前略、新人タレントが思い詰めているようです

2回。2回だ。2回もPCがフリーズしてこの話のデータが消えた。


というわけで怨念こめて書きました。2日おきに投稿したいのに遅れちゃってごめんなさい。



======================================



4月の2週目。正式にホロウエコー3期生2名の担当マネージャーとなった俺は、事務所のある本社を離れ、23区内の趣のあるとある喫茶店にお邪魔していた。


なんでもここは2人が勉強をするときなどによく訪れるそうで、家からも近いので学校帰りに軽く打ち合わせをするのにもってこいの場所だった。


「ご注文は」


「キャラメルラテ、キャラメル多めで」


「かしこまりました」


店員さんに飲み物を注文すると、持ってきた鞄を空けノートパソコンを取り出す。


さて、溜まっている仕事は、と。


「3期生のデビュー後の予定…あとデビュー前の歌ってみたの収録とかも調整しないとな…」


こういった古風な喫茶店は隠れた名店と言って差し支えなく、落ち着いた雰囲気がとても心地よい。


俺もプライベートで寄らせてもらうかもしれないな。


30分ほど仕事を片付けていると、チリンとドアの鈴が鳴り来客を告げた。


「すみません、先に男性が来ていると思うんですけど」


「こっちです」


火箱さんの声が聞こえたので、入口に向けて手を振ると足音が近づいてきた。


水無瀬さんも後ろからついてきている。


「すみません。待たせちゃいましたか?」


「いえいえ、ここの喫茶店の雰囲気がとても気に入ったので気にしませんでした」


二人が向かいの席に座る。


「飲み物と、あとなにか食べたいものがあれば好きに頼んでください。俺が払いますから」


「えっ、そんな、悪いですよ」


水無瀬さんが遠慮したように言うが、火箱さんは既にメニューを開いていた。


この子、いい意味で図々しいな。


「これは断るのが野暮ってものよ。好意に甘えちゃおう?」


「す、すみません。あんまり高くないのを選びますので…」


対して水無瀬さんはおずおずと一緒にメニュー表を覗き込んだ。本当に対照的だ、この二人は。


「注文は、決まりましたか?」


「私はアイスティーとクランベリーソースのパンケーキにします」


「水無瀬さんは?」


「あ、えっと…」


まだ決めあぐねていたのか、水無瀬さんは歯切れの悪い言葉を発する。


「あの…灯織さんが飲んでるのは、なんですか?」


「え?ああ、キャラメルラテのキャラメル多めです」


「じ、じゃあそれで」


「遠慮しなくていいのに〜」


火箱さんが店員を呼んで注文を告げる。


「さて、じゃあ注文が来る前に、本題の話をしましょう」


俺は鞄から紙を2枚取り出す。


「後でメールでも送りますが、これが初配信の流れです」


2人は紙を受け取ると、吟味するように顔を下げた。


「1時間程度の配信を予定しています。20時から22時までの2時間で、前半は火箱さん、後半は水無瀬さんが配信をする形です。まあ順番に関しては希望があれば変更も可能なので、 お二人で話し合ってもらっても構いません」


「…どうする?」


「変えなくてもいい、かな。日時も、アタシ達は特に部活には入ってないので、大丈夫だと思います」


「了解です。ではこの日時で決定、ということで」


そこから2、3ほど配信の注意事項について説明を行う。


「配信終了時にはマイクの切り忘れに注意してください。結構音拾うので、生活音が垂れ流しになってしまうかもしれないので」


「そ、それって放送事故になる、ってことですか?」


「そうですね。まあそれが発端になってバズるってこともありますけど、確率は低いでしょう」


ホロエコの遠山コダマさんは初め清楚キャラでやっていたが、初配信でマイクを切り忘れ素をネットにばら撒き、突っ込まれても逆に開き直るという鋼の精神で人気を獲得したギャンブラーの一人だ。


「まあお二人は配信の技術も既に学んでるそうですし、いつもどおりやれば問題なんて起きないですよ」


「それがいつも本番でできれば苦労しないんです…はぁ。むーちゃんはそういうのそつなくこなせるから羨ましい」


「アタシだって緊張するときはするけどね〜」


ちょうどそこで2人の注文したパンケーキと飲み物が運ばれてきた。


「仕事の話はこれで終わりにしましょう。ここからはおやつの時間です」


「わーい。いただきまーす」


「い、いただきます」


火箱さんがパンケーキを切り分けて口に頬張る。


「んんーっ、美味しい!」


「…これ、甘い」


「そりゃキャラメル多めですから。もしかして甘いの苦手ですか?」


「い、いえ、そういうわけじゃ」


「志希ちゃん結構甘党ですよ?キャラメルラテを飲んだことがなかったので味に驚いてるんじゃないですかね」


「美味しいですか?」


「はい…!」


「志希ちゃん。アタシのパンケーキ一口食べる?」


「あ、うん。せっかくだし貰おうかな」


少女2人が仲睦まじくパンケーキを食べている。……あれ、これ俺お邪魔なのでは?ボブは訝しんだ。


さて、このまま何も放さず黙々とティータイムっていうのも味気ないので、なにか話題を提供しよう…


「そういえばそろそろ新学期が始まって1週間位ですね。どうですか?」


「んー、まあまあ、ですね。女子校なのでクラスが変わっても他の子達はいつメンで集まったりしてます」


「……いつ、メン?」


聞き慣れない言葉に思わず首を傾げる。


「あ、えっと、『いつものメンバー』の略です」


「あ〜。なるほど、じゃあ水無瀬さんと火箱さんはいつメンなんですね」


「まあ、そんな感じです」


あっぶねー。高校時代に全く友人を作れなかった俺の浅い経験がボロを出してしまった。


「昼食はどこで食べたりするんですか?講堂みたいなところとかで?」


「ほとんど教室ですね。天気の良い日は校庭とか中庭で食べてますよ」


「そうなんですか。俺が学生の頃は屋上とかで食べてる生徒も多かったんですけど」


「あ、それ聞いたことあります。今は安全面とかで屋上は緊急時意外入れないようになってるんですよね。残念だなぁ」


まあ、俺は屋上でまともに飯を食えたことがないが。


あー、ダメだな。さっさと話を方向転換しよう。


「でも、いつメン以外にも友達ってできますよね?」


「うーん、こう言ったら失礼ですけど、志希ちゃんは内向的なタイプなので私以外とあんまり話すところを見たことがないですね」


「…むーちゃんは、よく私とご飯食べてくれるんです。他の人もきっとむーちゃんと話したいと思ってるのに」


「だって、アタシの中の優先順位は志希ちゃんが圧倒的に上だもん。志希ちゃんと以外食べなーい」


「…もう」


――少し、水無瀬さんの雰囲気が曇った。火箱さんのことを憂いでいるのとは少し違う気がする。


「交友関係とかは広くて損は……無いこともないですけど、広げておくのは大事ですよ」


「大丈夫ですよー。授業の合間の休み時間のときに会話してますから」


「……」


「…というか、保護者でもないのに俺がそう言ったことに口出しするのはお門違いですね」


「いやいや、そんなことないですよ?」


「…いらぬおせっかいかも知れませんけど、困ったことがあったら言ってくださいね」


少なくとも俺は二人のマネージャーなのだから、これくらいのおせっかいなら許されるはずだ。


「あ、水無瀬さん。口にソース付いてますよ」


「え、うそっ、ど、どこですか?」


「あ、ホントだー。待って、拭くから」


「むぐむぐ」


微笑ましい光景を眺めながら、俺はカップに口を付けて飲み干す。



ああーーー!!百合っててえてえ―――!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る