前略、炎上しました(数週間ぶり2回目)

カクヨムコン9にこの作品を応募してみようと思います!


最後にカクヨムコン参加用新作のリンクを貼っておくので、興味があればぜひ呼んでください!


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結論から言うと、特に俺に処罰が下ることはなかった。


あの後大野先輩とともに社長に経緯を話し、そのまま重役会議が開かれた。


俺と藍原さんは当事者ということで、藍原さんが今までに受けたセクハラ、俺が大学時代にあった五味先輩の女癖の悪さについて話すと、藍原さんと俺はそのまま自宅待機ということで家に帰ることになった。


その日の夜にホロエコのVitterの公式アカウントにて翌日天色さんのチャンネルで説明を行うこと、マネージャーは解任したことが伝えられた。


藍原さんのファンであるクラウドの一部から運営の責任を追求する声が上がっていたが、大多数のクラウドは藍原さんに心配の声を上げていた。


「藍原さんに怪我がなくて本当に良かったけど」


現在時刻午後5時。いつもであれば仕事をしている時間であり、社畜だったオレの部屋には娯楽品など殆どないのですることがない。


「あー、フルダイブVRゲームのハード、あれまだ使えるのかな」


とりあえず退屈を紛らすものがないか考えていた俺は数年前に発売され今でも爆発的人気を誇るフルダイブ型VRヘッドギアの存在を思い出した。


PCや家庭用ゲーム機よりも値が張るヘッドギアは、当時バイトを掛け持ちしてやっとこさ買った思い出の品だ。


サバゲーのサークルに所属していた頃は、サークル全員でFPSのゲームをやり込んだりいていたが、卒業後はログインはおろか、取り出してすらない。


「……そういえば、今度鞍馬さんがやるって言ってた気がするな」


他の社員や特に大野先輩が働いているのに遊ぶのは気が引けるが、この1年で環境が変わっているかもしれない。もしかしたら鞍馬さんになにかアドバイス出来ることがあるかもしれないので、その日はゲームに興じることにした。



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――一方、その頃葵はというと――


「ふう…」


私は、会社のタレントの多くが暮らす社員寮の自室に戻って今日あったことを思い出していた。


数日前に灯織さんに協力してもらうことになったけど、私は一刻も早くあのマネージャーから開放されたかった。


そこで考えたのがスペースを使った盗聴まがいの配信。


これでセクハラ問題を公にすることで問題を解決しようと思った。


でも、私がやったのはただ会社に迷惑をかけただけ。


もっと前から他の人にを頼ったり、それこそ親友であるこはくに相談したりすれば、もっと早い段階で解決していたかもしれないのだ。


灯織さんにも、申し訳ないことをしてしまった。


「…ごめんなさい」


一緒に自宅へと帰された灯織さんにもう一度謝罪する。


あの人が気になったのは始めはなんとなくだった。


でも、機材を運んでるのを見てて気づいた。


あの人は、私と同じで異性が苦手。


女性の前だと必ず一歩下がって話す。こはくのマネージャーの大野さんと居るときは特に顕著で、こはくと話してるときであっても大野さんの後ろに立って話していた。


だから、私と同じ異性を苦手とする彼なら、相談に乗ってくれるかもしれない。


そんな客観的な根拠のない同族意識で話しかけてみた。


彼は男性が苦手な私が話しやすいように気を遣って話してくれたし、優しい人だというのはすぐにわかった。


特に…私がセクハラの被害の詳細を話したときは、いつもの落ち着いた雰囲気が

なくなって同い年のやんちゃな男の子みたいな感じだったし。


「…むう」


そうして思い出していくと、一番鮮烈なのは会議室での出来事だ。


あの数日で灯織さんは大学時代にマネージャーが犯してきた罪を調べ直し、本気で私を助けようとしてくれた。


その後、マネージャーが逆恨みを灯織さんにぶつけようとしたけど、まるでどこを狙ってるのかわかっているかのように拳を避けて――


――それで、私が狙われたときは、いつの間にか私の傍にいて、そのままマネージャーを蹴っ飛ばしてくれた。


胸がすくような思いだったが、彼の次のセリフが自分の胸に熱い何かを注ぎ込んだ。



『もう大丈夫。君を傷つけるような人はいないし、いたとしても俺が守るから』



まるで小説の登場人物のような。ラブロマンスのワンシーンのようなクサいセリフだったが、私はかつてない安心感を覚えた。


それから、彼の表情が頭から離れない。


「――むむう…ダメダメ、明日の配信の謝罪文を考えないと…」


思わずもの思いに耽ってしまったが、謝罪会見は明日の19時。1日以上の時間が残っているが、早く書いて覚えよう。


しっかりとクラウドやリスナーのみんなに自分の思いが届くように。


「……あ、一応灯織さんの活躍は名前を伏せてでも入れたほうが良いかな。私を助けてくれたヒーローだし」


そう思って私はパソコンに謝罪の文章を打ちこみ始めた。



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翌日。朝に大野先輩から連絡があり、今日も自宅で一応謹慎処分となった。まあ仕方がないと思いつつ、19時の謝罪会見まで暇を潰し、ついに配信予定時刻となった。


『…あ、あー、聞こえてるかな』


起動したノートパソコンでは、水色の髪のアバターが『謝罪会見』と書かれた紙を自分の前に置いて配信を始めていた。


『ホロエコ2期生、天色空音です。本日は、先日のヴィッターのスペースでの配信について、ご説明と謝罪をさせていただきます』


そう言って藍原さん…天色空音さんは事の経緯を話し始める。


新しく配属されたマネージャーからセクハラをされていたこと。


それを男性が苦手であることを理由に、周囲に話すことができなかったということ。


早く開放されたいという気持ちがはやるあまり、スペースで配信を行い、無理やり被害を明るみに出したこと。


コメント欄では勇気を出して配信をしたことを称賛する人達で溢れていたが、本人はそれを否定した。


『私が本当に勇気のある人だったら、他の人に相談するべきだった。私の心が弱かったからこうした事になってしまった。だから誉めるのはやめてほしい』


そして最後に、と前置きをした上で。


『こんな弱い私にも、助けてくれる人は居た。その人には本当にありがとうを伝えたい』


若干の涙声で、ありがとう、と。私のことを助けてくれてありがとうと。


「……当然のことをしただけですよ。俺は、ホロエコ箱推しですから」


彼女に届くはずはないが、一応画面に向けてそう呟いた。


『む……いまなんかあの人が謙遜した気がする』


「え?」


画面の雰囲気が変わる。


『私を助けてくれた人を、誰かが貶すことは絶対に許さない。それがたとえ私を助けてくれた人でも。いい? 私のヒーロー』


「……はい、なんか、すみません?」


『…むん、伝わった気がする』


画面からではわかりにくいが、『私のヒーロー』の部分で藍原さんがいたずらっぽい笑みを浮かべていたような気がした。



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なおその直後に、嫉妬に狂ったクラウドが勝手な見解をヴィッターにつぶやきまくり、無事炎上したことを追記しておく。





















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作者の梢です。


突然ですが、カクヨムコンに合わせて新作を投稿し始めました。


『サンクスト・ローエスト〜俺が最下位なのには理由がある〜』(仮題)

https://kakuyomu.jp/works/16817330664196342843


異能力、そして近未来兵器のある世界を舞台とした現代ファンタジーです!


興味のある方はぜひ読んでみてください!(ついでに評価も付けてくれると嬉しいな)


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