イフイフ、イフイフイフ
吾輩は藪の中
シコウのビコウ いっかいめ〜
「君は世界の中心で迷子になり、オレオクッキーがミルクに飛び込んだ後のような、真っ白で甘く揺れる、
声を発したのは、少女とも女性とも言い
あなたはこの、よく分からなくて、乱雑で、奇怪で、理解不能で、
これから彼女の言う事をよく聴き、よく動いていきましょう。
……?
どうして漢字が音をきく為の聴くなのって? あぁ、だってそれはもう。
――イフイフ、イフイフイフですから。
「さぁ、ここからどうすれば、あなたは甘味な香りのする、まぁるいお菓子にならずに済むでしょうか」
イフは背もたれのある白いソファーに座っていて、上から下まで全身真っ白のワンピースにしわが寄らないよう、膝の上に両手を置いていました。
彼女の後ろにある白い壁には、ピート・モンドリアンの『赤と青と黄色のコンポジション』という絵が飾ってあって、どことなく高貴な雰囲気が醸し出されています。
もちろん、あなたは困惑をしました。
ここは一体どこで、あなたは誰で、自分はなんの為にここに居るのかと。
そうですよね、勿論そうだろうと思います。
語り手もこんな状況にあったら、夜泣きをする赤ん坊よりもひどく
本当にとてもイミテイティブですよ。
「あらっ。私の事も、ここの事も、なぜ連れてこられたのかも、把握してなかったんですね。これは失礼しました。いえ失念です。……そうですね、私は管理人イフともうします」
彼女は笑ったような表情をしながら、小首をかしげます。
なぜ断定型ではないのかというと、あなたも分かる通り彼女が黒のマスクをしてるからですね。不思議です、マスクですよマスク。
かぜでもないのにどうしてマスクをするのでしょうか、語り手にはよく分かりません。
あれ程に大きく可愛らしい目(ちなみに金色)で、薄紫の長髪にネイビーブルーのメッシュを入れた派手派手な見た目なのに、マスクだなんて。
驚きすぎて5回くらいマスクって言っちゃいましたよホント。
てか上のほうに色が集中しすぎて目立っているのでは? これは語り手に美的センスがないから、そんな風に思うのでしょうか、不思議です。
なんて、そうこうしているうちに、あなたはイフに対して答えを早くするようにせがみました。
「そうせがまないでくださいよ〜。白髪も出来るしお肌にも悪いですよっ?♪」
あぁ〜〜こぉぉりゃムカつきますねぇ〜っ。あなたの目線じゃなくてこれはもう、怒りの音楽が流れちゃいますよ。
オコだぞ、の音楽ですね。いやはや、イミテイティブですなぁ。
「あなたは、イフとお話を"する"為にここに来ました。あ、というよりも、"作る"為に来たというのがただしいでしょう」
1つの丸テーブルを、あなたとイフが向かい合う形で囲んでいたのですが、イフはソファーから立ち上がり、あなたにとって左方向に歩き始めます。
部屋の配色はほぼ白でうめつくされていて、もはや壁がどこにあるかも分からないほどです。
彼女は端にあった黒いパネルに人差し指をそえます。
するとどこかから機械音が聞こえてきます。
イフはあなたに『上みて』といいました。
仕方のなさそうに天井を見ると、そこには、『
文字をみつめるあなたは、困惑に困惑を重ねた顔をし、思考を放棄したいとでもいわんばかりのためいきをもらします。
すると今度はそれを癒やすかのように、これまたどこかから、音楽が流れはじめました。
トランペットや静かなドラムの音が聴こえますが、妙にリズム感の良い物で、イフがいうにはアシッドジャズという踊れるジャズ音楽なのだそうです。
その音楽の波にのるように、部屋は1つの小宇宙に包まれました。
様々な星や惑星が、四方八方にあるのです。
語り手はこれをよく知っていますが、何度見ても驚くばかりですね。それと同時に、これこそまさにイミテイティブだな、とは思うのですが。
とはいえ、そこまで風情のわるい存在になりたくはないので、これもまた一興としておきましょう。
「あなたは、自分がこの世に居てはいけない、いらない人間だ、と思った事はありませんか? もはやその気持ちが強すぎて、"思い"ではなく"想い"だと、これまたいらぬ思考をしませんでしたか?」
言葉に合わせて身振り手振りで伝えるイフ。
悲しそうな仕草で下を見たり、あなたを見たり。
かと思えば、両手を握った形にして左胸にそれを置き、感情を高ぶらせる仕草をしてからあなたのほうを見たり、左手を左右にふったりと。
「というか、もはや想いすぎて重いっていうか! ナウい的な
ラップみたいに韻を踏みたいのでしょうけど、あれはもうダジャレすれすれですね。あーこわいこわい。
雰囲気バツグンにしてるのに、彼女の特異さが出すぎて。
あなたの反応はというと……。
あーーらもうっ、うぅつむいっちゃってますねぇ〜。ノリが合わなすぎたんでしょうきっとねぇ。可哀想に。
それにしても、今回の客人はアイデンティティを考える人、だったのですね。驚きです。
ここ最近の3人くらいは、自分がどうあるべきかなんて考えてな〜〜いみたいな人だったので、語り手としては少々面白さが増しています。
「やはりそうですね! そうです、あなたがここに居る理由はまさにそれなのです! なんてたってここは、自分の在り方を探し、悩み苦しむ方々を管理する場所、『イフイフ、イフイフイフ』なのですから!」
それを聞いたあなたは、暗い表情を明るい表情に変えたのです。にこ〜って。
塗りたくってグチャグチャに黒くなったパレットが、隅々まで洗い落とされてピカピカの真っ白い物になったように。
というかなんかこう、この客人、相当顔に感情が出やすい人なのでは?
「どうやら色々と分かってくれたようですね。ではあなたが、思いを想いすぎて重い尾母いってなってる原因を教えてください!」
そんな物理的にも前のめりで聞いたら、困っちゃうでしょ……。げんに、あなたはひぃって感じの顔してるし。
「おっと、元気のない客人にがっつくとダメだというのを思い出しました。失礼しました、いえ失念です」
もはや客人の記憶からイフを失念させてあげたいレベルですね。
「あなた様、この曲のドラムをよく聴いてください。………………なんだか、つくたーつくたーつくたーってきこえてきませんか?」
あなたはなんとなくうなづき、それがどうしたんだろうという顔をした。
「つくたーつくたーつくたー、つくた、つくった、作った……作った
いえ。全くなりません。
「という事であなた様、『あーこの世のおしまいだー最悪だー』と言ってください」
あなたはそれを復唱した、すると2人で囲むテーブルに丸い穴があいたのです。
まさか……そんなねぇ……。
そんな露骨に佃煮が出てくるわけな――。
「気分が変わったので、ポテチでも食べませんか?」
佃煮を出しましょうよ。裏切り行為だって。
旅立とうとしていた佃煮も『えぇ〜!?』って国民的な驚き方をしちゃいますよ。
涙ちょちょぎれて、キラリ〜ポロリ〜のレベルじゃありませんってホント。涙ダムが決壊して落涙の滝がフライングスプラッシュしますって。
「おや? 意外とあなたって笑うのですね、自分の存在意義を考えてる割には、悲観的ではなく楽観的なのですかね?」
……ん、確かに。クスクス笑ってる。…………なんでだろう。
語り手は思いました、これは、ますます興味が湧いてしまうではないかと。
それはもう温泉からお湯が湧いてくるようにドバドバと。
これは例えが少し下手だったかもしれませんね。イミテイティブ以下です。
「私はのり塩、あなたは? ……コンソメですね、ではどうぞ」
あなたはイフと一緒に袋を開けて、一口食べました。
食べた直後、あなたは体を大きく前に倒し、声を出しました。
涙です。涙を流しました。
正直、語り手には理解出来ませんでした。情緒不安定すぎてこの人がなにを考えているのか。
「あぁ…………とりあえず、ちゃんとお話を聞くから、ゆっくり順を追って話して、ね?」
そう言いながら彼女は、さきほど音楽をかけるために使ったパネルに触り、今度はギターとヴァイオリンの音が鳴るものをかけた。
ロックバラードというらしく、明確なジャンルではないけどこういう呼び方が多いのだそう。
ちなみに、天井に浮かび上がった文字は『前を向き過ぎても見失う物はある』でした。
「あとこっちも〜ってあれ、どれだっけ。あ、思い出した。失礼しました〜いえ失念です〜」
パネルをいじくると、部屋は宇宙から元の白い部屋に。それから絵画の方に向かい、飾ってあるそれの下を触る。
ふれた壁は丸くへこみ、そのまま奥まで進んだ。彼女は手を広げたまま、その場で待つ。
奥から出てきたのは、透明なドライヤーだった。風を送る部分には、左から黄緑、真ん中の水色、右の桃色の丸が浮いているだけのデザインでした。
それを手にした彼女は、そそくさとソファにもどってきます。
「ではでは、あなたの話を聞こうではないか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20分の時が経ちます…………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
Now Loading…………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えぇ〜と。もしも自分が世界に存在してると見せかけて、実は違う人物じゃないのか、心配でたまらないっ…………ですか」
これまたイフな話で、なんともなんとも……。
クリエイティブですね――――。
イフイフ、イフイフイフ 吾輩は藪の中 @amshsf
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