第14話014「ヘンリーが引きこもりました(9歳)」
ドンドンドン!
ドンドンドン!
「おい、ヘンリー! ここを開けてくれっ!!」
ドンドンドン!
ドンドンドン!
⋯⋯⋯⋯、
⋯⋯⋯⋯、
⋯⋯⋯⋯ヘンリーからの返事はなかった。
ヘンリーの突然の引きこもり。
原因は恐らく『自信喪失』。
あれだけ「自分には才能がある!」と言い、生活魔法の称号しか持たない私を『劣っている人間』『次期当主にふさわしくない』などと日頃から罵詈雑言を吐いていた分、そんな劣った人間に4年間剣術・体術の訓練を一緒にやっていたのに試合では私に一度も勝てなかった。
さらに唯一のアイデンティティであった『魔法攻撃ありの実戦形式の模擬戦』でも私に一度も勝つことができなかったことにいよいよ心が耐えられなくなった⋯⋯といったところだろうか。
正直言って、ヘンリーをここまで追い詰めているつもりはなかったが、実際この引きこもりの原因は私なのだろう。私はどうやったらヘンリーを引きこもりから抜け出してあげられるか考えていた⋯⋯⋯⋯その時、
「ラルフ、部屋まで来なさい」
「え? は、はい⋯⋯」
ヘンリーと剣術・体術訓練をする4年前あたりから、急に疎遠⋯⋯というか、私と接触を避けるようになっていた父上から突然呼び出された。
おそらくヘンリーのことだろう⋯⋯と思いつつ、私は指示通り、父上の書斎へ向かった。
「そこに掛けなさい」
「は、はい」
父上がそう言われたので私は書斎にあるソファーに座る。私が座るのを確認すると父が私の正面にに座り、私の目を見つめて話し始めた。
「⋯⋯ラルフ。ヘンリーがこんな状態になって話をするのもどうかと思ったが⋯⋯だがしかし、やはり、これをはっきりさせた上でないとおそらくヘンリーを救うことはできないと思い、今お前をここへ呼んだ」
「はい」
どうやら、父は何か大きな覚悟を持って私を書斎へ呼んだようだ。
何だろう? 良いことなのか、悪いことなのか、まったくわからない⋯⋯。
「ラルフ⋯⋯私がお前と顔を合わせて直接話すのは、早朝稽古を除けば実に4年ぶり⋯⋯⋯⋯といったところか」
「そう⋯⋯ですね。だいたいそれくらいかと」
「ふむ。ところでラルフ⋯⋯。私がお前とこうして距離を置いた理由はわかるか?」
「⋯⋯そうですね。私は称号が『生活魔法帝』という役に立たない生活魔法の称号ということで、次期当主を私から弟のヘンリーに交代しようと考えての行動だったかと愚考します」
「っ!? そ、そうか。やはり、そこまでしっかりと見抜いていたか」
「⋯⋯⋯⋯」
どうやら、父上は私から距離を置いた真意を私がどこまで気づいているのか確認したかったようだ。
「お前の察する通り⋯⋯この家の『次期当主』は嫡男のお前ではなく、ヘンリーにと思っている。これは、これからも覆ることはない。私がすでに決めたことだ。⋯⋯嫡男であるお前には辛い話になると思うが。だが、ラルフ! だからといって私はお前を見捨てるつもりではない。ちゃんとお前の将来のことも考えている!」
「いえ、心配には及びません、父上。私は6歳の頃よりこの家からの独立を考えておりましたから」
「な、何っ?! 独立⋯⋯だとっ!!」
「はい。きっかけはヘンリーから『生活魔法の称号ではこの家の次期当主としてはふさわしくない』と言われたのがきっかけです。ですが、それは自分でもそう思っていたところでしたので特にショックということではありませんでした。ただ⋯⋯」
「ただ?」
「ただ⋯⋯当時はまだ6歳ということもあり、何もできない身の上。すぐに家から出ることはできませんので、せめて10歳までには何とか家から追放されても大丈夫なよう、
「ど、努力⋯⋯?」
「はい。そのおかげで、もし今この瞬間、この家から出ていくことになったとしても生活ができるくらいにはいろいろと準備はできました! ですので、もし、父上が望むのであれば、今からでもこの家から出て⋯⋯」
「ちょ、ちょ、おま⋯⋯っ! ちょ、待てーいっ!!!!」
父ヘミングがラルフの言葉を大声で遮る。
「はい?」
「い、いや、お前はまだ9歳だぞっ?! それに10歳になっても子供であることには変わらん! あと、そもそも、そんな子供のお前を家から放り出すなどするわけがあるかっ!!」
「え? そうなんですか? おっかしいな〜⋯⋯『ざまぁ系』ではだいたいそういうのがテンプレ展開だと思っていたのですが⋯⋯(ブツブツ)」
「な、何? ざ、ざまぁ⋯⋯系?」
「あ、いえ、こっちの話です。お気になさらず⋯⋯」
な〜んだ。『ざまぁ系』じゃなかったのね?
てっきり、すぐにこの場から追放されるのかと思ったよ。
「ところで、父上。どうして、そのようなことをこのタイミングで話そうとしたのですか?」
「あ、ああ、それなんだが⋯⋯。まずヘンリーのことだ」
「はい」
私は父の話に集中して耳を傾ける。
「ヘンリーはこれまで私と同じ称号を授かったということで兄であるラルフ、お前にいろいろと見下したり、暴言を吐いていたのは知っていた」
「あ、気づいてたんですね?」
「ああ、すまない。だが、お前には本当に悪いとは思ったが⋯⋯私はあえてお前たちを⋯⋯ヘンリーを放っておいた。なぜだかわかるか?」
「え? さ、さあ?」
え? わかってた上で放置してたの? 何で?
「ヘンリーに過ちを自分で気づいてもらいたかったからだ。もちろんエスカレートしてきたら止めるつもりではあったが、できれば自分の過ちを気づいて欲しくてな。なので、ギリギリまで口出しするのを止めていたのだ」
(ヘンリーに自ら気づかせるため⋯⋯ね。でも、その間、私はヘンリーから理不尽な攻撃を受け続けたんだけどね)
などと、当時のことを思い出して少し愚痴を心の中で呟きつつも、父上の気持ちもわからなくもなかった。
さらに父上は話を続ける。
「そうしてヘンリーを監視していた私だったが、しかし、途中から
「えっ?! しゅ、趣向⋯⋯ですか?」
「ああ、
「⋯⋯え?」
私を監視? 私の使う生活魔法に興味⋯⋯だとっ?!
「ち、父上。それって⋯⋯」
「ああ。そして、今回お前を呼んだ理由の一つが、そのお前の持つ『生活魔法』についての話だ」
「っ?!」
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「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵(ギフト)というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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mitsuzo
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