薄の原は黄金、空は青
暁 雪白
第1話 正妃の葬儀
「ね、第一皇子の横に控えているの、イレンじゃない?」
「今日は、第一皇子のお妃様の葬儀だというのに、たかが下級宮女でしかないくせに、イレンったらよくもまあ、あんなに皇子様の近くで」
「はしたないったら……」
「お妃さまが亡くなられたら、さっそく色目を使って」
下級宮女のイレンは、棺の横で喪の儀式を行っている第一皇子―――シュオウ皇子の後ろに控えていた。イレンをじろじろと見ながら扇の陰で彼女をあげつらっている高級宮女たちの姿が、当然見えている。声も聞こえている。聞こえるようにあてこすられているのだ。
イレンはちらりとそちらに視線をやってから、目を伏せた。自分がどういう風に言われているかは、知っている。傷つかないわけではない。
(でも、ここで生きていくしかない……)
「イレン」
静かな声にイレンはハッと顔を上げた。
かがみこんでいた棺から上体を起こしたシュオウが、呼んだのだ。そこには、真っ白の麻の上着を身につけた偉丈夫が立っていた。美しい、とイレンは思った。上背のある堂々たる体躯、布の上からも鍛えているのが分かる精悍な体つき、鋭角の顎の線、くっきりとした眉に強い瞳。来年には二十歳を迎える第一皇子。
「退出する」
低い声が響き渡ると、参列していた人々が波のようにざあっと頭を下げていく。人々がかしずく中をシュオウは淡々と歩みを進める。イレンはその後にシュオウの御物を持って続く。シュオウが通り過ぎたところから、ゆっくりと人々の頭が上がっていき、そしてイレンを見る。その目の全ては、「下級宮女ごときが」という嘲りが浮かんでいる。
―――皇子のお情けを頂いているんだよ、葬儀の席にまで出てきて
―――正妃様の葬儀の席に出てきて、愛人気取り
―――見てごらん、あのふてぶてしい面構え、おおかた正妃様を亡き者にしたのもあの女じゃないのか
すべてイレンの耳に聞こえるように囁かれた。
イレンは目を伏せて、出てくる足にひっかからないように長い裾を捌きながら、通り過ぎる。心の中で呟く。
(―――ここは地獄)
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