってます、はい。


 そしてそんなとんでもない体制のまま……っ!

 

「……ね、いつになったら、ボクをキミのモノにしてくれる?」


 で、出たーーーっ! 晶ちゃんの伝家の宝刀、『キミのモノになりたい』だーーーっ!


 やや舌っ足らずの幼気な声に、無表情であっても熱すぎる視線を知懐君に注いでの猛攻!


 その余波はこの教室全体に広がっていて、男子からも女子からも「俺もああなりたいっ……」「シテ……コロシテ……」「イけっ!挿せーっ!」などという呪言祝言が飛び交っております!

 

 そんな彼女に切り返すは知懐君! はてさて今回はどんな――

 

「いや、しないから」


 で、ででで出たーーーっ!?

 知懐君のスペシャルムーブ、『表情筋無変動返答』だあぁぁっ!


 これまで数々の晶ちゃんの心技体全てを活かした猛アタックを難なく受け流し続ける晶ちゃん特攻の秘技っ!


「…………いじわる」


 ぐほぁっ……っ!? 晶ちゃん……その顔はダメだよ……雌だ……雌の顔だよぉ……


 あぁダメ……私のほうがキュンキュンしちゃうよこれはぁ……


 はてさて、そろそろ皆さんはこのお二人の関係性について気になってるんじゃないかなぁ?

 それでは説明しよう!

 この二人は実は――――






「なに書いてんだ?」

「うひゃぁっ!?」


 人の少ない教室の中、小さな悲鳴が響く。

 うだるような暑さは既に消え、冬に向かってなだらかに気温が下がっていく今日この頃。

 俺は後ろの席にいる、やや気持ちの悪いにやけ面の池野遥に声を掛けた。


「ちょ、ちょっと、脅かさないでよ知懐君!」

「そんなに集中して何書いてたんだよ」

「え、いや、その……」

「隙あり!」

「んにゃっ、ちょっ……!」


 俺は彼女の机の上にあったノートを掻っ攫い中を検める。ちなみに、どうせ表紙には「妄想現実混同的解釈Ver.〇〇」って書かれてるのを俺は知ってる。

 ……ホントは知りたくなかったけど。

 

「はぁ……お前また……」

「ご、ごめんなさい……その……」

 

 中身を確認すると、そこには俺と幼馴染である雛瀬晶との、日常的に行われているやり取りの一部が、下品な遥の心情とともに書き記されていた。

 やっぱりな、と思いながらノートを閉じて遥の机に置く。

 やっぱり、というのはこいつは初対面の時からこんな感じの最低オブ最低、下品アンド下品、最悪トゥ最悪な女子生徒だったから出る感想にほかならない。

 

「やっぱり、デカパイのくだり…………みんなのオ◯ペットっていうのも書いたほうが良かったよね!」

「ホントに最低だよお前」

 

 ついでにホントに最悪だよお前。


「笑顔でそんなこと言うなよ…………ん?」


 ふと、肩をつつかれる感覚がしたので、そちらの方を向くと。

 

「ナツくん……かえろ?」

「あぁ、晶」

 

 そこに立っていたのは小学生以来の幼馴染、雛瀬晶だった。

 

「……ハルちゃんとお話中、だった?」


 晶はいつも通りの無表情のまま、潤んだ黒い瞳をちらりと遥の方に向けて聞いてくる。


「いや、大した事じゃない」

「大した事だよ! 私の備忘録に文句つけてくれちゃってさ! ほら! こんなにきちんと詳細に、今日の出来事について書いてるんだから!」


 と、恥ずかしげもなく晶にノートを見せる遥。

 そしてそれをバカ正直にまじまじと見ていた晶は、ふとある箇所を指差す。


「ハルちゃん。ここ、ちがうよ」

「へっ? どこ?」

「『男色家』、のとこ……」

「あ、あぁ……ここは言葉の綾というか……割と本当に言われてるというか……」

「え、俺そんな噂立ってんの」

「当たり前でしょ? こんな男の夢の詰まった超絶わがままボディの無表情系幼馴染に何度も何度も攻められてるのに、一向に手も出さないなんて普通ならありえないでしょっ!」

「お……おぉ……」


 とんでもない熱量で語る遥に思わずたじろいだ。


「いや……俺だって耐えてたんだよ……?」


 俺だって晶の事は魅力的に思ってるさ、当たり前だろそんなの。

 でも、問題は……

 

『ボク……ナツくんのモノになりたい』


 雛瀬晶の歪んだ願望。

 彼氏彼女の関係ではなく、所有者と所有物の関係。

 それが晶の望んでいる結果の間は、出来得る限りは手を出すつもりはなかった。


 ――――うん、


「ナツくん、ボクと何回も交わってるから、これはぜったいにちがうよ」

「あーなるほどね。うんうんそっかそっか、確かに何度も交わあぁぁ………ぁぁああっ!?」

「……ハルちゃん、うるさい」

「あぁぁぁ……ごめん! ……じゃなくてぇっ!」


 バンッと机を叩いて立ち上がった遥。

 というか今拳で机叩いてなかった? 

 ああほらやっぱり、めちゃくちゃ痛そうにしてる。


「え、うそ、もしかして二人共……付き合い始めたっ!?」


 遥の言葉に、思わず顔が熱くなった。


 そう、実のところ俺は遥の言う通り、夏休みの中程から晶と付き合い始めたのだ。

 ただ、これはまだ俺と晶の家族以外には知られていなかったので、改めて他人に知られると少し気恥ずかしくなるな……


「うん、そうだよ」


 そんな俺とは打って変わって、晶は無表情のまま淡々と答えた。


「…………っ! アキちゃんおめでとーっ! やったねっ! ずっと知懐君のこと好きだったもんね!」

「ううん、まだだよ」

「へっ?」

「……ここからさらにランクアップして、ナツくんのモノになるから……そこがゴールなの」

「いやだから俺のモノにはしないって」


 てか、むしろランクダウンだろうがよ。


 瞳を輝かせながら未来への展望を語った晶は、ハッとしたようにこちらを向いた。


「ナツくん、そろそろかえろ…………また、なかにたくさん欲しい……から」

「いや、今日はゲーセン寄りたいのでパスです」

「……むぅ」

「え、うそ! まさかゴムなし!? え、アキちゃん大丈夫? ピル飲んでる? なかったら私持ってるから分けるよ?」

「いやちゃんと避妊してるから。これこそただの言葉の綾だから」


 ……てか遥、お前なんでそんなもの持ってるんだよ……?


「あー待って〜! 『男色家』のとこの訂正だけ待って! そんでもって駅まで一緒に帰るから二人の桃色性活について教えてよ〜!」

「……ナツくん、待と?」

「だとよ。早くしろ〜」

「大丈夫、三分……五分……十分だけだから」

「晶、帰るぞ」

「うん」

「あ、嘘待ってすぐにイくから待ってよおぉっ!」



 三人で学校の最寄り駅までの道を歩いていく。

 遥と晶が話しているのを聞き流しながら歩いていると、側溝に溜まっている秋の色に染まった葉が目に入った。


 そして、ふと思い出す。

 そうだ、あれば入学式の日。

 晶が俺に、とんでもない質量の感情をぶつけ初めた日の事――――

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