前略、迷探偵に目をつけられました

前略、ゲームをすることになりました

水宮さんと火宮さんのデビューが無事終了し、俺もマネージャーとしての仕事が一段落ついた頃のある金曜日のこと。


「あ、皆さん。この前の水宮さんと火宮さんのデビュー配信は見ていただけましたか?」


[見たで]

[もう開き直ってるやんけ]

[いやー、荒れたね]


「ね、俺も二人があんな事言うとは予想できなかった。ちゃんと口止めしておくべきでした。反省してまーす」


[ほんまか?w]

[反省してなさそう]

[むしろ楽しんでるだろ]


「口止めしなかったのはこっちのミスだし、二人が責められる謂れはないから。言いたいことあったらマシュマロでもなんでも送ってくださいな。またキャンプ配信で供養するから」


[またやるのあれ]

[いいんじゃない?独自の企画持っておいた方が良いし]

[スタジオでタレントの相談とかやってもいいかもな]


「うん。まあそれもおいおい考えていくとして……まずは直近の課題から解決していこうか」


[なんや]

[またやらかしたのか?]

[どんくらい燃える見込み?]


「いつでも俺が燃えると思わんでくださいよ。今回は運営さんから『流石にゲーム配信とかそろそろやってもらってもいいですかね?』と言われたのでゲームやっていきます」


[経緯草]

[まあ一応タレントだし…]

[先輩スタッフ二人も週1でやってるからな]


「温水さんはほのぼの育成系やってましたね。まあ普段が忙しいので心に癒やしを求めてるんでしょう。火ノ川先輩はVRFPSやってたよね?なんか…普段の感じとはぜんぜん違うっていうか…びっくりした」


[光ちゃんトリガーハッピーだから…]

[よく若ちゃんといっしょにやってるよね]

[で、あかりんは何するん?]


「俺もVRFPSしようかなと思ったんですが…まあ、燃えるよねって。なので高難易度アクションRPGします。社畜の精神力を舐めるな」


同時にゲームタイトルを表示する。「ダークスピリット」、高難易度アクションRPGとして界隈に君臨する名作である。


[ダクスやるのか]

[終わるか?]

[ステ振りどうすんのよ]


「ステ振りね。実はもう考えてます」


このゲームでは敵を倒すとスピリットという経験値を手に入れることができ、それで武器の修理やレベルアップを行うことが出来る。その際にステータスに数値を割り振ることが出来るのだが、これがとても重要だ。


「諸君、例えば上司から理不尽な暴言を吐かれたとき、君たちはどうする?」


[なんか始まったな]

[演説]

[戦争でもするのか?]


「諸君、もし大切な人が奪われたら、君たちはどうする?」


「諸君、大勢の敵に囲まれたとき、君たちはどう切り抜ける?」


「頭を使う?否!」


「そもそも争いが起きないよう立ち回る?否!」


「他人に縋る?否ッ!!」


「諸君、上司に理不尽な暴言を吐かれたら、二度とその口が閉じないよう顎を粉砕しろ」


「諸君、大切な人が奪われたら、即刻奪い返せ」


「諸君、大勢の敵に囲まれたとき、迷わず拳を振り抜け!」


「力だ、力こそがすべてを解決する。力こそPower、Powerこそ力…」


[脳筋戦士かよぉ!]

[パワー!]

[やはり暴力、暴力はすべてを解決する!]


「というわけで脳筋戦士ビルドで敵どもを蹴散らしていくよー!」



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「レベルも結構上がって、いい感じに重武器が振り回せるようになってきたな」


[超高火力キモチイー!]

[一撃で消し飛んでくの最高]

[っぱ火力よな]


「そろそろボスじゃないかな…あ、ボスだボス」


しばらくストーリーを進めていると、四足歩行のトカゲのようなボスキャラが現れた。


[雑魚敵見かけたときと同じ反応すな]

[今までローリングとバックステップでほとんどの被弾を避けてきた男だ。面構えが違う]

[こういう輩は初見の技にて一瞬で葬る…]


「ハァ!?急に腹が裂けて飲み込まれそうになったんですが!?」


一応距離を取っていたためバックステップで回避することができたが、こんなの初見殺しだろ。難易度ムズすぎない?


[な、ん、で!!]

[なぜ今のに初見で反応できる!?]

[こんなの僕のデータにないぞ!]


「VRやってたときの反応速度が活かされたみたい。まだ捨てたものじゃないな」


ボスの攻撃はさっきの腹噛みつき、頭噛みつき、尻尾の薙ぎ払い、一定時間スタンする咆哮。


全部発生前に兆候があるので、しっかり見ていれば躱せる!


「そのような大振り、当たらなければどうということはないわァ!」


[ブーメラン刺さってますよ、大振り脳筋重剣士さん]

[当てる工夫をしてるから…]

[ボス相手でもゴリゴリ削れるな]


「しゃあ撃破!火力積んで出直してこい!」


[相手にも脳筋理論押し付けるのやめてもろて]

[難易度上げたらもっと火力出してくれるから…]

[撃破おめ! 遠山コダマ]

[コダマおる!?]

[逃げろあかりん!]


「ボスドロップは何がもらえるかなぁ〜…重武器だといいなぁ」


[あかん気づいてない!]

[逃げろぉおおお!!]

[お前らワタシの扱いひどくないか? 遠山コダマ]

[ガチで囲い込む気なのか?]


「なんだ…片手剣か…え?遠山さんいるの?マジ?」


俺がゲームに集中している間、何やらコメント欄が騒然となっていたらしい。


なんと1期生の遠山コダマさんがコメ欄に出没していた。


[いるよー 遠山コダマ]

[逃げて超逃げて!]

[不味い!炎があかりんに突撃しに来てる!]


「えーっと、あの、初配信のときからずっと見て、応援してました。こうして同じ事務所で働くことができて光栄です」


[自ら火に飛び込んでいったー!!]

[まじかよ、あんな女のどこがいいんだか…]

[まじ!? 遠山コダマ]


「隙間時間とかで前職のときの見れてない配信アーカイブ漁ってるので、まだ最近の配信は追えてないんですけど、本当に、大好きです」


[あ]

[火に油注いでどうする…]

[ミ゜ 遠山コダマ]

[イケボの「大好き」は凶器。はっきりわかんだね]


「遠山さんが発音不可能な日本語をコメントで呟いてる…?」


[¥10000 遠山コダマ]

[¥10000 遠山コダマ]

[¥10000 遠山コダマ]

[無言スパチャこわ…]

[お前それ推しが来た時のガチャの軍資金だろ!?]

[え?推しにスパチャしてるだけだよ? 遠山コダマ]


「え、ちょ、何やってるんです!?本当に!俺なんかにスパチャ投げなくていいですから!」


[¥10000 そういう謙虚なところも推せる。あれ、ワタシの理想の推しってもしかしなくてもあかりんなのでは? 遠山コダマ]

[ガチ恋勢発狂のお知らせ]

[じゃあなあかりん!諦めてスピリットになってくれ!]


「いやほんとに!そんな大事なお金もらえませんよ!」


[¥10000 いや、ワタシの気持ちだから!受け取って! 遠山コダマ]

[赤スパでコメントする縛りでもしてるの?]

[運営さんこのバカを止めて!]

[助けて運営おねがいやくめでしょ]


突然俺の配信に登場した遠山コダマさんは、自分のクレジットカードが限度額に達し止められるまで、俺に赤スパを送り続けた。


後に「コダマ暴走事件」または「ダークスパチャ事件」と呼ばれるこの出来事は、小波灯と遠山さんのガチ恋勢の間に深い溝を構築し、それが埋まることは一生なかった…



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呼んでいただきありがとうございます。作者の梢葉月です。


実は裏で新作を書き貯めてまして…今夜の筆の調子が良ければ8月10日から投稿していきます。


近未来の現代ファンタジー物です。真剣での仕合が闘道というスポーツとなった日本で、闘道の育成学校に陸上自衛隊に所属する主人公が転校するお話です。


具体的なあらすじは投稿の際にこちらでもお知らせするので、もしこの場で興味を持ったら作者のフォローをよろしくお願いします。

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