平和な元の世界を創造した……はずなんだけど。

クレナイハルハ

序章、たった一人のRESTART

空色の魔法少女

荒廃した町、数年前までは栄えビルやショッピングモールがたっていたはずのこの町は今や見る影のない姿となっていた。


放棄された軽自動車の数々はガラスが割れ横転し、ビルや家は崩れ草花は枯れている、人の住めるはずのない光景が広がっている。


そしてそんな荒野の真ん中に自身よりも大きな大剣を杖のようにして体を支え立っている少女がいた。


「グッぁが……はぁ、はぁ──」


少女の纏う紺碧色を基調とした服は大量の血によって赤く染められ、至るところにまるで銃弾で撃たれたような穴や刃物で切られた様な痕が残っている。


片目から血を流しながら、ふらつく体を剣で支えながら荒く呼吸を繰り返す彼女の周囲には沢山の骸が転がっている。


まるで獣のような、人のような……そんなもはや何なのかも分からない骸が鎮座するその場で彼女はひたすらに呼吸を繰り返す。


生きているのだと、体も心もまだ生きているのだと言い聞かせるように呼吸を繰り返すが、やがて少女は力無く膝を付き、空を拝む。


「がっ!?は、はぁ!はぁ!はぁ!」


まだ、まだ私は生きているのだ。


諦める訳には行かないんだと、そう言い聞かせるように彼女は力が抜けていく体に、酸素を送り込もうと必死に荒い呼吸を繰り返す。


彼女の片目はもう目の前の光景を写すのも限界だと言うように、目の前に見える景色が歪み変形する。


彼女の右手に飾られたブローチの中央に嵌められた翡翠色の宝玉が光りを放ちドクンと震え鼓動する。


『素晴らしい、実に素晴らしいよ────。』


朦朧とする彼女の聴覚が誰かの拍手する音を感じ、彼女はもうまともに景色を見せない瞳で聞こえてきた憎き相手を睨み付ける。


不気味な仮面を身につけ黒いタキシードを纏い白い手袋を嵌めた男はそう彼女に話しかけながら拍手する。


『君は、見事に世界を作り変える権利を手にしたのだ!!』


最早、睨み付けるのも辛いのか俯き呼吸を繰り返す彼女を他所に大袈裟に両手を広げた男はそう話を続ける。


『魔法少女とビーストのみを殺しその位に至るとは、実に素晴らしいよ────。君こそが、本物の魔法少女だ。さぁ!見事に世界を作り替える権利を得た君は何を望む!!さぁ、聴かせてくれ!!君の望みを!!欲望を!!さぁ!さぁ!!!』


興奮した様子でそう捲し立てる、まるで新しいおもちゃを目にした子供のように瞳を輝かせ、口を三日月に歪め、話すが少女はまるで事切れたように一切の反応を示さず膝を付き俯いたまま動かない。


男は彼女の様子に眉を潜め、膝を付き確認しようと更に近付き確認しようと手を頬へと伸ばす。


次の瞬間、彼女はニヤリと口を歪め片手に持った小太刀程の大きさの剣を男へと勢いよく付き出していた。


彼女の付き出した刃は男の心臓部を刺した、背中へ刃が見えるほどに深く。致命傷に、いや確実に死ぬように刃を刺した。


『────、貴様ァ』


男が口から吐き出した血が少女の服を更に赤く染める。


「うぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!」


抵抗しようと離れようとする男を彼女はもう片方の手で呼び寄せた先ほどまで杖として使っていた大剣を握りそのまま男へと袈裟懸けに振り下ろす。


更に鮮血が舞い彼女の服を赤く染めるなか、体を半分に切られた男であったものが倒れる。


「───、───さん……殺したよ、シンを。」


男が倒れたのを確認した彼女は大剣から手を離し膝を付き俯いて静かに呼吸する。


「やっと、やっと終わったんだ……」


彼女は満身創痍、たった今この瞬間に彼女と言う命の灯火がゆっくりと消えていく。


もう諦めたのか彼女は先程の様に、生きると諦めないと言う必死の呼吸すらせずに静かに空を見上げていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


あの日、全てが狂い出したあの日から彼女は普通とは言えない日々を過ごしてきた。本来ならばまだ、義務教育が続いていたはずだった。


彼女は選ばれ若くして魔法少女となり、剣を手に取ることを選ばざるを得なかった。


静かに呼吸する彼女の脳裏に浮かび上がるのはこの戦いで散っていった戦友たち、そして数えきれない程の恩を受けた恩人の姿だった。


「はぁ、はぁ……………」


そして最後に浮かんだのは、この戦いの影響で避難してはいるものの生きているのかも分からない両親と妹の姿。


生きてるかな、生きていたら……いいな。


全くお姉ちゃんらしいこと……出来なかったな。


「───────」


おやつのお菓子は半分にしなかったし、一緒に遊ぼって誘われても一人で遊べって遠ざけちゃってた。傷付けちゃったよね………ごめんね。


沢山、我儘言って迷惑かけちゃった。全部私のためを思って言っててくれたんだよね。


親孝行出来なかったな……お父さんとお母さん、親不孝な娘でごめんね。


私、もうダメみたいだから……妹の事を愛してあげてね。


こんな私だけど、愛してくれてありがとう。


もう私は…………………。


目蓋が下がっていく中で、何故か殺す前にアイツが言っていた事を思い出した。


『君は、見事にを手にしたのだ!!』


確か、あの日もそう話してたっけ…………。







────────ドクン──────────





もし、本当にシンのいう通り私が世界を作り変えられるなら………





────────ドクン──────────




今度は平和な世界で……普通の女の子として





────────ドクン──────────





普通に生きたいな…………




───────ドクンッ!!────────

























私立天野川学園、放課後を告げ授業の終わりを告げる鐘がなり教室の生徒達は帰りの支度を整えている。


「ねぇ、この後どうする?」


「カフェとか行っちゃう?」


「いいね~新商品確かめたかったんだー!」


クラスメイトが世間話や放課後の寄り道を話すなか私は黙ってリュックへと教科書を仕舞う。

リュックを背負い教室を出て廊下。


今年から新たな校舎となったこの学園は居心地の良い学舎だ。


「お姉ちゃーん!!」


聞こえてきた声に振り返ると、ツインテールで可愛いフリフリの付いた服を着た妹が手を振りながら此方へと駆け寄ってくるのが見えた。


琥陽コハル、お友達は?」


「お姉ちゃんと帰るからって言ってきた!」


此方へと手を振るコハルより少し上の女の子4人組に軽くお辞儀をする。


「ん!!」


「うん、いいよ」


差し出されたコハルの手を握ると、コハルも私の手を握り返してくる。そんなコハルと二人で並んで帰り道を歩く。


「お姉ちゃん!コハルね、今日テストで100点取ったんだよ!!凄いでしょー?」


「うん、凄いね。お母さん達に教えたらきっと喜んでくれるよ」


「えへへ、楽しみだなぁ……」


お父さんやお母さんに褒められる未来を想像したのか、嬉しそうに笑う妹の姿に思わず此方も笑顔になる。


本当に可愛い妹だ、きっと将来はモデルやアイドルになれるに違いない。


「この後ね、さっきの皆と集まって遊ぶんだ!楽しみ!!」


「そっか、帰ってきたら宿題もしっかりやるんだよ?」


「えぇ………」


「頑張ったら、今度お姉ちゃんがおやつ作ってあげるよ」


「お姉ちゃんのおやつ!コハル頑張る!!」


「ふふ……」


これは早めに用意した方が良さそうだ。ホットケーキとか作ろうかな……100点取ったご褒美でフルーツも飾って豪華なの作ってあげよう。


そう思いながらコハルの話に耳を傾けていると家に着いた。2階建ての普通の家、お父さんの話によるとまだローンが少し残っているらしい。玄関の扉を開き、先に妹を入らせてから家の中に入る。


「ただいまー!見てみてお母さん!テストで100点取ったんだよ!!」


「あらあら凄いわねぇコハル、お母さん嬉しいわ。きっとお父さんも喜ぶわ。お帰りコハル、お帰りソラ」


「ただいま、お母さん」


コハルの元気な様子が微笑ましいのか、笑顔を浮かべて話すお母さんに挨拶を返しながら靴を脱いで靴箱に入れる。


「コハルすぐに出掛けるから、靴はそのままにしておいてねー!!」


そう言いながらコハルは自分の部屋がある二階への階段をドタバタと駆け上がっていく。お姉ちゃんはコハルが階段を転げ落ちないか少し心配です。


「ふふ、コハルは学校から帰ってきたばかりなのに元気いっぱいね」


「そうだね、お母さん」


頬に手を当てて困った様子で笑うお母さんに相づちを打ちながら洗面台に向かい手洗いうがいを済ませていると、階段を降りる音が聞こえたので、恐らくコハルが出掛ける準備を終えたのだろう。


「お母さんいってきまーす!!」


「いってらっしゃい、5時までには帰るのよー」


「はーい!!」


お母さんとコハルのやり取りを聞きながら濡れた手をタオルで吹き、廊下に出ると見送っていたのかお母さんが玄関の入り口にいた。


「じゃあ、私は部屋で宿題してるね」


「無理せずにね、適度に息抜きするのよ」


「うん」


階段を上がり、妹の部屋の向かいにある自分の部屋に入りリュックを下ろして制服から私服に着替える。


勉強机の椅子に座って、リュックから取り出した宿題を並べる。筆箱から取り出したシャーペンを机の上に置く。そして引き出しから誕生日プレゼントに貰ったウォークマンを取り出してイヤホンを繋げる。


イヤホンを耳に着けて適当に選んだ曲を流しながら、シャーペンを持ちノートに向かう。確か今日の宿題、国語の勉強で季語の入った短歌を三つ作ってくるんだっけ。


季語を思い浮かべ、適当に思い付いた文で短歌を作っていく。耳から流れる音楽を聞きながら、ノートにシャーペンを走らせる。


あぁ、何てことない普通の日常だ。


そう思いながら私、佐久魔 空良サクマ ソラは笑みを浮かべた。


鳥が鳴き、穏やかな風が吹き、人々が笑顔で過ごす事の出来る日々は、こんなにも素晴らしい。あぁ、みんなあの事を覚えていない。


町は東京都程では無いがビルが立ち栄え車は行き来し、ショッピングモールは私立天野川学園の生徒が楽しそうにゲームセンターや喫茶店やカフェに向かっている。


町と国、世界を巻き込んだあの出来事を。


でも、それで良いのだ。


それが私の選んだであり、光景。


毎日のように誰かの血が流れ、死者が出るような戦いは起こらず、平穏な日常が過ごせるこの世界が、私の望んだ光景なのだ。


季語を入れた短歌を作り終えた、ノートを閉じてリュックに戻し明日の授業に必要な教材を入れていく。早めに宿題が終わった今日はいつもより自由な時間が多くて少し気分が上がる。


そう思っていた時だった、部屋の扉がノックされたのを聞きイヤホンを取って立ち上がり部屋の扉を開けると、お母さんが立っていた。


「お母さんどうしたの?」


「ごめんねソラ、実はお使いを頼みたいの」


「うん。いいよ、行ってくる」


「本当!?ありがとう、助かるわ。晩御飯はカレーなんだけど、カレールウが切れちゃってて」


申し訳なさそうにそう話すお母さんの話を聞きながらお母さんから渡された1000円札を受け取りポケットに入れる。


カレールウだけ買うなら、別に財布は持っていかなくても大丈夫だよね。そう思いながら玄関で靴を履き替える。


「ごめんね、宿題の途中だったでしょ?」


「終わった所だから大丈夫だよ」


「あらもう?ソラは賢いわねぇ」


「今回は簡単だったから、それじゃあ行ってくるね」


「いってらっしゃい」


玄関を出て、ショッピングモールにあるスーパーへと向かう。綺麗に舗装された道はやっぱり歩きやすい、そんな事を考えてポケットに入れていたウォークマンに繋いだイヤホンを取り出して片耳にだけ付ける。


───、───さん。平和になったこの世界で、貴方達はどのように過ごしていますか?


この世界では既に友人は疎か知人でもなくなってしまった彼女達や恩人の姿が脳裏をよぎり思わずそんな考えが浮かび上がる。


そういえば今日の宿題が短歌を三つ作るのだとしたら、明日はきっと3つの内1つを選んで発表をするのだろうか、ちょっと恥ずかしいから嫌だな。


ショッピングモールが目の前まで見えた時だった、ショッピングモールから慌てた様子で車が飛び出して走り出していく。他にも沢山の人が必死な様子で走って私の横を通りすぎていく。


片耳に付けていたイヤホンを取りポケットに仕舞う。それに私は、さっき私の横を通っていった人たちの顔を見たことがある。


何かから、恐ろしい何かから逃げる時の顔だ。


まだ何が起きたのかわからない。取り敢えず確認だけでもしようと私はショッピングモールに入る。


そこでは両手が銃の砲身になっている謎の怪物と、可愛いフリフリの付いたドレスをきた三人の私より年下だと思われる少女が戦っていた。


「お願いドーラちゃん!」


『任せな!』


「ウィッチクラフト!フレムシュートッ!」


派手な赤髪でまるでアニメに出てくる魔法少女のステッキのような物を持つ少女がそう叫びながらステッキを振るい炎を放つが、化け物は痛くも痒くもない様子で佇んでいた。


「そんなもの、我には効かぬぞォオオオオ!!」


「キャァァァァア!!」


化け物の叫び声と共に振るわれた腕によって赤髪の子が吹き飛ばされる。


「スカーレット、大丈夫?」


「全く、私らがいないとダメだねぇスカーレットちゃん」


「ロゼちゃんにエアちゃん!!」


吹き飛ばされたスカーレットと呼ばれている赤髪ボブヘアーの少女を、ロゼと呼ばれている青髪ストレートヘアーの少女とエアと呼ばれていた亜麻色の髪のショートヘアーの少女が受け止める。


「ステラとスノーはまだ上で戦ってるみたいです、きっとすぐに来てくれますわ」


「立てる?スカーレット」


「うん、大丈夫!三人なら、きっと勝てるよね!」


そう言いながら三人ともステッキを構え、化け物と対峙する。


平和な世界を望んだ筈なのに、なんで魔法少女らしき女の子達とビーストみたいな怪物が戦ってるの?もう戦いは終わった、終わらせたはずなのに、なんであの子達が戦ってる?


頭が混乱して呆然と立ち尽くしそうになるが、体が勝手に動き私は物陰に滑り込んで身を隠す。


あいつらから見えにくい柱の影から、周囲を見渡す。さっきの会話から上の階にも化け物がいるのは確かだ。ショッピングモールを見渡すと、彼女達が戦っていた場所の少し遠くに逃げ遅れたのかコハルより小さな女の子を抱き抱えた母親と思わしき女の人が床に座り込んでいた。


目視した化け物は1体、逃げ遅れた人は2名。上の階に化け物がいるらしいが状況は不明。


状況を整理していた時だった、化け物の頭部に付いているミニガンのような腕とは違う大砲のような砲身から放たれた砲丸を魔法少女達は横に飛んで避ける。


見れば砲丸の飛んでいく先には先程の親子がいた。


魔法少女達はその事に気付いたのか、顔が絶望したような表情になる。そして母親らしき女性は目を瞑り抱き抱えた女の子を抱き締めるのが見えた。


気が付けば、私は首から下げているネックレスに付いた剣のような飾りへと手を伸ばしていた。


「オラシオン」


左手で剣のような飾り、結晶触媒カタリストを握りしめ変身するための言葉を唱える。その声を鍵として私の体を魔力が包み姿を変えていく。黒のドレスの上から青いロングコートを羽織った姿へと。


身バレから、日常的生活での襲撃を受けないようコートのフードを被る。


「身体強化、瞬速」


私が使える二つの魔法、身体強化で体を強化して駆け出しながら唱えた瞬速によって私は常人より速く移動し砲丸と親子の前に入り込む。私の右手に収まるように現れた青い刀身に水色の刃を持つ大剣、エスペランサーをそのまま袈裟懸けに振り下ろし弾丸を叩き切った。


砲丸は二つに別れ私の左右それぞれに別れて別の方向へと飛んでいく。


「大丈夫です、目を開けてください」


後ろの親子を気に掛けながら両手でエスペランサーを持ち刃先を化け物へと構える。


「何だ貴様は!?」


「だれ!?」


「まさか、新たなウィザーズ!?帰ったらフェイさんに話を聞かなければなりませんね……」


「アハハ、追加戦士枠もういっぱいなんだけどなぁ」


瞬速により突如として現れたように見えたのか、赤髪の子達や化け物が驚いた声をあげる。戦場で驚き此方をみる赤髪達……魔法少女達の言葉からウィザーズと呼ばれているのだろうか?戦場でこっちを見るなんて事をしたら危ない、敵が目の前にいるんだぞ。


あの化け物もそうだ、魔法少女がいる前で喋りおまけに腕で人を指差すとはあの化け物は対多数の戦場で勝てると確信してわざと隙を見せている?それともただの油断か?


「ウィザーズの仲間かア!ならば纏めて倒してやる!」


戦況を分析しつつ私はいつも通りにエスペランサーの剣先を左斜め下に向けて右斜め上に向いた剣の柄を両手で掴んで構え、エスペランサーの刀身で盾にするようにして駆け出す。


身体強化しなくてもエスペランサーは振るえるが、あの怪物は敵である私や赤髪達を目の前にしてあれほど話す余裕がある、となればアイツは強者である可能性がある。ならば相手が本気を出す前に殺すのが最適だ。


「我がマシンガンを食らえッ!!」


化け物の両腕のミニガンの砲身が此方へと向く前に横へとステップで移動する。


これなら奴の弾丸が後ろの親子へ銃の砲身が向かない。化け物へと向けて真っ直ぐに進む。


銃弾の打ち出される音がショッピングモールに響き渡る、だが構えた大剣エスペランサーが私に向けられた銃弾をその刀身で防ぐ。左右へと時にステップを踏んで相手の銃撃を避ける。


化け物へと接近し、横へと即座に移動してエスペランサーを振り上げる。


「バカナァッ!!?我が最強の銃が──」


「ッ!!」


そしてそのまま振り下ろし、化け物を見事に一刀両断し真っ二つにした。


「グガァァッ!!フォールエンス、万歳ァァァァァァァアイッ!?!??」


すると化け物は何故か叫び声を挙げ仰向けに倒れながら沢山の粒子らしき光の粒となって消滅した。


死ぬ前に放った言葉、フォールエンスとは何だ?何故死体が残らずに粒子になって消える?斬ったのに何故血が流れない?生物じゃ無いのか?


そんな疑問達が脳裏を埋め付くす、ダメだ全く状況が分からない。


「あの、貴方は───」


「ッ!?」


背後をとられた!?


話しかけてきた魔法少女から距離を取るために即座に後ろへ飛んで距離を取ってエスペランサーをさっきと同じように構える。


「あ、あの?」


「私たちに戦いの意思はありませんわ!」


「そうそう、争い事はごめんだよー?」


赤髪の子は困惑した表情で、青髪の子は慌てた様子で、亜麻色の髪の子は笑いながらそう話しかけて来た。警戒を解かずに彼女達を警戒する、見たところさっきのステッキは持っていない。両手は空いている、何故?


今なら、私を殺して魔力を吸収………あ。そっか、あの戦いは無かったことになったから私が狙われる事はない。


取り敢えず帰って状況を整理しないと、お使いもまだ済ませられてない。戦闘があったこのショッピングモールは暫く使えないだろう、仕方ない近くのコンビニにでも行こう。コンビニにもカレールウは売っていたはずだ。そう思いながら彼女達に背を向けモールの出口を目指す。


エスペランサーは私が念じると即座に手から消滅した。


「まっ!待ってください!!貴方は一体、何者なんですか!?」


大声に振り返ると赤髪の子が私の近くに駆けよって来ていた。


「セルリアン」


「え?」


言いなれたこの時の自分を表す言葉を呟き、即座に瞬速でその場から逃走する。モールを出て近くの建物の影を通って暫く移動する。


これで撒けたか、そう思いながら自分の姿をもとに戻す。服装がさっきまでの黒いドレスに青いロングコートから、元の私服に戻る。


そして私の首には小さな剣の飾りが繋げられているネックレスがあった。


「何で魔法少女が………」






















ショッピングモールに残された三人の魔法少女達は、先程走り去っていったセルリアンと名乗る謎の魔法少女について話し合っていた。


「セルリアン、何者かは分かりませんが強いことは間違いなさそうですわね。警戒した方が良いですわ」


「うん、私達が苦戦してたフォールエンスの怪物を簡単に倒しちゃうなんて……」


「取り敢えず帰ってフェイに聞こうよー、その方が手っ取り早いでしょ?」


セルリアンの強さに感嘆の声を漏らし自分の弱さを思い、目を伏せる赤髪の少女ウィザーズ・スカーレット。セルリアンについて警戒を考えるウィザーズ・ロゼ、そして帰ってから情報を整理しようと提案するウィザーズ・エアリアル。


「おーい、みんなー!」


三人が声の聞こえてきた方向を見ると、彼女達の仲間で上で戦っていた二人が走ってきていた。


「ステラにスノー!もう大丈夫なの?」


「もちろん!!私の歌でみんな倒しちゃったよー!ね、スノーちゃん!!」


自信満々と言った様子で手に持ったマイクのような形状のアイテムを口許に当ててポーズを決めるウィザーズ・ステラ。


「は、はい。私とステラさんで倒してきました………その、何かありましたか?」


三人の様子から何かを感じ取ったのか、おずおぶと言った様子で話すのは白髪の少女、ウィザーズ・スノー。


「取り敢えず、この場を直してから離れましょう。話はそれからですわ」


ロゼの声にみんなが頷き、ステッキを振るうと先程の戦闘の跡がまるで無かったように元の姿に戻っていった。その後彼女達はこっそりとその場を後にした。





















20XX年、魔法少女と人類による戦乱があった。


魔法少女と呼ばれる少女達は非科学的な現象、通称魔法を起こし時に炎を纏い、風を操り氷の刃を放つ。そんな者の他に剣や銃、槍を持ち戦う少女達もいた。


そんな彼女達が何故、人類と戦うのか?


それは魔法少女達が自身の魔力を極限まで高めた結果として獲られる魔法。


自身の望む世界の創造。


世界を自身の望む世界へと作り替える為だ。


魔法少女が魔力を高める方法は3つある。


一つ目は魔物、ビーストと呼ばれる化け物を殺す事で魔物の魔力を吸収する事。


二つ目は、魔法少女を殺す事で魔力を吸収する事。


三つ目は、魔力を宿した人を殺す事で魔力を吸収する事。


故に魔法少女と人類の戦いが起こった。


自身の望みを叶えるため、ビーストを狩る魔法少女。彼女らは人類にとって希望であった。


ビーストは魔法少女でなければ殺すことは出来ない。いくら兵器を使用したところで傷1つ付けられないのだ。


だが、ビーストを殺して魔力を収集するには、リスクが必要になる。それはビーストとの戦闘だ。ビーストとの戦闘はもちろん命懸け、下手をすれば逆に此方が殺される。


そんな事をするより魔力を宿した人を殺害した方が早い、そう考えた魔法少女達がいた。


彼女達は魔力を宿した人の殺害を始めてしまった、故に人類は魔法少女との戦争を始めた。



だが、何故魔法少女という存在が生まれたか。


それは人類と魔法少女による戦いの僅か1ヶ月前に遡る。東京の渋谷ビルに映し出されたニュース画面は、突如としてノイズと共に砂嵐によって別の画面へと移り変わった。


奴の姿が映った不気味な映像へと。


『この映像を見ている諸君、ごきげんよう。私の名はシン。』


真っ暗な画面に移る仮面を身につけた男は自身を【シン】と名乗った。


『君たちは、この世界をどう思う?戦争が起き暴力に溢れ、親が子を殺し空腹に餓え死ぬ。裏金や闇取引、嘘や詐欺の蔓延るこの世界を!!』


大袈裟な演技でそう話す彼に、その映像を見るほとんどの人物は携帯を操作し警察を呼ぶか、何かの演出やイベントだろうと過ぎ去る。


そんな中で少女達はその映像を見ていた。


『変えたいか、ならばこの私が君たちに世界を作り変えるチャンスをやろう。』


そう言いながら彼は1つのネックレスを取り出し見せ付けてきた。銀のチェーンの先にはアニメや漫画で魔法少女が使うような杖が繋がれていた。


『選ばれし少女にはこの様なペンダントが送られる。このペンダント結晶触媒カタリストに祈れ、さすれば君は魔法少女となる。魔法少女達よ、世界を変えたくば魔力を高めよ!!』


そう言いながらシンはフィンガースナップを行うと、彼が持っていたネックレスは消滅した。


『魔力を高める方法は三つある。まず私が作った怪物、ビーストを倒し魔力を吸収する。次に魔法少女を殺し魔力を吸収すること、そして三つ目は…魔力を宿した人を殺す事だ。』


己の理想とする世界を実現するため、他の魔法少女を殺すか魔物と戦うか。それとも人を殺すか。


『それでは魔法少女になるであろう諸君、君たちの戦い、選択に期待しよう。』


その三つの選択肢を提示したシンの映像はこうして終わり、世間では大きな話題となった。


だが政府や警察はシンの電波のジャックや争いを促すような発言を気にすることもなく、若者の悪戯だろうと気にすることはなかった。


だが3日後───世界は急変した。


様々な県や町、外国で確認されたどの生物とも違う特徴を持った未確認生物が現れ人を襲うと言う事件が発生。


それと同時に何人もの少女と思われる遺体、そして老若男女の遺体が多く発見された。


そして発見された遺体は全て、普通では有り得ない殺され方や傷があった。


原因不明の殺人事件や未確認生物による事件が発生する中で1つの動画がネットに上がった。


それは一人の少女が未確認生物と戦うと言う動画であり、少女は非科学的な現象を起こし未確認生物と戦っていた。


シンと名乗った人物の動画から、魔法少女と呼ばれる人物ではと考察する物が多く存在したが政府や学者達は非科学的だと相手をしなかった。


そんな時だった。


某国の某施設に魔法少女が表れ、その施設にいた人を虐殺すると言う事件が発生。駆け付けた自衛隊は魔法少女と交戦するが、逃走を許してしまう結果となった。


そこで初めて世間や警察は魔法少女に対しての見解を改めた。


政府は対魔法少女対策組織を設立、対魔法少女用の兵器の開発や研究が行われた。他にも魔法少女に対して、自首を勧め警察に出頭するよう報道した。


また、自首をせず戦いを続行する魔法少女には武力行使や殺害が許可された。


だが、魔法少女の存在は消えることはなかった。彼女達はこの世界を自身の望む世界へと作り替えるため、暗躍したのだ。


そんな少女達の他所で、人を殺そうとする魔法少女を止めるため、ビーストから人を守るため戦う魔法少女達がいた。


彼女達は自ら軍事施設へと赴き、政府や警察との協力を願い出た。政府や警察、自衛隊は即座に協力を承諾した。


魔法少女と政府の協力により人類の叡知と魔法と呼ばれる現象の研究により対魔法少女用決戦兵器を製作、それら兵器を魔導兵器と命名した。


そして魔法少女達の説得によりビーストの危険性と殺しを行う魔法少女達の危険性から、政府は緊急事態を宣言。


多くの人物が親戚や受け入れを行う外国へと避難を始めた。


魔導兵器を伴った軍と魔法少女によりビーストの討伐と、悪の魔法少女と呼ばれる殺しを行う魔法少女達の殺害と逮捕が始まった。


そして2年後、終焉の日ラグナロクと呼ばれる日。


一人の少女によってこの戦いは終結した。


すべての元凶であるシンの討伐、そして後に英雄と語り継がれる彼女、魔法少女セルリアン『佐久魔 空良サクマ ソラ』の死によって。



















あ、コンビニとは逆方向の道に来ちゃった………。




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