句読点の打ち方を説明できますか

 さて、句読点の打ち方を「具体的」に「規則」として説明できるだろうか。

 ほとんどの人が出来ないだろう。


 説明できるとしても、文章を読み上げて、息継ぎする所に打つ、強調したい単語の前後に打つ、この程度だろう。


 

 端的に言うと、「文を読み手に区別させる」これが「、」の役目だ。


 「、」の一番大事な役目は、文の単位を区別し、文の構造を明らかにすることにある。これには先に説明した、語順の問題も絡んでくる。


 語順を整理し、長い修飾が前に来ている場合は、「、」が長くても読解できる。

 逆に、短い修飾が前に来ている場合は「、」が必要になる。


 これらの要素によって「、」の打ち方は規則化できる。


① 短い修飾語が前に来ている場合に打つ。

② 長い文が連なって、意が異なる場合、その切れ目に打つ。

③ 「は」の後に打つ。(本来は必要はない。強調、または主格の変化を読み手に教えるために打つ)


・例


❌彼は、私の上にのしかかり、野獣のような、獰猛な笑みを向けた。

✅彼は私の上にのしかかり、野獣のような獰猛な笑みを向けた。


❌彼は、平然とした様子で、ひどい言葉を、口にした。

✅彼は平然とした様子で、ひどい言葉を口にした。

✅ひどい言葉を、彼は平然とした様子で口にした。

✅彼は平然とした様子でひどい言葉を口にした。


 「、」を打つ正解は一つではない。

 抵抗なく読める場合には、省いてしまっても良い。

 とくに日本語の並びを適切にして、漢字と平仮名の開きが適切な場合は「、」が無くても何となく読めてしまう。


 あってもなくても良い「、」は「読み手」のための「、」だ。

 実用文であったり、子供向けの文章なら、文意の切り替わりで「、」を打つべきだし、文章のリズムを重視するなら、文節や文字の開きを直す方がいい。

 硬い文章を書きたいと思うなら、「、」の数は厳選して減らすべきだ。


 一方、絶対に無ければ困る「、」も存在する。

 それは文章の曖昧さを打ち消すために打つ「、」だ。

 先に説明した内容と重複する部分もあるが、もう一度例をあげよう。


❌トムは痛みを抑えて銃を構えた盗賊を撃った。


 何だこりゃ? と思うだろう。

 だが、こういう文章はネット小説にはありがちだ。

 作者が勢いで書いてるため、妙なことに気付いていないのだ。


 前後の文脈があれば、悪文でも大丈夫だ。

 だが、この文だけで見ると、誰が何をしたか全くわからない。

 「痛みを抑えて」いるのは一体誰だ?


✅トムは痛みを抑えて、銃を構えた盗賊を撃った。

✅トムは、痛みを抑えて銃を構えた盗賊を撃った。


 トムと盗賊の動作を「、」で分けるとこうなる。

 どちらのパターンでも成り立つ。


 語順を修正すると、より明瞭な文章になる。

 

✅痛みを抑えて銃を構えた盗賊を、トムは撃った。

✅銃を構えた盗賊を、痛みを抑えてトムは撃った。


 こういった文章の修正は「、」と語順の機能をよく示している。

 文意を明瞭にするには、語順と「、」を意識する必要がある。これを知っているだけでも、文章の伝達力が向上するだろう。


 そうそう、私はことあるごとに一文一意で書けと主張するが、一文一意を心がけたとしても、とんでもない悪文がたまに生まれるので、それについても触れよう。


・例

❌トムは廃墟に装備を残して出発した。


 一見、意味が通るようだが、言外の意味がある。廃墟に装備を残したのか、それとも他の場所、拠点に装備を残して出発したのか?

 この文章からは、そんなことも読み取れてしまう。


 「、」のみで修正するとこうなる。


✅トムは廃墟に、装備を残して出発した。

✅トムは廃墟に装備を残して、出発した。


 意味は通るが、どちらも日本語としては引っかかりを感じる。

 述語に修飾を近づけて、語順も修正しよう。


✅トムは装備を残して、廃墟に出発した。

✅廃墟に装備を残して、トムは出発した。


 これで文意が非常に明瞭になった。


 さて、最後に「、」を打つパターンについて説明しておこう。

 チートシート、早見表として使って欲しい。

 個人的に頻度が高いと思われる順に並べた。



★★★★★★

① しかし、そして、接続詞の後に打たれる「、」。(場合によって省略が可能)


・例

❌しかしそれでは話としては困る。

✅しかし、それでは話としては困る。

✅しかし、困ったもんだ。

✅しかし困ったもんだ


★★★★★★

② 強調のために助詞を省略したり、呼びかけに相当する語が入る場合。


・例

「俺、参上!!」

「おお、来たか!」


★★★★★★

③ 平仮名や漢字が3つ以上続いて、読みづらい時。


・例

❌いったいなぜなのかそれはだれにもわからない。

❌花山台第三中学校長寿命化改良工事。

✅いったいなぜなのか、それはだれにもわからない。

✅花山台第三中学校、長寿命化、改良工事。


★★★★★★

④ 長い語群の後に打つ。~して、~ので、~とき、など。


・例

あったかいご飯を食べたので、ぽかぽか満腹。

暗いと思って時計を見たら、もう午後7時だった。


★★★★★★

⑤ 並列した関係、パターンを示す時。


・例

巨大人形兵器、ガンポム

痛い、苦しい、臭い、この世の不快のすべてを集めたような――


★★★★★★

⑥ 文章全体に係る副詞の後。(山田文法に於ける陳述副詞)


・例

多分、あの連中はトムのことを狙ったんだろう。

実際、そういう動きにしか見えなかったよな。


★★★★★★

⑦ 倒置法の使用を示す時。


・例

起きろよ、朝だぞ。

まだ起きたくない、眠い。


★★★★★★

⑧ 引用や説明を示す「と」の前後。


・例

「ボブの野郎は『金を出すなら行くぞ』と、いっていたよ」

ロケットランチャーの説明書には敵に向けて撃て、と書いてある。

★★★★★★


 以上だ。

 なにかの役に立てば幸いだ。


 次は文章の主題にかかわる文法について、まとめたものを書こうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る