第18話018「出発(15歳)」



——6年後



 私の名は、ラルフ・ウォーカー。


 15歳になった。


 セルティア王国ウォーカー辺境伯家の嫡男として生まれた私は、いろいろあって次期当主は弟のヘンリーに譲り、私は生活魔法を研究する為、王都にある『セルティア魔法学園』へと入学することとなった。



——そして、今日は出発の日。



「ラルフ。準備はどうだ? 忘れ物はないか?」

「はい、大丈夫です。父上!」

「ラルフ。何か困ったことがあったらいつでも連絡するのよ?」

「はい、わかりました。お気遣いありがとうございます、母上!」


 屋敷の前では家族や使用人一同、さらにはほとんどの領民が私の見送りのために来てくれていた。


「ち、父上。家族や使用人ならまだしも、領民の人たちまで呼ぶなんてやめてください! たかが学校に行くだけですよ! 気持ちは嬉しいですが、あまりにも大袈裟過ぎですっ!!」


 と、私は父上に「やり過ぎだってばよ!」と注意した。しかし、


「仕方ないだろ? 領民が勝手に・・・お前を見送りたいと駆けつけてくれたんだから。断れるわけがあるまい?」

「えっ!? そうなんですか! そ、それは、嬉しいですけど⋯⋯⋯⋯でも、何で?」

「それは、お前がこの世界の常識を覆す偉大なる生活魔法を⋯⋯⋯⋯うごぁっ?!」

「あら? どうしました、父上? 何か具合でも悪いのでは?」


 と、ローラが父上の横にやってきた。


 ていうか、今、父上に不意打ちで背中にエルボーかましたよね?


 父上が呼吸困難に陥ってるんだけど⋯⋯⋯⋯ローラさん?


「皆、ラルフお兄様のことが大好きなんですよ。だからこうしてほとんどの領民がここに来てくださってるのです」

「で、でも、私は領民の方とは面識はほとんどないんだが⋯⋯」

「うふふ。いいんですよ、ラルフお兄様⋯⋯それで。ささ、お兄様。せっかく来てくれた領民の皆様にお手を振ってあげてくださいませ」

「え? あ、そ、そうだね」


 私はローラの言うように、私の見送りのために来てくれた領民に手を振った。すると、


「うぉぉぉぉ〜〜〜っ!! 聖人ラルフ様が手を振ったぞぉぉ〜〜〜っ!!」

「ありがたや〜、ありがたや〜!」

「お、俺、この日のことを絶対に忘れねぇ! 子や孫に聖人ラルフ様に手を振られたことを伝えるんだ!」

「お、俺だって!!」

「私だって!!」


 ん? んん〜〜〜〜??


 な、なんか、領民のリアクション⋯⋯⋯⋯おかしくない?


「な、なぁ⋯⋯ローラ。今、領民から『聖人ラルフ様』みたいなこと言われたような⋯⋯」

「え? 何ですか、それ? もう〜ラルフお兄様ったら! お茶目なんだからぁ!」

「え? お、お茶目⋯⋯? う、う〜ん、そうかなぁ〜?」

「そうですよ! そんな『聖人ラルフ様』なんて言う人いるわけないじゃないですかぁ〜!」

「そ、そうだよね!」

「はい、そうですよ!」

「ごめん、ごめん。あははは⋯⋯」

「いえ、いえ。うふふふ⋯⋯」



********************



「ヘンリー、家のこと⋯⋯頼んだぞ!」

「はい! 家のことは僕に任せてください! 兄上はまっすぐに『ラルフ式生活魔法』の研究を頑張ってくださいませ!」

「! ヘ、ヘンリー⋯⋯」


 私はヘンリーの感謝の言葉に思わずジーンと来てしまい涙が出そうになった。そして、それをごまかすようにヘンリーのほうへ行き、抱き締めた。


「あ、兄上っ?!」

「ありがとう、ヘンリー! 君とローラがいたから、君とローラが私に協力してくれたから、この6年間とても充実した生活を送ることができた。本当にありがとうっ!!」

「や、やめてくださいよ、兄上! そんなの当然じゃないですか! 当たり前のことをしたまでですっ!!」

「お、お前って奴は、そんなに謙遜して⋯⋯⋯⋯すごいよ、ヘンリー!」

「そ、そんな⋯⋯僕だって兄上にこんなことを言ってもらえるなんて⋯⋯⋯⋯すごく、すごく、光栄です!」

「それと⋯⋯」


 と、私はヘンリーから離れると今度は⋯⋯⋯⋯ローラに抱き着いた。


「なっ?! ラ、ラルフお兄様っ?!」


 ローラももう13歳で恥ずかしかったのだろう⋯⋯頬を赤らめていたが、しかし、この時ばかりは私はそんなの関係なく強く抱き締めた。


「ローラ! 君が5歳のとき私の秘密を知ってから今日こんにちがあると思ってる! あの時、ローラが私を拒絶していたらこんな日は決して訪れなかっただろう! 本当に、本当に、ありがとう⋯⋯!」

「そ、そそそ、そんなっ?! も、ももも、もったいないお言葉です、お兄様ぁぁっ?!」


 ローラが私の腕の中であたふたするのをしっかりとホールドする。


「そんなことない! むしろ言葉が足りないくらいだ! この程度の語彙力しかないダメな兄ですまない⋯⋯!」

「む、むっふぅぅーーーっ!!!! あ、いえ⋯⋯⋯⋯⋯⋯や、やめてください、ラルフお兄様! 恥ずかしいです! こ、これ以上は⋯⋯とても理性が⋯⋯」

「ふふふ、まったく。いつまでもこのまま可愛いローラのままでいてくれよ! ありがとう、ローラっ!!」

「は、はい! ラルフお兄様っ!!」


 そう言って、私はローラから離れると、今度は両親を抱き締めた。


「父上、母上、いろいろとありがとうございます⋯⋯!」

「何を言ってるんだ、ラルフ! それよりも小さい時にお前から距離をとって悲しい想いをさせてしまったこと⋯⋯⋯⋯本当に悪かった!」

「そんなことありません! 私こそ父上の苦しみをちゃんと理解できなくて拗ねたこともありました。すみませんでした!」

「バカだな! そんなの子供が理解できないのは当たり前だ!⋯⋯ったく、これだから天才は困る!」


 そう言って、父が涙を流しながらワハハと笑った。


「⋯⋯母上。昔、私が母上に『私は本当の子供ですか』なんてバカで愚かな質問をして傷つけてしまい、本当にすみませんでしたっ!!」

「ううん。いいのよ、ラルフ。あなたが私にそんな言葉を出すほど苦しんでいたのをわかってやれなくて、本当にごめんなさい⋯⋯!」

「そんなことありません! 母上は私にいつもその優しさを全力で注いでくれたのを知っています! だから私は頑張れたのです! 本当にありがとうございました、母上っ!!」

「ああ、ラルフ⋯⋯。あなたは私の誇りよ⋯⋯!」


 そう言って、母が私の額に優しくキスをしてくれた。




「それでは、いってまいりますっ!!」


 私は馬車から身を乗り出し、皆に手を振って元気な声で最後の別れの挨拶をした。


「いってらっしゃいませぇぇ、ラルフ様ぁぁ〜〜〜っ!!!!」

「ラルフ頑張るんだぞぉ〜!」

「ラルフ! 体に気をつけてね〜!」

「ラルフお兄様、お元気で〜!」

「兄上〜! 魔法学園でも頑張ってくださいませ!」

「うぉぉ〜、ラルフ坊ちゃま〜〜っ!!」

「ラルフ様ぁ〜! ラルフ様ぁ〜!」

「うぉぉぉぉぉぉ! ラルフ様に栄光あれ! ラルフ様に幸あれぇぇぇ〜〜っ!!!!」


 こうして、私は皆に暖かい声援や応援の言葉をたくさん貰ってウォーカー領を後にした。





********************


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


毎日お昼12時更新。


よかったら、こちらもお読みいただければ幸いです。


mitsuzo

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