第16話016「ヘンリーの改心(9歳)」



「あとは、ヘンリーのことをどうにかしないと⋯⋯」


 私は父の書斎から出た後、もう一度ヘンリーの部屋へ向かおうと足を向けた。すると、


「お兄様!」

「ローラ!」

「ヘンリーお兄様のところへ?」

「ああ⋯⋯」

「ラルフお兄様⋯⋯ヘンリーお兄様のことは私に任せてくれないでしょうか?」

「え? ローラに?」

「はい。我に秘策あり⋯⋯です!」


 そう言って、ローラがよぼど自信があるのか瞳をキラキラと輝かせながら笑みを浮かべる。


「で、ですが、もしかすると、ラルフお兄様にも少々手伝ってもらうことがあるかもしれませんが⋯⋯」

「え? それは別に全然構わないよ?」

「本当ですか!」

「もちろん! 当たり前じゃないか。私にできることならなんでも協力するよ」

「ん? ん? 今なんでもって⋯⋯⋯⋯」

「え? 何?」

「あ⋯⋯⋯⋯いえ、何でもありません。コホン。では、その際はよろしくお願いします」

「え? あ、ローラ⋯⋯!」


 そう言って、ローラはなぜか顔を赤らめるとタタタっと走り去ってしまった。それにしても、ローラは一体どうするんだろう?「我に秘策あり」って言ってたけど一体何をする気だ?


 とはいえ、私は私で特にヘンリーの引きこもり対策があるわけでもなかったので、とりあえずはローラの秘策に期待しつつ、様子を見守ることにした。



********************



——2日後/夜明け前魔法訓練(スーパー朝活)



「おはようございます、ラルフお兄様」

「あ、おはよう、ローラ⋯⋯⋯⋯って、ええっ?! ヘ、ヘンリーっ!!!!」

「⋯⋯お、おはようございます、兄上」


 いつもの『スーパー朝活』をする場所に、ローラだけでなく、ヘンリーも一緒に来ていた。


 まさかヘンリーがここに来るとは思っていなかった私はどうしたらいいのかわからないでいた。すると、


「兄上!」

「は、はいっ!?」


 突然、ヘンリーから元気よく声をかけられた。ヘンリーの思わぬ行動にただただビビっている私。


「ローラから聞きました! 兄上が『常識を覆す偉大で革命的な生活魔法』を生み出した⋯⋯と」

「ん、んんんんん⋯⋯っ?! ロ、ローラくん?」

「はい。オブラートに包みました」


 え、どこがっ?!


 どう考えても盛り過ぎてるよねっ?!


 むしろ、盛り過ぎていろいろこぼれてるよねぇっ?!


「あ、それと、兄上がこの『常識を覆す偉大で革命的な生活魔法』を研究してすべての民の生活を豊かにするという使命のもと魔法学園へ進学すると聞いて、僕は今猛烈に感動していますっ!!」

「えっ!? あ、あの、えーと⋯⋯⋯⋯⋯⋯ロ、ローラくん?」

「はい。マイルドにミルフィーユ梱包致しました」


 いや、どゆことっ!?


 もはや、本来の意味から逸脱しているけどっ?!


 ていうか、そんな言い回しないからねっ?! 勝手に作らないでっ!!


 い、いったい、ローラこの子はヘンリーに何をどう話したんだろう?


 こ、怖い⋯⋯。


 知るのも怖いが、聞くのも怖い。


 そう思った私がローラにチラっと視線を送ると、


「すべてはラルフお兄様のためです」


 と、ローラからまるで私が何を考えていたのかお見通しであるかのような回答が返ってきた。


 え? 何? ウチの妹、エスパー?


「兄上っ!!」

「おわっ!? な、なな、何でしょう?」


 横から大きな声でヘンリーが入ってきた。


「兄上! 家のことは心配いりません。すべては私にお任せを! 兄上は魔法学園に進学し研究をすることだけを考えてください!」

「あ、ありがとう⋯⋯」

「ああ! いつか早く見たいものです! 兄上の偉大なる魔法が世に広まり、全ての者に幸せが訪れる世界をっ!!」

「⋯⋯え?」


(まずいわね)


 すると、何を思ったか突然ローラが割とガチめな『高威力版生活魔法』の『身体強化ストレングス』を発動し、ヘンリーにタックルした。


「きゅ〜⋯⋯(ガクッ)」

「ヘ、ヘンリぃぃ〜〜〜っ!!」


 ヘンリーはそのタックルで気絶を余儀なくされた。


「ロ、ローラ! 君はいったい何を⋯⋯っ?!」

「すべては御心のままに⋯⋯」

「いや、意味わからないからっ!!」



********************



 気絶したヘンリーを何とか復活させると、


「兄上! お願いがあります!」

「お、おう!? ていうか、体調は大丈夫かい?」

「大丈夫です! それよりも! ローラから聞いた兄上の『常識を覆す偉大で革命的な生活魔法』をぜひ見せていただけないでしょうかっ?!」

「い、いや、そんな大袈裟な!⋯⋯⋯⋯ま、別にいいけど」


 な、なんか、すんごいテンション高いな〜、ヘンリー。


「あ、ありがとうございます!」


 そう言うと、ヘンリーが後ろに下がりキラキラした目で、私のことを一挙手一投足見逃さないようにと身構えていた。


 あ、そういえば昔⋯⋯⋯⋯まだヘンリーと仲が良かった頃は、こうして、いつもキラキラした目で私の後ろをついてきてたな〜。その時もよく魔法の話をして喜んでいたっけ。


 そんな昔のことを思い出した私は「ヘンリーの期待に応えたい!」と気合いを入れた。


「よし。じゃあいっぱい見せてあげるよ、ヘンリー!」



 今、思えばそれが・・・いけなかったのかもしれない。



「それじゃあ、まずは基本的なものから行くよ! 着火ファイアっ!!」


 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!!!!!!


「え? す、すご過ぎる⋯⋯っ!?」


 ヘンリーが何を言っているのか着火ファイアの音でうるさくて聞こえなかったが、喜んでいるようだったので、私は出し惜しみなく様々な『高威力版生活魔法』を披露した。



——30分後



「す、すご⋯⋯い⋯⋯。これが生活魔法って⋯⋯これじゃまるで⋯⋯まさに全属性の魔法が使える魔法士じゃないかっ!? ほ、本当に、ロ、ローラが言ってた通り⋯⋯⋯⋯いやそれ以上だっ!? これはあまりにも⋯⋯⋯⋯革命的、且つ、規格外過ぎるっ!!」


 私の生活魔法を見たヘンリーが驚きのあまり腰を抜かしていた。


「⋯⋯はは。大げさだな〜、ヘンリーは」

「い、いえ、そんなことは⋯⋯! 兄上のこの魔法はまさに神がもたらした奇跡⋯⋯」


 スッ⋯⋯。


(ヘンリーお兄様、ステイです)

(あっ?! す、すまない、つい⋯⋯)


 突然、ローラがヘンリーの後ろに立ち、二人でボソボソ何やら話していた。


「ん? どうしたの、二人とも?」

「いえ、問題ありません。兄上」

「はい、何でもありませんわ。ラルフお兄様」

「え? あ、あれ?」

「どうしました、ラルフお兄様?」

「あ、いや、今、何か⋯⋯⋯⋯一瞬ヘンリーがローラのように見えたんだけども⋯⋯⋯⋯なんで?」

「あはは、そんなわけないじゃないですか、兄上」

「そ、そうだよね。ははは、おかしいな〜、弟が妹に見えるだなんて⋯⋯」

「魔力を使い過ぎて疲れたんじゃないですか、兄上」

「あ、ああ。そうかもしれないな」

「ええ。きっとそうですわ、ラルフお兄様。ささ、これを飲んでリラックスしてくださいませ」

「ありがとう」


 そう言って、私はローラから水をもらった。


 そのコップの中には、私が以前ローラに教えた氷魔法で作った『氷』が入った水だった。




「キンッキンに冷えてやがるっ!!」





********************


「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650503458404


毎日お昼12時更新。


よかったら、こちらもお読みいただければ幸いです。


mitsuzo

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