葛藤
想定より遅くなってしまったが無事カレールウを確保することが出来た私は、無事家に帰ってくることが出来た。
玄関で靴を脱いでいると、コハルの靴が靴箱に無いことに気付いた。
そういえば、友達と遊びに行ってるんだっけ?
「お帰りー、ありがとうソラ。助かっちゃったわ」
「ただいま、お釣りはレシートで包んであるから」
「ええ、いつも通りね」
カレールウの入ったビニール袋を向かえてくれたお母さんに渡して、自分の部屋に向かう。
「今日もご飯作る手伝いするから、作る頃に降りてくるね」
「いつもありがとう、でも無理しなくていいのよ?学校や宿題で疲れてるでしょ?」
「そんなことないよ」
お母さんにそう返しながら階段を上がり自室に入って椅子に座る。
未だに、状況の整理が上手く出来ない。どうも私の感情が、あの時のショッピングモールでの光景を否定し続けていた。
「なんで、全部終わったはずなのに………魔法少女がいない、作られることのない世界を創ったはずなのに」
服の下に隠しているネックレスの先に繋がっているエスペランサーのような剣の飾りに触れる。
20XX年に起こった魔法少女と人類の戦乱。
シンと名乗る謎の男が創った魔法少女に変身するためのネックレス。
だけど、彼女達はカタリストを使っていなかった。なら何故彼女達は魔法少女に成っていた?それにビーストのようなあの化け物は一体……。
『ソラ、もし目の前の現状が受け入れるのが難しかったり混乱するような時は、紙にでも何でも良いから、書いて整理すると良い。結構有用だぞ?』
混乱するなか、恩人の声が脳裏に浮かび上がった。
そうだ、ノートに書いて状況を整理しよう。
引き出しを開いて買っておいた予備のノートを取りだして机の上に広げる。
まず整理するなら聞こえてきた単語だ。
あの魔法少女らしき者達が話していた『ウィザーズ』と言う単語に『フェイ』と『ドーラ』と言う恐らくは人の名前だ。ウィザーズ、英語で魔女を意味するウィッチか?だとするなら魔法少女の事を差す言葉だろう。
次にあの化け物が叫んでいた『フォールエンス』と言う単語、恐らくだが何かしらの団体を差すのだろうか?
幼いときにお父さんが見せてくれた特撮もののシーンで敵の怪人が自分の組織の名を叫びながら爆散していたのを思い出した。
もし、お父さんの見ていた特撮ものみたいに怪人の組織があるとするなら、フォールエンスは組織名で間違いないだろう。
取り敢えず、情報の整理は出来た。
次は私の行動か……。
正直な話、私の戦いは拒めない物だった。戦わないと死ぬだけで、生と死が表裏一体の世界だった。魔法少女に選ばれ、魔法少女ではなくとも、その体に宿した魔力を原因に狙われる。
ビーストが現れた町を壊し、魔法少女は自身の願いの為に人を殺す。そんな世界だったが故に、私の元にカタリストが届いた時は力を身に付けなきゃいけなかったから。
でも、この世界はどうだ?奴らと戦う存在はいる。それに魔法少女同士の戦いは起こっていないし、協力もしている様子だった。
無理に、私が戦わなくたっていいはずだ。彼女達がいるんだ………私の戦いは終わったはずだ。
もう私はセルリアンじゃない、普通の女の子に戻ったはずだ。
私は、一体何がしたいのだろうか?
ペンダントに繋がっているエスペランサーの飾りを服の上から触れる。
「あ、手伝いの時間」
ふと、時計を見るとお母さんがご飯を作る時間に成っていた。椅子から立ち上がり、部屋を出て階段を下がってキッチンに向かう。
取り敢えず、お母さんの手伝いをしないと。
あの時みたいに、後から後悔はもうしたくないから。
天野川市にある大きな神社、
(※注、別に蛇関連の神様は祭っていない。)
年末や新年には沢山の人で賑わう浅桜神社、その裏にある家の一室に5人の少女が集まっていた。
「ェェェエエエエ!!知らないィイイ!?!?」
『は、はぃ………』
炬燵を囲むように座った全員の驚愕の叫び声に、炬燵の中央に立つ掌に乗るぐらいの神聖な雰囲気を纏った少女。
こことは別の次元に存在する魔法の都、アトラマジーナの姫となる筈であった少女。
金髪をツーサイドアップに纏めた赤と黄色のオッドアイの精霊姫フェイン・トゥールが怯えつつそう答えた。
精霊や妖精の住む自然豊かな世界アトラマジーナを襲撃し妖精の力と魔法の力を手にし、全ての世界を支配しようと目論む組織、フォールエンスによりアトラマジーナが襲撃されフェインは伝説の戦士ウィザーズを見つけ出し助けを求める為、この世界へとやって来た。
「まさか、フェイさんも知らないだなんて」
そう話すのはストレートヘアーの少女。彼女の名は
「じゃあ、あの人は一体………」
不安げにそう呟く茶髪のボブヘアーで桜の髪止めを前髪に着けている彼女は
「まぁ、敵じゃあ無さそうだし?別に気にしなくてもいいんじゃない」
炬燵のテーブルに顔を乗せ、だらけた様子で話す黒髪ショートヘアーの少女。彼女の名は
「あの、話を聞いた限りだとアニメとかなら終盤に味方してくれるタイプの人ですよね?」
おやつに出された蜜柑の筋を取りながら話すハーフアップヘアの少女の名は
「うーん、私は見てないから分からないけどかなぁー。でも敵じゃあない気がするよ!」
隣で小雪の剥き終えた蜜柑をパクりそのまま口に放る黒髪でツインテールの少女、彼女の名は
『と、取り敢えず!もし、また会うような事があるなら出来るだけ刺激しないようにした方が良いのでは?』
「ですが、あの人の目的が分からない限り此方も警戒してしまいますわ。あの人、ヒヨリが話しかけたら急に剣を向けて来たんですのよ?」
「でも、最後に名前教えてくれたし……」
「ヒヨリ、もしかしたら剣で首を飛ばされてたかもしれないんだよ?」
心配する二人を他所に、セルリアンと名乗った少女に対して危険意識を感じないと話すヒヨリ。
「うぅ、私達は会ってないので会話に参加出来ない………あぁ!?コハルちゃん私が頑張って筋まで綺麗に取った蜜柑なんでたべちゃうの?!」
「えへへ、美味しそうだったから!」
『とにかく!今はフォールエンスとの戦いに集中しないと、相手も一筋縄では行かない怪人を送り込んできています』
精霊姫フェイン・トゥールの声に全員の顔が真剣な物に変わる。
『皆さん戦う時は気を付けてくださいね?』
「アハハー心配しすぎだよフェイちゃん、エアリアルはそう簡単にやられないよ?」
「マナミさん、それフラグ………」
「取り敢えず、もう5時になるしまた明日集まらない?」
ヒヨリの声にヒヨリ以外の全員が部屋にある時計へと視線を向ける。時計の長針は9の数字を指していた、今の時刻は4時45分。小学生である全員の遊びに行った際の門限である5時まであと少しであった。
「もうこんな時間!?早く帰りますわよ!ほらマナミさんも!」
「えぇ、炬燵から出たくないーヒヨリ泊めてー?」
「ダメに決まってるでしょおバカ!」
「あー炬燵ぅーー!」
マナミの分の鞄を持ったユリエに引き摺られていくマナミ、そしてコハルとコユキもそれぞれ荷物を持って立ち上がる。
「あの、お邪魔しました」
「フェイちゃんとヒヨリちゃんまたねー!!」
そう言って4人が帰っていくのを見守るヒヨリとフェイは、あまりの賑やかさに笑っていたのだっ
た。
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