異界万象-ソトリシチ
真の結色
第1話 107回目
モノローグ
{西暦2323年に俺達は居た。
“地球”上の人類は緩やかではあるが確実に進化を遂げ、
微力ではあるものの特異な力を持つ者も現れ始めていた。
そんな人類に目を付けた一人の“女神”が、
更なる進化を求め大きく介入してしまう。
それに巻き込まれ、運命が捻じ曲がる俺達“兄弟”。
使命をも受け入れ、俺への贖罪から“決着”を成した弟の人間性に、
一人の“神”が心を寄せた。
そして俺達は動き出した。
運命に向けて。
殊更順調に、確実に、32回目までは。}
{“33回目”。異世界“シキ島”、安寧958伝に僕達は居た。
幸か不幸か今までとは違う経験に、僕達は奔走する。
僕達が欲してやまない“奇跡”への鍵。
避けては通れない“軌跡”への代償。
僕への贖罪から“決着”とした自らを戒め、
それを背負う兄の類稀なる精神に、
別の“神”が心を寄せた。
そして僕達は動き出した。
運命に向けて。
とても順調に、確実に、106回目までは。}
そして
~~「107回目」~~
神の住まう神殿“ナーオス”。
その中を怒り露わに飛行する女神がつぶやく、
「あたいの蒔いた種をことごとく摘み取りやがって・・・」
目的の扉へ文字通り飛んでいく女神ゼイア・セアー。
「トゥルチアじゃなきゃ考えられるのは・・・」
ドガン!!扉を勢いよく蹴とばす女神ゼイア・セアー。
「!!?」
下界の様子を巨大な“神水晶”で見ていた
アルモニア・セオスが驚き振り返る。
“神水晶”に映る下界の人間3人にゼイア・セアーは見覚えがあった。
「(やっぱり!)アルモニア・・・てめぇ・・」
“神の鏡玉”を握りしめ、神アルモニアを睨みつける女神ゼイア。
それを見て焦りながらも“神水晶”に手をかざす神アルモニア。
「(いけない!早く二人を!)」
女神ゼイアの手の中で、強い光を発しだす“神の鏡玉”。
『召喚して・・』
そして光に飲まれて行く中、神アルモニアは願った。
==================
中世ヨーロッパ風の館、豪華な一室に強い閃光が走り、
轟音と共に壁が吹き飛んだ。
それを屋敷外から眺める二つの影が闇に潜む。
「さすがアルモニアさんドンピシャだね・・」
「・・行こうミノア、暴れ出しそうだ」
「うん」
二人の名は、兄のナトスと弟のミノア。
二人は音もなく動き出す。
破壊された衝撃でボロボロの豪華な一室。
驚愕の表情で両手を見つめる男と、
その背後に浮かぶ“女神”の姿があった。
「・・良い感じで順応できたじゃないかオッサン、あとは好きにやりなよ」
そう言うと女神ゼイアは消え去った。
残された男は口角を上げ笑いながらつぶやいた。
「フフ・・ハハハハ・・何だこの力は・・・」
屋敷の下の階からは、音と衝撃でパニックに陥っている
使用人たちの声が聞こえる。
豪華な服装のその男は、呟き叫び笑う。
「何でもできる・・・この世界は私が手に入れる!ハハハハ!クククッ・・この屋敷ももういらんな・・下の人間は屋敷ごと平らにしてやろッ!?誰だ!」
男の視界の隅で、二つの影が動いた。
ナトス/ミノア「・・・」
兄弟は何も答えず、静かに背負っている刀を抜く。
男は両手に先ほど以上のエネルギーをめぐらせる。
「何者か知らんが、屋敷ごと私の前から消え去れ!!」
兄弟は静かに呟く
「ミノアは首を・・」
「・・兄さんが“種”ね」
ナトスが一歩前に出た瞬間、男は両手を二人に向けた。
強烈な閃光が二人に向けて走り出す。
しかし直後、そのエネルギーは全て垂直に
上方向へナトスの刀により弾かれ、
天井から轟音が響き渡る。
男は何が起きたのか理解できない。
その刹那ナトスの刃が心臓に突き刺さる。
突き破られた屋根の瓦礫が降り注ぐ中、
男の首も落ちていった。
男の身体から刀を抜きながらナトスは上を見上げる。
男の背後に移動し、
首を落としていたミノアも見上げていた。
ナトス/ミノア「・・・」
二人は何かを待っている様だった。
背負う鞘に刀をおさめながらお互いの顔をみる。
「・・ん?」
兄ナトスも疑問を抱いている事を感じ取り、
ミノアは再度何もない空間を見上げ声を上げた。
「おーい。アルモニアさん、終わったよー♪」
ナトス/ミノア「・・・」
流石におかしいと感じたナトスも行動を起こす。
「・・念話を試してみる」
『ナトスだ、アルモニア、聞こえるか?』
自分たちの任務が終われば
すぐに起きるはずの現象が起きない。
そして同じような事が過去にもあったとミノアは思う。
「・・・あの時に似!?え!!」
「ん!?」
突如二人を囲むように魔法陣が展開し二人の身体か光だす。
二人が待っていたのはこの現象。
しかし違和感があった。
「トゥルチアさんのとも、アルモニアさんのとも違う!?」
「はっ!構えろミノア、攻撃が来る」
鞘から武器を静かに抜きナトスが言うと、ミノアも続く。
「あの時に似てない?」
「何かあったか・・」
薄っすらと聞こえる人々の悲鳴の中、
音もなく、光る二つの影と魔法陣が消えた。
横たわり動かない影を残して。
=====================
~異世界メジューワ、リデニア国内の樹海~pm8:50
バシャン!ドカ、グシャ!
馬ごと馬車を無残に切り刻み破壊する魔獣がいた。
馬を捕食しようとするその魔獣の近くにいた
“冒険者”はとっさに“鑑定”を使い、絶望していく。
ガチャン!
女性冒険者が震える手から短剣を落とし叫ぶ。
「む、無理よ!」
それに追従するように男性冒険者も叫んだ。
「に、逃げろぉぉ!!」
「!」
「はい!」
日が暮れ薄暗い樹海。
アキト率いる冒険者パーティー4名が、
強大な敵を前に撤退を余儀なくされた。
馬車を失い樹海を疾走する4つの影を
魔獣は執拗に追いかけていく。
「はぁはぁはぁ(まだ追ってくる・・・このまま行ったら・・)」
4人のうちの一人、“召喚士”の
ソロル・ノウビシウムは後ろを度々確認し、
魔獣との距離が開かず引き離せないでいる
状況を何とかしなくてはと焦っていた。
なぜなら自分たちが逃げている方向は町のある方角。
このまま引き離せずに行くと
町に近づきすぎてしまうからだ。
そうなれば、今自分たちが逃げ切れたとしても
後々街に被害を及ぼす危険性が高まると考えていた。
かといって立ち止まり迎え撃つのは
自殺行為に等しい。
そう思わせるほどの強大な魔獣に
焦りを強めていった。
しかし、
この状況を打開しようと必死に考えていたのは
ソロル・ノウビシウムだけではなかった。
パーティーリーダーの
アキト・トラフォールもその一人。
しかし彼は異質で身勝手な物だった。
「(クソ!糞!何でこんな所にあんな化物が居んだよ!あんなのAランクでも太刀打ち出来ねぇだろ!クソォ危うくこっちは死にそうじゃねぇか・・駄目だ!ダメダメ!こんな所で俺は死ねない!俺には夢がある!Sランクになって女だらけのギルドを作るんだ!そう!ハーレムギルドだ!その為ならどんな犠牲もいとわない!もちろん俺以外の犠牲だがな。クソォ・・人がいるところに行ければあんなバケモン擦れんのによ・・・かといって街までは到底届かない。そもそも野営するつもりでこんな時間まで樹海に留まったんだ、あぁ糞!お試しハーレム野営計画がアダとなっかぁ・・はっ!・・そうじゃん、囮作戦行けんじゃん!!そもそもこの三人は俺のハーレムメンバーになる予定の女どもだ、その体は俺のもんになる予定だから、今ここで肉壁に使っても文句はないだろう、まぁ俺と言う男を知らずに死ぬのは可哀そうだが仕方ないか、・・・ユナは・・・無理だ、俺より強い、変に手を出して返り討ちにあったら俺が危険だ!それに今回あのユナが強い恐怖を感じているはず、これを打開出来たら気が緩み股を開くかもしれない!・・ユナは残そう、では・・・ミュウは・・・駄目だ!もっと駄目だ!ミュウは俺に従順な所がある、今後戦闘においても女としても有用だ!従順とはそれだけで価値がある!きっとハーレムに必要だ!・・・って言うかユナもミュウも速力が俺より良いせいか前を走っているんだ、囮作戦は物理的に難しい・・・であれば一人しかいない・・・)ソロル・・・」
アキトがソロルの名をつぶやきながら振り返ると、
その声に反応したソロルと目が合った。
凶悪で歪な目をしたアキトを見た瞬間
ソロルは悟り走るのを止めた。
「まさか!?」
アキトが投げつけた煙幕玉が目の前で破裂し、
ソロルは煙に覆われていく。
「ゴホッ・・ゴホ・・・召喚魔法・・ゴホ・“シャリ”・・ゴホ」
薄暗い樹海でソロル・ノウビシウム
は煙に飲み込まれていった。
その中で呼吸を整える間も惜しみ
召喚獣“シャリ”を呼び寄せた。
一本の鋭い角を持つ白い馬型の召喚獣“シャリ”は、
何も言われなくともすぐに低い体勢を取った。
ソロルは“シャリ”に跨り強く握りしめる。
「シャリお願い!」
「キキッ!」
ほぼ同時に背後から魔獣の雄叫びが聞こえ
その瞬間バシュン!と
ソロルを乗せた“シャリ”はその場を離脱してた。
ジュバン!!と
大きな音と共に魔獣の爪が地面を抉っていたが、
瞬く間に風上の煙幕外へ移動していたのだ。
「(うぅ!やっぱり眩暈が酷い・・)シャリ・・このまま“駿足”で・・行けるところまで・・・」
「ヒュヒーン!」
木々の合間を縫うようにソロルを乗せて走り出す“シャリ”。
「(こっちは風上、街の方角とも違う、シャリの“駿足”は十分ほどしか持たないけど、出来るだけ引き離す!)」
煙幕がはれていく中、動けずに居た魔獣は
視界から消えた獲物を探していた。
鼻を小刻みに動かし、そして風上の方へ視線を送る。
風に乗って漂う獲物の臭いに反応し
ゆっくりと歩み寄り手近な木に手を掛けた。
「キキ!」
魔獣は雄叫びと共に獲物を追い進みだした。
街から遠ざかる方向へ。ソロルの思惑通り。
ただ一つ大きな誤算を除いては・・・。
「(後8分このまま走り続けて出来るだけ街の遠くへ・・シャリの“気力”(MP)切れで追いつかれるけど、その前に私だけ木の上であいつをやり過ごせれば)」
「ヒーン!」
「シャリ・・!?」
バギ!
「キキキ!」
背後から木がなぎ倒される音と共に魔獣の鳴き声が響いた。
「嘘!早すぎる!まだ3分も走れてないのに!?」
後ろを振り返ったソロルの目に、
木々を巧みに手で掴んでは自身の巨体を引き寄せ、
もの凄いスピードで追ってくる魔獣が映った。
「ブラキエーション!(しまった!あの魔獣は脚力より腕力に特化していたのね!これじゃすぐに追いつかれる!!)」
危機的状況を理解してか、“シャリ”は
いきなり方向を反転させ最後の手段に打って出た。
遠心力で放り出されそうになるソロルを
尻尾で支えそっと地面に落とし、
煙幕から離脱するとき使用したあの技能を発動させる。
「(瞬足!?)シャリ!!」
“肉体強度”特に“速力”の値が少ないと、
その速度に耐えられず強い眩暈を起こす。
ソロルが乗っていない今、“シャリ”は
最大出力で発動させた。
本来“シャリ”にとって“瞬足”は
緊急避難用の回避技能ではない。
自身の鋭い角を相手の急所へ突き立てるための
言わばトリガー。
技能を発動させた“シャリ”がソロルの前から消える。
ソロルの目ではその動きをとらえる事は出来ないが、
自然と魔獣に視線を移した。
そこには魔獣の胸に角を突き立て落下していく
“シャリ”の姿が見えた。
ドスンと地面に落下した“シャリ”のもとに
駆け寄ろうとしたが、その瞬間戦慄が走る。
シュバン!
魔獣の鉤爪が“シャリ”を貫き、
消滅させたのだ。
「(シャリが一撃!?つまり私も一撃で殺されてしまう)時間稼ぎはもうできない・・」
ソロルは茫然としながらも“鑑定”を使い自身のステータスを確認した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
氏名:ソロル・ノウビシウム 職業:召喚士(冒険者)
レベル:65 lv 年齢:20 歳 状態:普通
HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■□□
MP■■■■■□□□□□□□□□□□□□□□
技能:「召喚魔法(召喚獣:シャリ)」「召喚獣再生」
「空間魔法」「鑑定」
肉体強度:85 Rp 精神強度:105 Rp
命力:255 気力:315
体力:180 魔力:323
速力:155 知力:323
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そしてそのまま魔獣へ目を向ける。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種族:猿魔獣オランアームレッド 個体番:13
レベル:166 lv 状態:普通
HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
MP■■■■■■■■■■■■■■■■□□□□
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「何度見ても・・(絶望・・シャリが倒されて“召喚獣再生”が自動発動してる・・シャリが召喚できるようになるまでは後数十分はかかるだろうし、シャリを召還出来て以来、他の召喚獣なんて成功したためしがない・・ましてや残りの“気力”(MP)が少なすぎる・・ユナ達が町に戻ってこの情報を基に、何とか体制を整えられれば被害を最小限で抑えられるかもしれない・・)出来るだけ時間は稼いだよ・・」
ソロルは自分を陥れたアキトへの恨み辛みではなく、
信頼する仲間への気持ちを抱き、
静かに死の覚悟を決めた。
猿魔獣がゆっくり近づく中、ソロルは一筋の涙を零す。
キィィィィン!!!
その時ソロルの頭に閃光が走り声が響く。
『召喚して!!』
聞いたこともない知らない声。
でも確かに力強く。
直前まで無理だと諦めていた召喚魔法が今なら
出来ると自信が溢れてくる感じさえした。
「魔法陣展開!!」
ソロルがそう唱えると、自身の身体が
光り輝き確かな力が湧き出てくる。
今までにない感覚にソロルは成功を確信していた。
魔法陣の眩い光の中、猿魔獣は腕を振り上げる。
「召喚!!」
ソロルが技能を発動させた瞬間
“気力”(MP)が全消費され、
身体から力が抜けていく。
意識が薄れていく中ソロルは確かに見た。
ガギーン!
シュパン!
動く二つの影を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます