灯火


電器屋から離れた私は、またもやふらふらと町の飲食店が並ぶ地域を歩いていた。折角のお出掛けだ、早めに昼ご飯を食べた方がお昼丁度の沢山の人が集まるのを避けられる。


そう思いながら飲食店の外のメニューや壁に貼られたチラシを眺めながら何処で食べようかと思考する。


それにしても前の世界では考えられない光景だ、魔法少女の騒動で飲食店はほとんどが営業できず、場所によってはビーストと魔法少女との戦いに巻き込まれ店が破壊される。


飛行機の使用も危険で、外国からの輸入は船のみとなり物資も最低限だった。飢えに苦しむ人々を他所に、軍所属の軍人や魔法少女にはある程度の食料が与えられた。


好き嫌いだなんて言ってられなかった、苦手な物でも食べなければ体に力は入らず、戦うことすらままならなくなってしまうから。


戦いに向かう途中の光景ははっきり言って気分の良い物ではなかった。


浴びせられる罵倒、助けてくれと助けを求める声、テレビで見たSF映画やアニメのような光景と似ていた。


だから、こうして食べ物に溢れている飲食店をみるだけで安堵してしまう。


飢餓で苦しむ人はいない。


美味しい食事を得て、心からの笑顔を浮かべる人達がいる。


あぁ、この光景がどれだけ幸福な光景だろうか。あの苦しさを知っている私は、初めてこの世界でお母さんのご飯を食べたときは泣いてしまった。


お母さんは嫌いな味だった?!と驚きお父さんは慌て、そしてコハルは心配そうな表情を浮かべ私と接してくれた。


あの時の食事は本当に美味しかったし、残さずに食べた。


本当にこの世界で過ごしている私は幸せだ。


「きゃーーーー!!!!」


その時だった、人の悲鳴が聞こえた。聞こえてきた声はすぐに聞こえたからここから近い。取り敢えず悲鳴の聞こえてきた方向へと向き直る。


そこには、以前に見た銃のような物を背負った怪物と同じような見た目の怪物が暴れていた。


2メートルくらいの身長で、片手は工事等に使うようなドリルになっておりもう片手の手は丸い鉄球をチェーンで繋げたハンマーのような物を装備した怪物だ。


あのドリルで近距離、鉄球の中距離の戦いをこなすのだろう。なら、近距離戦を仕掛けるのはいけない。


でも、私には近距離武器しかない。


いかに素早く動き、怪物の見せた隙を攻撃できるか………踏み込めるかが勝利を分ける。


そう冷静に分析していた時だ、あの怪物が壊したであろう店を見る。建物は半壊し恐らく電力が通っていない為か、飲食店故に店の大型冷蔵庫には沢山の食材が入っていたはずだ。


そして見れば床に沢山の料理と思わしき物やスープと思わしき液体が大量に散らばっていた。


「オラシオン」


気が付けば、カタリストを介して黒いドレスに青いロングコートと言うセルリアンの姿になっていた。即座に身体強化と瞬速を使い人々の横を通り抜け、手にもっていたエスペランサーを持ち、怪物のドリルへと叩き付ける。


「グッ!?何者だ、不意打ちとは卑怯な!!」


町を破壊している怪物が何を言っているのだろうか?それに卑怯等と話すのは負けた者の言い訳。このような戦いで卑怯と言われて戦いを変えて生きられるなど甘い世界はない。


勝たなければ生き残れないのだから、卑怯などは考えている余裕などない。


ドリルの腕を払ってきた怪物の動きを利用して後ろへ飛び距離を取ってエスペランサーをいつものように構える。


「貴様、あの方が話していたウィザーズとやらか!」


───今だ。


瞬速で近付こうと足に力を込めた瞬間だった、私のすぐ目の前を鉄球が通りすぎる。見れば、怪物が鉄球のついたハンマーを振り回していた。


これじゃあ迂闊に近寄れないか………。


「何故ここを狙ったの」


私は疑問に思っていた事を怪物に問いかける。


「ここに沢山の人が集まっていたからだ!他に何の理由がある?!」


「申し訳ないと思う気持ちは無いの。貴方が破壊した店や店で出されていた料理、食材に対して」


「そんなものあるわけないだろう?!我らフォールエンスにとってあのようなゴミ等は──」


姿勢を低く前傾姿勢で前に踏み込むと同時に瞬速を唱え怪物へと近付き下から上へと逆袈裟で斬り上げる。


『瞬速縮地』


軍に所属していたときに教えて貰った『縮地』と呼ばれる技術と、私の魔法『瞬速』を掛け合わせた高速で接近する技だ。


「……もういい」


お前らには分からないだろうな、飢えに苦しみ泣き死んでいく人がいると言う悲しみと力になれないと言う無力感が。


「ゴハッ!?貴様、いつの間に!?」


自分の声とは思えない程に低い声が出た、上へと振り上げた大剣エスペランサーをそのまま回して遠心力で勢いを付けエスペランサーの側面で怪物を強打する。


「瞬速」


瞬速縮地で即座にその場から少しはなれ、エスペランサーを掲げながら地を蹴り落下の勢いも利用して怪物のドリルへエスペランサーを叩き付ける。


エスペランサーは壊れることがない魔法少女の武器だ、故に怪物のドリルはエスペランサーが叩き付けられた場所を起点に皹が入っていき、やがて碎けた。


「グガァァァ!?!?」


だが痛みと同時に怪物が振り回したもう片方の手に次がれた鉄球が横に飛んでくる。即座にエスペランサーの側面を横に構え鉄球を受け止める。


「うぐっ!」


鉄球を受け止めると同時に鉄球の向かってくる方の逆、横へと飛びながら受け止めて衝撃を弱める。金属のぶつかり合う音が響き、腕が痺れるのを我慢しながらエスペランサーを構える。


「我が自慢のドリルが砕けただと!?その剣、一体何で作られている!?」


次の一撃で決める、決めなければならない。


これ以上戦闘を長引かせたら警察や自衛隊。そしてあのウィザーズと呼ばれた彼女達が傷付いてしまう。


砕けた片腕を此方へと向けながら怒鳴る怪物に再び踏み込みながら全力でエスペランサーを振るう。


縮地を使いながら振るうエスペランサーは横凪に高速で振られた事で、空気中に摩擦熱が起こりエスペランサーがする。


魔法少女はみんなの夢を、希望を守る者。


貴方がそう教えてくれたから、私は戦う。


貴方から名を貰ったこの剣、エスペランサーと共に。


私にとっての必殺技のような技。


を、炎を纏い放つ守護者の斬撃。


希望の灯火エスペランサー・ルビアッ!!」


火を纏ったエスペランサーで怪物の片腕のチェーンを叩き切り、即座にエスペランサーを構え怪物の体を別れるように横凪に一閃。


「フォールエンス、万歳ァァァァァァァアイッ!?!??」


斬りつけた怪物の体からは肉が焦げるような音と共に仰向けに倒れながら、またもや叫び声をあげると沢山の粒子らしき光の粒となって消滅した。


本当に、なんで叫びながら消滅するのだろうか?


そんな疑問を脳裏に浮かべつつエスペランサーを払うように振るって発火している火を振るい消す。


火守さん、私はまだ戦わないといけないみたいです。でも逃げないし、戦うことも止めない。


私は魔法少女セルリアンとして、この世界でも戦います。


空を眺めながら、心の中であの人へ再び誓いを立てた私は他の人に見られないようその場からすぐに移動した。


建物の影に入り変身を解除した私は元の姿に戻ったことを確認して一人でのお出掛けを再開しようと建物の影から出る。


「せっかくの休日だし、図書館に………」


次の瞬間、お腹から大きく「ぐぅうううう」と言う空腹を訴える音がなり、思わず誰も見ていないかと周囲を見る。


「そう言えば、ご飯まだだった」


怪物と戦っていてすっかり忘れちゃってたな。


そう思いながら私は、取り敢えず近くにあるご飯を食べられるお店を求めて歩きだしたのだった。















セルリアンがその場を離れてから数分後、たまたま近くを通りがかりフォールエンスの怪物の反応をキャッチしたユリエとマナミこと、ウィザーズ・ロゼとウィザーズ・エアリアルは瓦礫が散乱する戦闘後の光景を見て口を開いた。


「ありゃ?」


「もう既に終わった後みたいですわね……」


「可笑しいな、ついさっきまで確かにここで怪物の気配が……まさか」


二人の脳に、突如現れた黒いドレスと青いコートを纏い自身よりも大きな剣を持った彼女の姿が浮かび上がる。


「たぶん、彼女がフォールエンスの怪物を倒したって事なんだろうね。変身して急いできて損したよ」


「セルリアン、一体何者なんでしょうか? フェイさん曰く魔法を使えるらしいのですが、彼女の目的は不明ですわ」


魔法が使えるのは、この世界で……少なくともこの日本では私達ウィザーズに選ばれた者のみであるはずだ。


だが、セルリアンと名乗った少女はフードで顔を隠しウィザーズとは違う魔法を操り戦うのである。


顔を隠す、と言う点と私達に剣を向けてきた事は怪しいと感じるが、1度しかあったことが無いために判断しきる事が出来ず、ロゼは頭を悩ませる。


「コユキ曰く、ああいったキャラは最終的に仲間になるらしいけど。少なくともあの親子を助けてたし敵ではないと思うんだけどなぁ」


「そうだといいですわね、取り敢えずさっさとこの場を戻して皆さんと合流いたしましょう」


二人はステッキに宝石のような物を嵌めステッキを振るうと、怪物が暴れたことによって出来た傷や破損、瓦礫が消えまるで何もなかったかのような何処も壊れていない店と道が出来上がっていた。























夕方、4時ごろに図書館を出て帰ってきた私は玄関の扉を開けて家に入る。見るとお母さんが畳まれた洗濯物を運んでいるようだった。


「あら、お帰りソラ」


「ただいま、お母さん」


そう言葉を返しながら靴を脱いでお母さんの持つ畳まれた洗濯物を半分持ちお母さんと一緒に洗濯物を運ぶ。


ふと、前を歩くお母さんを見るとお母さんは私をチラリと見て笑いながら口を開いた。


「ふふ、お出掛けは楽しめたみたいね」


「そうだね……楽しかった、かな。」


大切な事を、思い出すことが出来たから。




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