〇くなる

物部がたり

〇くなる

 アフリカのサバンナに、とても鋭い棘を持つヤマアラシがいた。

 ヤマアラシは、その鋭い棘のためにいつも一匹だった。

「遊ぼうよ」と動物たちに近づいても、その度に逃げられてしまう。

「どうしてぼくを避けるのさ……遊ぼうよ……」

「おまえなんかと遊ぶかよ」

「どうしてさ……」

 ヤマアラシには、みんなが自分を避ける理由がわからなかった。


 ヤマアラシは楽しそうに遊ぶ、みんなの姿を遠くから眺めることしかできず、孤独だった。 

 何故、自分は嫌われるのか?

 どうすればみんなから好かれるのか?

 ヤマアラシは好かれる動物を観察してみることにした。

 まずシマウマを観察した。

 みんな寄り添い、共に駆け、日向ぼっこしていた。

 

 続いて、ゾウを観察した。

 長い鼻で水を掛け合ったり、泥を付け合ったりしていた。

 続いて、猿を観察した。

 毛づくろいをし合い、じゃれ合っていた

 キリンも、ヌーも、オリックスも、みんな寄り添って触れ合っていた。

 ヤマアラシは共通点に気付いた。

 仲良くなるにはスキンシップが大切なのだと。


 そうとわかれば早速、行動あるのみだった。

 ヤマアラシはみんなの中に駆けて行き、スキンシップを取ろうとした。

 が、みんなはヤマアラシから一目散に逃げて、距離をとってしまった。

「ヤマアラシが来たぞ! ヤマアラシが来たぞ!」

「みんな逃げろー!」

「待って……逃げないで。ぼくはみんなと触れ合いたいだけなんだ……」

 スキンシップが大切だと気付いたが、それ以前にヤマアラシは自分の背中に生える鋭い棘が原因で避けられていることには気付いていなかった。

 根本原因がわからず、ヤマアラシは途方に暮れてしまった。


 そんなとき「どうしたんだ?」とヤマアラシに声をかけてくる動物が現れた。

 声をかけられるのは初めてのことで、空耳かと思ったが「おい」と再び聞こえて、ヤマアラシは顔を上げた。

 そこには、ライオンが立っていた。

「やあ、ライオンさん」

「どうしたんだ、しけた面して」

「ライオンさんには関係ないだろ」

「関係ないが、話してみても損はないだろ」


 ヤマアラシはどうしたものか考えた結果、話してみることにした。

「実は、ぼくが近寄るとみんな逃げちゃうんだ……話をする前に逃げちゃうから、どうして逃げるのかもわからないんだ……」

 ライオンはたてがみを鋭い前足の爪で掻きながら「その鋭そうな棘が原因じゃないか」と答えた。

「棘が?」

「その棘をどうにかすれば、みんな逃げないと思うがな」

「棘をどうにかするって、どうするの?」

「抜いてしまえばいいのさ」

「棘を抜いたら、みんな避けなくなるかな?」


 ライオンはニッっと鋭い牙を覗かせて笑った。

「ああ、きっと仲間ができるぞ」

「そうか、そうだったのか!」

 根本原因がやっとわかって、ヤマアラシはライオンに感謝した。

 ヤマアラシはライオンの言う通り、棘を抜いてみることにした。

 岩にトゲトゲの背中を押し付けて、転がると岩の隙間に刺さった棘は折れるように抜けた。

 その行為を何百回も繰り返していると、ヤマアラシの背中にびっしりとあった棘は綺麗に無くなり、まるくなった。

 すると驚くことに、今までヤマアラシを避けていた動物たちは、ヤマアラシが近づいても逃げなくなり、友達ができたそうだ――。

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