前略、迷探偵に目をつけられました
「やあ、こんにちは」
ホロウエコー本社の配信用に設けられた部屋で、ショートカットの黒髪とシャーロック・ホームズが被っているような探偵帽を頭に乗せた少女が椅子を回転させて振り返った。
「あなたが、煌々院輝夜さんの?」
「そう、天才名探偵の慶光院照だ。はじめまして」
この人、Vのロールプレイを現実にも当てはめているのか…?
「はじめまして、灯織漣です。小波灯として公式スタッフの立場で働かせてもらってます」
「堅苦しいね。別に照と呼んでくれて構わないよ」
「いや、そういうわけには」
「僕、助手とは対等な関係を結びたいのさ」
「…助手?」
「おや?僕のヴィッターを見てないのかい?」
スマホで慶光院さんのヴィったーを確認すると、何故か俺が助手候補ということになっていた。
「まあ助手と言ってもただの肩書だし、ホームズにはワトソンが必要だろう?」
「……なるほど…」
ただの肩書。だったら少し言いたいことがある。
「俺、ワトソン嫌いなんですよ。
「ぶっ飛ばすよ君?ホームズは僕の役だからね?」
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「皆様ご機嫌麗しゅう。ホロエコ1期生にして世紀の名探偵、煌々院輝夜だよ」
「皆様如何お過ごしでしょうか。勝手に助手候補にされた公式スタッフの小波灯です」
[きちゃ!]
[待ってたよ]
[ウチの探偵を救ってくださいお願いします]
[メッセージが削除されました]
「今日はこの名探偵をも苦しめる『ヒルトン教授の事件簿』を小波くんとともに攻略していこうと思うよ」
「コラボの話をいただいたときは驚きましたね。なにせ昨日の今日でしたから」
「思い立ったらすぐ動くのが僕のモットーだからね」
「わかりますね。仕事はすぐに片づけるのが吉です」
[なんかちょっと違くない?]
[迷々院は仕事と関係ないことをすぐにしだすからな]
[まあ仲良さそうだからヨシ!]
「で、進行上解かないといけない謎が解けずに1ヶ月ほど放置していると聞きましたが」
「ぐっ、放置とは語弊があるよ。君のために取っておいたのさ」
「1ヶ月前から?」
「…あぁ、僕の目はすべてを見通すからね」
「ふーん、そっすか。はよ始めましょう」
「投げやりだな君、少しは楽しんでいこうじゃないか」
「いや、楽しみですけど?頼みますよワトソン君」
「ホームズは!ぼ!く!」
[初対面なのに仲いいなコイツら]
[迷々院はあかりんに大人しく従ってもろて]
[これが…かぐ×あかか…]
[は?あか×かぐだろうが]
「で?どれが問題なんですか……大根役者、一目瞭然、相思相愛、無味乾燥が『ある』、千両役者、五里霧中、自己嫌悪、興味津々が『ない』と分類される時、一期一会はどちらに当たるか?」
結構ベタなやつだな。俺は迷いなく「ある」を選択する。
正解だった。
「え、えっ?」
[はっや]
[これは名探偵]
[迷々院、お前もう探偵役降りろ]
[残当]
「ち、ちなみになんで分かったんだい?」
「解説をどうぞ」
「え、ええと、『ある』に分類されている四字熟語にはそれぞれ、『だいこん』『くり』『しそ』『みかん』と食べ物の名前が入っている…そういうことだったのか…!」
[逆になんで気づかなかったんや…]
[おい輝夜ちょっとそこ代われ 遠山コダマ]
[私が初コラボの相手になるはずだったのに… 天色空音]
[あっ]
「リスナーからヒントもらったりしなかったんですか?」
「探偵の矜持で問題を解くときはコメントを見ないようにしてるんだよ」
「わからないなら素直にリスナーに頼ればいいのに…」
[おいおい、燃えたぜアイツ]
[謎の意地であかりんが燃える!]
[あの迷探偵を燃やせ 遠山コダマ]
[くらうど、やれ 天色空音]
何やらコメント欄が騒がしい。おかしい、俺は何もしていないはずだ。
「煌々院さん、なんかコメント欄が荒れてます」
「え?コダマに、空音?あぁ、彼は僕が先にコラボさせてもらったよ。…あー、…いえーい、ふたりとも見ってるー?今から君たちがお熱の小波くんと、お先にコラボしちゃいまーす!」
[◯す 遠山コダマ]
[呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪 天色空音]
[NTRビデオレターやめろ]
[あか×そら推しなんですが脳破壊されました]
[脳が破壊された…]
「え、こわ、天色さん怖い」
「ワトソン君、こういうのは知らぬが仏、いや、君子危うきに近寄らずだ。無視して謎を解明していくぞ」
いや、そんな事言われましても…てか、天色さん?『くらうど、やれ』ってやばくないですか?
「あ、はい。えっと、お二人も機会があればコラボ誘ってください」
「さあ、ここからはフィールドワークだ!」
謎を解いたことでストーリーが進行し、表示されているマップの景観を調べることで、事件の証言を集めたり、サイドストーリーや謎解きを行うパートになった。
「明らかに怪しい身なりの英国紳士がいますが」
「本当だ。明らかに怪しいから他のところも見ていこう」
「こういう尖塔とかのてっぺんにヒントコインとかありそうですよね」
「慧眼だね。10枚も出てきた。まあ使わないけど」
「使わないんですか?」
「実際の事件現場でヒントを教えてくれるシステムがどこにあるんだい?」
「何その無駄なプロ意識…嫌いじゃないですけど」
「やっぱりマップは完全に埋めてから次に進みたいからね。おかげさまでコインはもう100枚を超えてるんだよ」
二人で怪しそうな所をタップしていくと、新しい謎解きを見つけた。
「今回はイラスト形式ですね。『この写真は2年前にある部屋の様子を写したものだ。この写真を撮って以降、部屋は一度も開けられたこともなく、窓から人が入ったこともない。この2年間で部屋に変化があった部分はどこか。ホコリが積もることはないものとする』」
「まさに、探偵らしい謎解きじゃないか。僕にぴったりだね」
「テーブルの上には何も乗っていない皿、水の入ったピッチャー、花のない花瓶、ご飯食べる気あるんですかね?」
「床も雑誌や服が散乱してるね。一体この部屋で何が起こったんだ…?」
「あ、下にある赤い円を動かして変化のある部分に重ねれば良いんですね」
「なるほどね…まず、君の意見を聞こうか。ワトソン君」
「ふむ…じゃあ愚鈍な助手役としての意見を一つ。結構簡単じゃないですか?」
「そうだね。明らかに一つ、他と違うものが混じっている」
「答え合わせといこうか」
「せーの行きましょうか」
「「せーの!」」
二人で画面の同じところを指差す。
「やっぱりピッチャーが怪しいですよね」
「ああ、水は自然蒸発するからね。2年も経てば多少なりとも水位が減っているはずだ」
「ということでドーン。正解は〜?」
赤丸をビッチャーに合わせて正誤判定に向かうと、予想通り正解。
「余裕だったな」
「ええ、俺達には簡単すぎます」
[息あってるな]
[今気づいた。これNTRじゃなくてWSSでは?]
[一部界隈が燃えて一部界隈が萌えるな]
[これ今回の配信でメインストーリー終わらせられるんじゃないか?]
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