第9話おまけ①【サーカス団】






シレンシオ

おまけ①「サーカス団」



 おまけ①【サーカス団】




























 「ジャック、俺を呼びだしておいて放ったらかしとは何だ」


 黒い髪に黒い服を着た男は、ため息を吐いた。


 「こっちも色々忙しくてね。バウラ、犬の毛があちこち散らばってるから、ちゃんと掃除しておけって言っただろ」


 「犬じゃないです!エリザベスです!」


 「わかったわかった。おいケント、なんでエリアとルージュは喧嘩してるんだ。止めろ」


 「あー、なんかルージュがエリアの下着を見て馬鹿にしたらしいけど、俺はどちらかというともっとセクシーなのでもいいかなって思ったけど、でもエリアの性格だと可愛いのでもいいかなって」


 「キ―ラとマトンは何処にいるんだ」


 「アヌース!!何処に隠れてるのよ!!私はここよ!!お姉ちゃんはここにいるわよ!!早く来て!熱い抱擁をして頂戴!!じゃないと私、死んでしまうわ!!」


 「いっそのこと死ねよ」


 「そんなところにいたのね!!アヌース!もっとよく顔を見せて頂戴!その可愛くて格好いい顔を見せて!!そしてキスさせて!!」


 「気持ち悪い。近づくな。まじ勘弁」


 「なんでそんなことを言うのよ!!わかったわ。ケントあたりに何か言われたのね!!私のあることないこと吹き込まれたのね!!なんて奴!なんて野郎!!ぶっ飛ばしてやるわ!!!」


 「いや、あることあることしか言われてないけど」


 「いやーん、助けてアヌース。私、ケントに寝とられるかもしれない」


 「勝手にされてろ」


 「そんなこと言って!本当は心配でしょうがないくせに!!安心して、アヌース。私はいつだってアヌースのものよ!!身も心もあなたのものよ!!」


 「いらねぇ」


 「・・・俺はひとまず帰った方がいいのか」


 「ああ、大丈夫。いつもこんな感じだ。ジョーカーがまた勝手にどっか行っちまったもんだから、はあ・・・。ああ、ひとまず俺の部屋に行こう」


 サーカスの舞台の椅子に腰かけていたアダム=メイソン、別名ノアは、ちょっとした知り合いのジャックのもとへ来ていた。


 緑の髪に紫の目をしている男で、このサーカス団の団長を務めている。


 ジャックの部屋に入ると、コーヒーを出された。


 アダムは頬杖をつき、足を組む。


 「実はこの前・・・」


 真剣な表情で話し始めたその時、ノックもされずにドアが開いた。


 そこから出てきたピエロの格好の男は、悪びれもなくにっこり微笑んでいた。


 「あれ?珍しい人がいるね。何か御用?」


 「俺はこいつに呼ばれただけだ」


 「あー、疲れた。何もしてないけど。なんで何もしてないのに疲れるんだろうね。それについて語り合おう」


 「勝手に語ってろ」


 部屋に入ってきた男は、首に色の星型、左目の下には緑色の涙の形のタトゥーをしていた。


髪の毛は綺麗な紫のグラデーションがかかっていて、“ノア”の時に似た笑みを浮かべている。


 「ジョーカー、これから大事な話があるから、部屋から出て行け」


 「えー、なんで俺はダメなの?良くない?だってジャックと一緒にいる歴そこそこ長いよ?それに、部屋の外でみんな聞き耳たててるけど、それでも良いの?」


 「・・・分かってるなら練習でもさせておけ」


 「嫌だよ。だってみんな言う事聞かないし」


 「あのなぁ」


 ジャックが呆れて額に手をつきため息を吐くと、バタバタと誰かが走ってきて、ジャックの前でがくんと膝から崩れて行った。


 何があったのかと思っていると、涙を流しながらこう言った。


 「聞いてジャックさん!!マトンが俺のエリザベスに牛乳なんて魅力的なものあげるから、エリザベスがマトンに懐いちゃったんですよ!!!!」


 「安い犬だな」


 「そういうことじゃないですよ!!!どうして手塩にかけて育ててきたエリザベスを、あんな男にとられなくちゃいけないんですか!どういうことですか!!」


 「お前が手塩にかけたんじゃねえ。俺がかけたんだ。バウラ、お前覚えてないのか?お前は犬を飼いたい、絶対にちゃんと調教するから飼ってくれと頼んできて、あの犬を適当に連れてきたら、最初こそは可愛い可愛いで散歩にも連れて行ってたし餌もやってたくせに、2日目にしてすぐ眠いから散歩は無理だの、餌をあげたか忘れるから代わりにやってくれだのと、まるで子供が犬を飼いたいと言って飼い始めたのは良かったが、結局は親が面倒を見る羽目になったっていう、アレだ。まさしくアレだ。つまり、手塩にかけて育てたのは俺だ」


 「はい、すみませんでした。でも今はそんなことどうでもいいんです!!」


 「そんなことだと・・・」


 「ひっ!!!」


 アダムからは良く見えないが、バウラはジャックを見て顔を引き攣らせ、青くさせながら大人しく部屋を出て行った。


 その間、なぜだかジョーカーは勝手にクッキーの缶を見つけて開けて食べていた。


 ようやく静かになったと思ったジャックは、アダムの方を見て口を開いた時、2人の女性が入ってきた。


 「ちょっとジャックどうなってるのよ!!なんで私がルージュの前座みたいなことしなくちゃいけないのよ!!納得いかないんだけど!!」


 「・・・文句があるなら出なくていいんだぞ」


 「そういうことを言ってるんじゃないのよ!!ルージュがね、なんていったか知ってる!?『私の方が芸が上手いから、ただ、それだけ・・・』ですってよ!?なんなの!?クールな感じで決めやがって、なんなの!?超腹立つんだけど!!!」


 「あのな」


 「エリア、五月蠅い」


 「はああああ!?なんでこんなことになったと思ってるのよ!!もしかしてあんた、裏工作したんじゃないでしょうね!!ジャックに身体でも売ったんじゃないでしょうね!!」


 「・・・はあ」


 「ため息!!ため息吐いたわよこいつ!!ふざけんじゃねえわ!!まじサシで一回やりあおう。ね。そうしよう。私冷静になるから。一回ブン殴らせてくれたら私多分今よりずっと大人になれるから」


 「私はいいけど、負けるのはエリア」


 「・・・!!ぶっちーんて、今ぶっちーんて音がしたわ。ああそう!!そんなこと言うのあんた!!この私に喧嘩売っておいて、ただで済むと思わないでよね!!!」


 エリアがルージュの胸倉を掴みあげたそのとき、にこにこと爽やかな笑顔を浮かべながら入ってきたケントが、エリアとルージュの首根っこを掴んで、部屋から笑顔のまま出て行った。


 嵐がまた過ぎ去ったと思うと、今度は1人の男がやってきた。


 「なんだアヌース、今大事な話を」


 「アイーダが追いかけてくる。かくまって」


 「だから、これから大事な話を」


 「アヌース!!ここにいるんでしょ!!さっき部屋に入ってくの見たもんねーー!!もう!私に構ってほしいからって、どうしてそういう可愛いことをするのかしら!!だからアヌースって大好きよ、私!!!」


 「アイーダ、ノックぐらいしろ」


 「ジャック、アヌース見たでしょ?何処にいるの?私に差し出しなさい」


 「そんなことより、お前演劇中にアヌースのこと見過ぎだ。今度そんなことしたら」


 「アヌース何処にいるの!!?あなたの大好きなお姉ちゃんが迎えに来たから、安心して出てきなさい!!!」


 「お前がいるから安心出来ねえんだよ」


 「ジャック、あなたには本当の愛ってものが分かってないのね。可哀そうな人。私とアヌースは、生まれたときから結ばれる運命にあるのよ!!私は分かっているの!!だからアヌース!!私に抱きついてきなさい!全力で受け止めてあげるわ!!!」


 そこへ、先程の如く、ケントがにこにこした笑みのまま部屋に入ってきて、叫び続けるアイーダの首根っこを掴んで、また静かに笑顔のまま去って行った。


 それを見て、ジョーカーはクッキーを頬張りながら、至極楽しそうに笑っていた。


 ジャックは額に手を当てたまま、腰を曲げてしばらく黙っていた。


 「・・・・・・」


 アダムは椅子から立ち上がると、そのままドアノブを掴んで少しドアを開ける。


 「今日のところは帰る。後日でいいか」


 「・・・ああ、悪いな」


 バタン、とドアが閉められたあと、ジャックは静かに椅子から立ち上がり、クッキーを食べているジョーカーを引き連れて、みなを舞台に呼んだ。


 何をさせられたのかと言うと、それは想像にお任せしますが、ただ1つ言えることは、本物の雷よりも怖いものを、落とされてしまったようです。








 「アダム=メイソンねぇ。なんでノアなんて名前で商売してるの?」


 「本人に聞け」


 「本人いないじゃん」


 「暇なら聞きに行け」


 「暇じゃないのにな。こう見えて、次の人間を漁るのに大変なんだよ?」


 「ジョーカー」


 「なに?」


 「ソファに寝そべりながら、菓子喰ってる奴の言う台詞じゃねえからな」


 「・・・こわぁーい」



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