無口でクラス一の美少女である如月さんは僕以外の誰とも付き合うつもりは無いらしい

八木崎

序章

クラス一の美少女は、誰よりも変わっている


「あの子、変わってるね?」


 何気ない口調で語られるその言葉。それが彼女―――如月心奏きさらぎかなでさんの周りからの評価だった。


 その言葉通り、如月さんは変わった子だ。決して人に懐かず、人になびかず、人との付き合いを嫌い、群れたがりはしない。まさに自由気ままで孤高の人だと思う。


 彼女はいつも一人でいて、一人きりで本を読むか、音楽を聴いていたり、勉強をしている。周りに溶け込む様な真似は一切することはない。


 そんな人嫌いを公言して憚らない如月さんだけど、彼女はクラスで一番可愛いと、同じクラスの男子の中ではもっぱらの評判だ。もっと言えば、学校一なのかもしれない。実際、客観的に見ても、誰もが彼女のことを美少女であるというのは認めざるを得ないと思う。


 ほとんど無表情で笑顔は見せないが、それでも十分に過ぎるほど彼女は整った容姿をしていた。横幅が広く、切れ長の目。鼻筋も通って、薄い唇。スタイルだって悪くないし、肌は白く、肩に掛かる程度に伸びる長い髪は、明るめで目立つ栗色をしている。少しキツめの顔立ちだけど、そこがまたクールでミステリアスな印象を強めている。


 だけど、僕が一番好きなのはその目だった。一見すると冷たい印象を与える、その鋭い目つき。まるで刃物のようなその瞳に、僕は一目見た時から虜となって心を奪われた。


 そして、それはきっと僕だけじゃないはずだ。このクラスの男子のほとんどが、彼女を目で追っている。


 いや、もしかしたら女子すらも、彼女に惹きつけられているかもしれない。それくらい、彼女は綺麗だった。


 ……だからこそ、彼女は触れがたい存在だった。まるで尖ったナイフの様なものだった。


 決して自分から誰かと関わろうとしない彼女。孤高の存在。そんな彼女を、クラスメイト達は遠巻きに眺めるだけだった。


 そして僕――立花蓮たちばなれん――も、もちろん例外ではない。彼女と話したいとは思いつつも、臆病な自分には話し掛ける勇気なんてなかった。


 だけど……そんな如月さんに、僕はずっと片想いをしていた。高校に入って、同じクラスになって一年。彼女とまともに話したことは一度もないけれど、それでも僕は彼女が好きだった。僕の人生においての初めて抱いた恋心。いわゆる、初恋というやつだ。


 別に、特別な何かがあったわけじゃない。ただ単純に彼女に見惚れて、彼女を好きになっただけ。それだけのことなのだ。だけど、だからといって僕に何が出来るわけでもない。結局、僕はこの一年近く、まともに彼女と話すことが出来ずにいた。


 ―――あの日までは。


 僕が進級して高校二年生になったばかりの頃のこと。桜の花が完全に散った四月の終わり頃だったと思う。僕は幸いなことに、二年生に進級しても如月さんと同じクラスだった。けど、相変わらず遠くから彼女を眺めるだけの毎日を送っていた。


 彼女に話し掛けることはおろか、近付くことすら出来ずにいた。そして彼女も相変わらずクラスで孤立していて、誰とも馴れ合おうとしなかった。


 そんなある日の昼休み。僕は窓際にある自分の席に座りながら、外を眺めていた。別に何かを見ていたわけじゃない。何もすることが無かったので、ただ何となくぼーっと、外の景色を眺めてただけ。


 そんな時、ふと僕の右肩を誰かが軽く叩く感触がした。ともすれば、気づきそうにない程に弱く叩かれたそれに僕が気づいて振り返ってみると、そこには彼女が……如月さんが立っていて、僕のことを見つめている。


「え、えっと……どうしたの? 如月さん」


 思わずドキッとする僕だったけど、それを悟られないようにしながら平静を装って口を開いた。そして、いきなりのことで動揺していた僕に、彼女は一言こう告げたのだ。


「何を見てるの?」


 一瞬、意味が分からなかった。いや、言葉の意味自体は理解出来たけど、どうして彼女からそんなことを聞かれるのかが理解出来なかった。だからだろうか。つい反射的に聞き返してしまったんだ。


「……え?」


「何を見てるの?」


 だけど彼女は全く動じることなくもう一度同じ言葉を口にして、再び同じことを問い掛けてきた。どうやらさっきの質問に対する答えを求めているらしい。僕は少し迷ったものの、正直に答えることにした。ここで変に嘘をついても仕方ないと思ったから。


「え、あ……うん。その……特に、何も見てないよ」


「……そう」


 僕が正直に答えると、彼女は興味深そうに首を傾げる。


 それからしばらく考え込むような仕草を見せた後、こんなことを言ってきた。


「どうして窓の外を見てたの?」


「えっ……?」


 まさかそんなことを聞いてくるとは思わなかったので、僕は思わず驚いてしまう。すると、そんな僕を不思議そうな目で彼女は見てくるのだ。


「えっと、それは……」


 何と答えればいいのか分からず口ごもる僕に、彼女がさらに問い掛けてくる。


「何で、見てたの?」


 じっと僕を見つめる彼女の瞳。その視線の強さに気圧されてしまう。


 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ彼女の瞳に見つめられているとドキドキしてくるくらいだ。


 僕は彼女の目から視線を逸らすことが出来ないまま、何とか声を絞り出すようにして答えた。


「その……すみません。ちょっと、ボーっとしてただけで……」


「……そうなんだ」


 僕が何とかそれだけを口にすると、如月さんは納得したのかしていないのか分からない曖昧な返事をする。


 そのままじっと見つめられているせいで、余計に緊張してしまう。そのせいで言葉が上手く出てこない。


 そもそも女の子と話すこと自体、僕にとってはハードルが高いことなのに、それが意中の相手なら尚更だ。ましてや相手はクラス一の美少女なのだから、なおさら緊張して当然だと言えるだろう。


 しかし、当の如月さんはそれ以上何かを言うわけでもなく、無言で僕の顔を見つめているだけだ。その表情からは何を考えているのか読み取ることは出来ない。どうしたものかと思っていると、不意に彼女が口を開いてこう言った。


「……そっか」


 そして彼女はそう言うと、すぐに踵を返して教室を出て行ってしまう。僕は呆然としたまま、彼女の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。今のはいったい、何だったのだろう……?


 心の中で呟きながら、先程の出来事を思い返す。もしかして、からかわれていたのだろうか。それとも単に気まぐれだったのか。あるいは他に意味があったのか。考えれば考えるほど分からなくなる。


 いや、それよりも今はもっと気になることがある。さっきの会話の中で気になった部分があったのだ。


『何を見ているの?』


 彼女は確かにそう言った。けど、僕は本当に窓の外の景色を見る以外に何もしていなかったのだから。それなのに、何故そんなことを聞いてきたのだろう。


 まさか、彼女には他の何かが見えていたのだろうか。例えば、幽霊とか。……いやいや、そんなわけないか。馬鹿馬鹿しい考えを頭から振り払うと、再び僕は視線を外の景色へと向けたのだった。


 これが僕と如月さんがまともに話した初めてのことだった。話の中身については置いておくとして、少なくとも僕にとっては大きな一歩を踏み出した瞬間だったのだと思う。


 その後、僕は特に何もすることもなく、いつも通りに過ごした。放課後になると彼女は足早に帰ってしまい、結局あの言葉の意味は聞けずじまいだった。


 そんなことがあってからも変わらず、僕は彼女に想いを寄せ続けていた。だけど、なかなか話し掛けることが出来ずにいる。もし話し掛けたとしても、無視されるんじゃないかと不安だったから。


 それに、何より勇気が出なかったというのが大きかった。元々内向的な性格である上に、臆病な僕にはそれがどうしても出来なかったから。


 そうやって悩んでいるうちに日数だけが過ぎていく。そしてそれから数日後のある放課後のこと。僕はまたも彼女から声を掛けられた。








――――――――――――――――――


【★あとがき★】


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