R.B.ブッコローの『異世界ちゅートリある』

五十貝ボタン

異世界ちゅートリある(前編)

 ふと気がつくと、R.B.ブッコローは街中にいた。

「なにぃ……どこよここ?」

 建物はレンガ造りで、道には石が敷かれている。その道の上を、馬……のようなものが荷車を曳いて進んでいく。

 行き交う人々の服装はなんだかもったりしていて、地味な色ばかりだ。

 見慣れた横浜ではない。少なくとも、有隣堂が店舗を展開している関東圏ではなさそうだ。


 ブッコローはミミズクである。物覚えが悪いことを「トリ頭」なんて言うこともあるが、気づいたら見知らぬ土地にいた、なんて経験はさすがに覚えがない。

「いや、しこたま飲んだときには……どうだったかなァ?」

 都合の悪いことは割と忘れるようだが、道順を忘れていたらシティ派のミミズクはつとまらない。


《ブッコローさん!》

「うわっ!」

 記憶を辿ろうとした時に、急に声が聞こえた。飛び上がって驚くブッコローを、通りすがりの子どもが指さした。隣にいた母親が「やめなさい」といって指を下げさせている。

「ダレ?」

《あなたの頭に直接語りかけています。カクヨムのトリです》

「トリぃ? カクヨムの公式Twitterのアイコンや告知のバナーによくいるあのトリ?」

《丁寧な説明ありがとうございます》

 ミミズクが人間の言葉で空中に向かってしゃべっている。周囲の人々がザワザワしているが、当人……じゃなかった、当鳥とうとりであるブッコローにとっては頭に響く声のほうが重要である。


「そのトリが何の用?」

《ブッコローさんにもWeb小説で人気の異世界ものを体験してもらおうと思いまして》

「じゃあここは異世界ってこと?」

《そうです! 体験のためにいい感じの異世界に来てもらいました》

「そんなことできるの?」

《もちろんですよ。カクヨムには異世界小説が6万点以上、書籍化作品もたくさんあります!》

「だからって異世界にいける理由になるかなァ……」

《短編だから細かい説明をしてる文字数がもったいないんですよ。他の異世界モノも大して説明してませんし》

「問題発言じゃない?」

《あ、ほら、イベントが始まりますよ!》


 ガチャガチャガチャガチャ!

 石造りの通りに金属質な音が鳴り響いた。

「警備隊だ!」

 金属鎧の男達がずらっと並んで、ブッコローを取り囲む。ひときわ立派な兜飾りをつけた男が、ずいっと前に進み出た。

「怪しい鳥め、神妙にしろ!」 


「鳥が怪しいからってさァ、こんな屈強な男が何人も出てくる?」

「おい貴様、何者だ! モンスターか?」

「見ての通り無害なミミズクですよォ」

「そんなオレンジのミミズクがいるか!」

「そこまで言わなくてもよくない?」

 暴言に傷ついたブッコローがションボリしている間に、男達が手に持った縄をかけていく。


「いくら怪しい鳥がいるからってさァ……こんないきなり逮捕する?」

《短編は場面転換を早くしていかないと退屈になっちゃいますからね》

「いま小説のテクニックの話してる場合かなっ……?」

 こうして、我らがミミズクはぐるぐる巻きにされて運ばれていった。



  🦉



 ぴちゃん……。

 牢屋は、湿っぽくて暗い。どこかで水滴が垂れ落ちる音が反響するほど静かだった。

「拘留されるのはじめてかもしんない」

 ブッコローはロープでぐるぐる巻きにされたまま牢の中に転がされていた。


《いきなり捕まるの、読者の意表をついててコメントつきそうですよ!》

「この状況のブッコローを見てコメントもらうこと考えてんの?」

《カクヨムでは各話毎にコメントをつけて作者を応援することができますよ! このページでもできるので、試してみてくださいね!》

「ブッコローに話してるんだよね?」


 ぴちゃん……。ぴちゃん……。

「異世界って弁護士呼べるのかなァ……不安になってきた」

《ブッコローさんはこの話の主人公だからなんとかなりますよ》

「わかんないよォ、ものすごいミミズクのアンチがいるかも」

《読者は主人公がピンチを切り抜けるところを楽しみに読むんですから》

「魔法とか使えないのにどうすんのよ」

《そりゃもう、現代の知識とかチートで無双するんですよ》

「チートって何?」


 ぴちゃん……。ぴちゃん……。ぴちゃん……。

 しばらく答えはなかった。


《ちょっと思ってたんですけど……》

「いや、チートの話は? いまブッコローは知らない言葉に困惑してるよォ」

《トリのこと年下だと思ってません?》

「え? だってブッコローのほうが体大きいし」

《トリは2016年から活動してますよ》

「えっ……ヘェ……」

 ちなみに、『有隣堂しか知らない世界』のスタートは2020年6月30日からだ。


「へへッ……。まあ今後はねぇ、かわいがっていただいてェ……」

《でもさっきまでの感じで大丈夫ですよ》

「なんでですか」

《二羽とも敬語でしゃべってたら読みにくいじゃないですか》

「おい、静かにしろ!」

 がしゃがしゃという金属音がまた聞こえてきた。鎧を着た警備隊がやってきたのだ。


「さっきの兵隊さん! もう解放してくださいよっ……!」

「いや、そうはいかん」

「えぇー……」

「国王様が直々に話をするそうだ!」

 そして、兵隊がぐるぐる巻きにされたままのブッコローを持ち上げる。

「いきなり王様って、話早すぎない?」

《世界観の核心を早く提示するのも大事ですからね》

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