第29話029「クラスメイト<貴族視点>③」
——Side:クライオット伯爵家『エミリー・クライオット』
私の名はエミリー・クライオット。
クライオット領を治める伯爵家の娘だ。2つ上に兄がいて兄妹仲は良好だ。
我がクライオット領は王都から割と近い場所にあるので両親からも家から通うことを勧められたが、私としては「せっかくの学園生活を楽しむなら絶対に寮生活がいい!」と思っていたので、両親に「将来のため」とか「勉強に集中したい」などと言って寮生活を送ることを了承させた。我ながら、良く頑張ったと思う。
あ、いやいや、今はそんなこと言っている場合ではない。
私が今話したいのは、入学式当日のホームルームでの自己紹介での話だ。ていうか、あの『東の辺境伯家』であるウォーカー家の嫡男ラルフ・ウォーカーの話だ!
「初めまして。ウォーカー領よりまいりましたラルフ・ウォーカーと申します。東の辺境の田舎者ですので何卒いろいろと教えていただければと存じます。3年間、宜しくお願いいたします」
私は、彼⋯⋯ヘミング・ウォーカー辺境伯の嫡男であるラルフ・ウォーカーの挨拶を聞いてショックを受けた。
「え? 何なの? この見事な所作と佇まいは⋯⋯っ?!」
セルティア王国の海に面する東の要所を支えているのが、この『東の辺境伯家』こと、ウォーカー辺境伯家だ。ただ、『西』と違って『東』の辺境伯家は王都からずっと遠いところにあるということもあり『多少腕っぷしがあるだけのただの田舎者』と言われていた。
実際、私もその印象しかなかったので、第一王女の次に身分が高い彼の挨拶を聞く前は「どれだけ情けない挨拶をするだろう⋯⋯」と内心思っていた。なのに、実際その挨拶を聞いたら、想像以上に洗練されていて度肝を抜かれた。私と同じようにショックを受けたのは多いだろう。
というのも、東の辺境伯家であるウォーカー家は元々子爵家で、しかも領地を持たない『名ばかり貴族』だった。しかし、先の戦争で多大な活躍を果たし、結果、その実力を買われ、東の辺境伯家へと一気に成り上がった家だ。
なので、その成り上がりのウォーカー家は王都では好かれていなかった。⋯⋯あ、いや、それは語弊があった。『既得権益側の貴族』から好かれていなかった。
ちなみに、私の家はそんな『既得権益側の貴族』ではないし、関わってもいない。というのも、父はそれなりに力を持っているものの、あまり『
「いいかい、エミリー。お前も私の立ち回りを今のうちから勉強しておきなさい」
父は、よくそう言って、私が物心ついたときから私がわかる言葉や表現で色々と教えてくれた。
そんな、私はもちろんパパっ子だ!
「それにしても⋯⋯噂通りウォーカー家の嫡男であるラルフ・ウォーカーが学園に来たってことは『次期当主は次男になった』というのは本当だったようね」
そう、ウォーカー家の嫡男であるラルフ・ウォーカーは、『神託の儀』で「生活魔法士っぽい称号だった」というのは有名の話だ。実際、その時「ウォーカー家の後継ぎ問題は大変だろう」と言われていたらしい。
しかし、その翌年に弟のヘンリー・ウォーカーが誕生。父親のヘミング・ウォーカーと同じ『風魔法特級士』を授かった。これにより、周囲では「もしかすると、次期当主は次男のヘンリー・ウォーカーになるのでは?」と囁かれていたらしい。——そして現在に至る。
「まー『生活魔法士』じゃ、どうしようもないもんねー。あ、だから『魔法自由科』に来たんだ!」
おそらく、『
「それにしても、ラルフ・ウォーカーの称号って確か『生活魔法士っぽい称号』って聞いたけど、正確な称号名は何なんだろう? すごく興味あるわ!」
あまり大きな声では言えないが、実は私は『魔法オタク』だ。
それはもう父から「頼むから学園ではお前のその
なので、この『魔法自由科』に来たのは『100%卒業できるから』と理由で入ったのではなく、単純に、この『魔法自由科』に入りたいという想いで来たのだ! そう、すべては『魔法探求』のためだ!
「フフフ。やっと⋯⋯やっと⋯⋯念願の『魔法自由科』に来たわ。ホームルームが終わったら早速、スタリオン先生のところに行きましょう。そうしましょう」
一人、テンションの高いエミリーはホームルームが終わると、その足で職員室へと向かった。
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——Side:バレンタイン子爵家『テイラー・バレンタイン』
俺の名はテイラー・バレンタイン。バレンタイン子爵家の嫡男だ。2つ下に弟がいる。
ウチは元々『平民出身』だったが、20年前の戦争で両親ともに大きな活躍をし、その褒賞として『子爵位』を授かった。もちろん領地はなく一代限りの『名ばかり貴族』ではあるが、それでも、その褒賞で爵位を頂いただけでなく、王都内で大きな敷地と屋敷を頂いた。
まーそんな元平民で名ばかり貴族ということもあり、両親は最初は貴族の付き合いに慣れないでいたらしい。だが、そんなときにクライオット伯爵に助けられたらしく、その縁がきっかけで現在もクライオット伯爵家には懇意にしてもらっている。
王都に住んでいるウチと王都に近いクライオット領は距離的に近いこともあったので、同い年であるクライオット家の『エミリー・クライオット』とは小さい頃からの幼なじみだ。あと、同じクラスメイトでもある。
俺の称号は『水魔法上級士』なので、将来のことを考えたら『魔法騎士科』に行くのが普通なのだが、俺は『魔法自由科』に入った。
え? どうして『魔法騎士科』に行かないのかって?
いや、だって、俺は争いが嫌いだからな。
ていうか、みんなよくもまー戦いたがるよな。全くもって意味不明だ。
毎日楽しく過ごせりゃそれでいいじゃねーか。どうして、わざわざ戦いたがる?
ま、そんな考えの俺だから『魔法自由科』に入るのは自然だった。
ちなみに、家族からは「魔法騎士科に行きなさい」と言われていたが、俺は「どうして魔法騎士科に行かずに魔法自由科へ行くのか」というテーマで両親にプレゼンし、結果『魔法自由科への入学許可』を勝ち取った。
さて、そんなわけでセルティア魔法学園の『魔法自由科』に入学した俺だったが、正直、『魔法自由科』には期待していなかった。というのも、この学科に来るような貴族はだいたいが
なんせ、自己紹介のトップバッターが『セルティア王国第一王女ミーシャ・セルティア』だったからな。
基本、王族であれば『魔法騎士科』に行くものが普通なのでこれにはビックリした。
「へ〜、王族にしてはなかなか面白い奴だな」
俺は別に王族が嫌いってわけじゃないが『今の王族』は嫌いだ。なぜなら『
平民上がりのウチは貴族のパーティーに行くと、『
そんな少年時代を過ごした俺が『
そんな第一王女の挨拶のあと、挨拶したのが
そいつは嫡男だが、ウォーカー家の次期当主は次男になったというのは有名な話だ。まーだから、こいつが学園にいるんだろう。
それにしても、こいつの挨拶には驚いた。両親や周囲の貴族からは「何も知らない田舎者」と言われていたし、俺も「そうだろうな」と思っていた。しかし、そいつの挨拶の言葉や所作を見て、ある意味、期待を裏切られた。俺が聞いていたこれまでの噂は『誤り』だったとすぐに理解した。
「ラルフ・ウォーカー⋯⋯。こいつも面白そうな奴だな(ニヤッ)」
どうやら、『
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「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404
毎日お昼12時更新(現在は投稿休止中。4月27日(土)から再開予定)。
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mitsuzo
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