ハーレムパーティーで雑用を務める俺。ついに見限られた!と思ったら追い出されたのは勇者でした。

石の上にも残念

エンペラーオブシードの誕生

「「「「「かんぱーい」」」」」

酒場に響く歓声とコップが当たる軽い音。

遅れて到着した俺が見たのは、すっかり出来上がって盛り上がる仲間たちだった。


「リッチミルクも余裕だったなぁ!」

青い髪を後ろで括った精悍でワイルドな忠人族ただひとぞくの男が酒を煽りながら上機嫌に叫ぶ。


男の名前はシュダ。

この世界に200人しかいない勇者の1人だ。

俺の幼馴染でもある。


「いや、シュダの『ウォークライ』が効いたんだ」

額から角を生やした大柄な女がコップを空ける。

女の名前はモーリス。

鬼姿族きしぞくの女戦士。黒い髪を複雑に編み込み、前を合わせるだけの簡単な着流しを着ている。

こだわりなく開いた胸元から覗く褐色の肌と、白いサラシ。

無駄な肉が一切ない引き締まった身体と、鋭い目付きの彫りの深い美貌からは、彫刻のような芸術性を感じる。


モーリスの言うウォークライは、勇者が使える光魔法の1つで、仲間の恐怖心を取り除き、攻撃力や防御力を上げる支援魔法だ。


「バーンドも冴えてましたよっ!」

溌剌!とした軽やかな声を上げるのは、見てるだけで元気になれるキラキラした大きな目と赤い髪が特徴の女性。

忠人族の魔法使い、リホ。

魔法使いらしいローブ姿と合わさって幼く見られがちだが、俺と同い年だ。


バーンドは勇者だけが装備できるアビレンスの盾の特殊効果で、敵の魔法を跳ね返すことが出来る。

効果は間違いないが、クールタイムが長いため、使いどころが難しい技だ。


「やぁっぱりグランクラスだわぁ」

声だけで変な気分になってしまう妖艶な雰囲気を発しているのは、清楚な神官服がびっくりするほど似合わない艶魔族えんまぞくの女性。

体型が極限まで隠れるはずの神官服にも関わらず『男が喜ぶ女性の体』感が溢れ出ている。

名前をメヌエット。

声や体型だけでなく、手つきや各種動作もとにかくエロい。

うっかり手を握られたりしようものなら、色々大変なことになってしまう。


後、グランクラスも光魔法の1つ。武器に光の力を付与して敵を滅殺する。

タメが長いのでやはり使いどころが難しい。


「うむ」

静かに頷くのは、輝かしい銀色の髪からピコっと犬耳が生えた堅狼族けんろうぞくの女性、ベリオレーラス。

犬豊族けんほうぞくとよく間違われるが、あっちは犬でベリオは狼らしい。

表情に乏しく、言葉数も少なく、じーっとしていることが多いので、女神の石像かな?と思ってしまう部分もあるが、戦闘となれば、恐ろしい程の機動力を活かし、鋭い爪のついたクローで敵を滅多刺しにするというなかなかなバーサーカーだ。

小柄だか、おっぱいが大きい。バーサーカーだ。

ついつい目がいってしまい、ゴミを見るような目で睨まれてしまう。


シュダ、モーリス、リホ、メヌエット、ベリオレーラスの5人に、俺、忠人族のグレイを加えた6人で1つのパーティー〖トリセトグリア〗。

昔話にある魔祓いの槍の名前を冠したパーティーだ。


今日はリッチミルク討伐の祝勝会を開いている。

リッチミルクは直立した牛の骸骨の姿をした上位アンデッドモンスターだ。

大きさは3mもあり、捻れた角と眼窩の奥で燃える紫色の炎が恐ろしい。

骨しかないのに力が強く、一定以下の物理攻撃は完全に無効、魔法も効きが悪い。

その上、カルシウシというこちらは普通に四脚の牛のようなアンデッドを無限に召喚しまくる極めて危険な難敵だ。


総掛かりで何とかかんとか倒した、と思っていたのは俺だけだったらしく、みんな元気一杯に酒をバカバカ空けている。


「遅えんだよ、グレイ」

「痛てぇ!」

遅れた俺に気づいたシュダが食い終わった肉の骨を投げつけて来る。

相手は勇者だ。

ただの骨とは言え、その速度と精度と威力は相当なものだ。

スコン!という高い音を立てて俺の額にぶち当たる。

「スカウトなんだからぁ、避けなさいよぉ、それぐらいぃ?」

少し酔っているせいか、いつも以上に色っぽいメヌエット。

「さすがグレイだね! ただの骨でそんな芸術的なコケ方が出来るんだからさ!」

リホがコロコロと笑う。

「おい、ひっくり返ってないで、さっさと酒だ」

モーリスが杯を突き出してくる。

「あ、ああ。分かっふべぇっ!?」

「……」

モーリスに近付こうとしてまたコケる。

ベリオのしっぽが器用に俺の足を払ったのだ。

「ベリオ!なんなんだよ!?」

「……」

「あ、ごめん」

「………」

「あの、はい。ごめんなさい。ベリオレーラスさん」

腰から櫛を取り出して、ベリオの銀色でフサフサのしっぽをブラッシングする。

「うむ」

「早く酒だ!」

「すぐ行くよ!」

櫛をしまって酒を継ぐ。


「ったく、お前はいつもそうだな。ずーーーっと愚図の役立たずだ。ガキの頃から」

シュダが俺に枝豆の皮を投げ付けながらブチブチ文句を言う。

「いつもありがとう。俺がこうしていられるのもシュダのおかげだよ」

髪に引っかかった枝豆の空を片付けながら、頭を下げる。


そう。トリセトグリアでの俺の立場は低い。

何故なら俺は本来トリセトグリアにいられるような実力はなく、ただシュダの幼馴染という理由で仲間でいられるだけだからだ。


何より戦闘能力が低い。

今日のリッチミルク討伐にしても俺は隅っこで邪魔にならないようにしていただけだ。


一応それでも迷惑はかけられないのでスカウトは務めているし、この祝勝会に遅れたのもアレコレと事務処理をしていたからだ。


「いくらぐらいになりそうだ?」

「リッチミルクの討伐で金貨100枚、引き上げた素材の売却で金貨150枚ぐらいになりそうかな」

「250ぅ?」

「さすがリッチミルク!」

「ハーテッドハートが採れたのが大きかったよ」

ハーテッドハートは骨しかないリッチ系が動き回ることが出来る根幹のエネルギーを生み出している核のようなものだ。


「さすがグランクラスだな」

「うむ」

モーリスが腕を組んで大きく頷く通り、シュダの必殺技で一気に滅殺したからこそ確保出来た素材だ。


「ハーテッドハートがあってそんなもんかよ? 300はイけるだろ?」

少し酔っているのかシュダの目が座っている。

「いや、相場

「ガタガタうっせえよ!相場通りならわざわざテメェが無駄飯くらって仕事したフリする必要はねえんだよ!」

「痛てっ!」

再び骨が飛んでくる。

「300だ。300引き出すまで死ぬ気で粘れよ!」

額を押さえて蹲る俺に無茶な命令が下る。

「「「「……」」」」

顔を上げると、シュダ以外のメンバーからも冷たい視線が刺さる。


「……やってみるよ」



☆☆☆



まだガキだった頃、俺とシュダは片田舎の街で産まれた。

お調子者だった俺と、優等生だったシュダは不思議と気が合い、よく遊んでいた。

平凡な親父と平凡なお袋に平凡に育てられた俺は、15になった時、街を出ることを決めた。


人より少し体がデカく、人より少し器用で、人より少し悪知恵が働いた俺は、人より少し頭が悪かったから、平和だが退屈にしか見えない将来が嫌だった。


「いつ帰って来るの?」

街を出るその前日、そう聞いて来たのは幼馴染のディーラだった。

ピコピコ動く猫耳と、ぴょこぴょこ動くしっぽがトレードマークの猫颯族びょうさつぞく

同い年だが、妹みたいな感じで俺の後ろをちょこちょこ付いて回っていた。


「もう帰らねえよ。俺はAランク冒険者になって世界中を飛び回るんだ!」

その頃俺は、Aランクの意味もよく分かってなかった。

「グレイはともかく、シュダも行くなんてね」

俺の決意など聞こえてないかのようにシュダの心配をするディーラ。

「……まあ、確かにな」

俺にとっても意外だったのは、優等生のシュダまで俺に付いてくると言ったことだ。


優等生な上に顔もいいシュダは女子の間でも人気が高かった。

俺が居なくなることを悲しむヤツはいなかったけど、シュダが居なくなることを悲しむ声はあちこちから聞こえた。

ディーラもその1人だった。


俺がシュダを誘ったわけではないし、唆したなんてことは全くない訳だが、理不尽に恨まれたりもした。


「アナタはどうなってもいいけど、シュダは守って上げてよね!」

なかなか強烈な見送りの言葉だった。


それから3年。

世間は俺が思うよりもシビアで、世間知らずなガキでしかなかった俺たちは、死にかけたり、騙されたり、死にかけたり、死にかけたり、騙されたり、死にかけたりした。


何度もパーティーを代わり、仲間を失いながら何とかかんとか生き延びてこれたのは、俺の僅かな悪運と、劇的なシュダの成長のおかげだった。


初めの頃、俺の後ろにいたはずのシュダは、いつの間にか俺の横に並び、気がつけば俺の前にいた。

そして、3年前。

シュダに〖勇者〗の資格が認定された。


俺は下手くそな愛想笑いを浮かべて、「スゲーじゃねえか」と肩を叩くのが精一杯だった。


そこからのシュダの活躍はめざましかった。

〖トリセトグリア〗を立ち上げ、メンバーを募集し、強力な仲間を集め、精力的に活躍の場を広げた。


俺は、ジュダが余り得意としない分野を買って出て、あれやこれやとせせこましく動いた。

『俺がやらないと勇者様が困っちまうからな』

俺がよく口にしていた言葉だ。

実際は捨てられないように必死だっただけだ。


それでもシュダはいいヤツだ。

あいつが望めば俺以上の人材なんて簡単に手に入るのに、幼馴染というだけで、同じパーティーに置き続けてくれているのだから。


さあ、そんなシュダの期待に応えるためにも、250枚の報酬を300枚に増やせるように動かなければ。



☆☆☆



「292枚だ」

パーティーベースの机の上にドンと置いた6つの袋。

要望の300には届かなかったが、アチコチ駆け回り、話を付け、押したり引いたりを繰り返すことを10日、なんとか格好がつく所まで増やすことが出来た。


「まあまあだな」

袋をあらためてシュダが鼻を鳴らす。

「うむ」

金貨をつまみ上げたベリオが、つまらなそうに袋の中に金貨を放り投げる。


「ま、これはこれでいいとして、だ」

シュダがさっと手を振ると、モーリス、リホ、メヌエットの3人がそそくさと金貨の入った袋を片付ける。


これでいい、って簡単に言うけど、結構大変だったんだけど?とは思ったが口には出さない。


「俺達も随分実力がついた」

意味ありげな顔でシュダが切り出す。

席に戻った3人も含めた4人の女性陣もうんうんと頷く。


なんだ?

俺以外で打ち合わせは出来てるぞ感が凄まじいぞ?


「そこで、だ」

演技じみた手振りのシュダ。

こういうのが良く似合う男だ。

「戦力を増強するため、新しい仲間を迎える」

パチパチと拍手が起こる。


迎えようと思うではなく、迎えるということはもう決定事項だ。

俺以外のメンバーとも話が付いているのだ。


「入って来てくれ!」

ジュダがそう言うと、2階へ続く階段から人影が現れる。


小さい。

そして浮いている。

背中に生えた透明な羽がパタパタと動いている。

葉精族ようせいぞく……?」

珍しい種族が出てきた。

人嫌いな葉精族が混成族のパーティーに加入するなんて。

「ティアナだ」

可憐な容姿に似合わず尊大な物言いで自己紹介された。

腕を組むと、体の割にボリュームがあって盛り上がる。

「ティアナは優秀なスカウトだ」

シュダがニヤリと笑う。

え?こんな小さい子もなの?お前?

「ほう、へ、へぇー」


「次だ。来てくれ」

「え?次?」

また1人、階段を降りてくる。

尖った耳に、絹のようなサラサラした金色の髪。

人形のように整った顔。

「うぇ!? あれ!? リリエンさん?」

知った顔だったことに驚いた。

「こんにちは」

そうニコッと笑うのは襟布族えりふぞくのリリエンさん。

「リリエンのことは、お前もよく知ってるだろ?」

知ってるも何も、このパーティーの中でリリエンさんに1番詳しいのは俺だろう。

リリエンさんは商業ギルドの職員だ。

素材の売却や、消耗品の補充など商業ギルドにお世話になる機会は多く、中でもかなり手強いのがこのリリエンさんだ。

「どぅえ? 引き抜いたの?」

リリエンさんはギルドでも期待の大きい人材のはずだ。

ニヤリと笑うシュダが意味ありげに片眉を上げる。

マジでか!?

シュダがモテるのは知ってるが、まさか!

そうだったのか……。

「会計のお仕事もそうですけど、弓や魔法もたまには使いたいですからね」

ニコニコと笑うリリエンさん。

え? この人、実は武闘派?

魔法使うの?

弓も使うの?

あ、いや、襟布ならまぁそうか。


「そして、最後だ!」

「は? まだいんの?」

「来いよ」

驚愕する俺を無視して三度2階に呼びかける。

「グレイ、やっほー」

ひょこっと顔を出すなり、ものすごく気さくに声をかけられる。

ピコピコ動く猫耳と、ぴょこぴょこ動くしっぽがトレードマークの猫颯族。

「………」

「あれ?グレイ? 大丈夫?」

言葉を失う俺。

記憶にある幼馴染とよく似た彼女は、全く記憶にない色香を纏い、よく知る距離感で話しかけてくる。

「ディディディ、ディーラ!? なにやってんの!? え? 何これ? はあ?」

「めっちゃ驚いてんじゃん」

キャハキャハ笑うディーラ。

「いやー、お姉さん心配で心配で。来ちゃいましたよ」

バンバン肩を叩くディーラ。

力が強い。

「痛ぇよ! ってかお前冒険者なんて出来んのかよ!?」

「あら? 心外ね」

そう小首を傾げる姿が妙に色っぽい。

なんだこれ?

猫颯族私たちは元々狩人の一族よ? グレイより強いわよ? シュダには無理だけど」

しゅっしゅっと可愛らしくパンチとキックのコンビネーションを繰り出すディーラ。

……頭の位置は全くぶれないのに、手足の動きは目で追えないほど鋭い。

その動きに『ほう』とベリオが感嘆の声を上げている。

「そもそも私は戦闘要員じゃないし」

「そ、そうなのか?」

ゴリゴリ前衛が務まりそうだけど?

「料理人よ、料理人。大事でしょ?」

そして、バシバシとまた肩を叩く。

痛い。


「感動的な再会もあったが、これからの話だ」

パンパンと手を叩いて注目を集めるシュダ。

みんなの視線が集まったのを確認して鷹揚に頷く。


「こうして新しく3人の仲間を迎えることが出来た。〖トリセトグリア〗は益々強くなる!」

拳を振り上げるシュダ。

酔っ払うと粗暴な感じになるが、シラフの時はこういう演技めいた所作が様になる。


シュダの拳に釣られるように、7人の女性も気炎を上げる。

素晴らしい一体感だ。


俺だけ完全に乗り遅れている。


「新しくスカウトが入った!」

ティアナくるりと宙を舞う。

「これで挑むダンジョンの難易度も上げることが出来る!」

わああああっと歓声が上がる。


「新しく会計士も入った!」

リリエンが優雅に手を挙げる。

「これで安心して大きな稼ぎを上げることが出来る!」

再びわああああっと歓声が上がる。


「心強い料理人も入った!」

ディーラがぺこりと頭を下げる。

「ダンジョンでも美味い飯が食える! ディーラのチョコバナナパイは最高だぞ!」

三度わああああっと歓声が上がる。


そんな中、俺は何とか一緒に盛り上がりながら得も言われぬ不安を感じていた。



☆☆☆



――パンパン――

歓声が落ち着き、女性らしいキャイキャイした感じで盛り上がり始めた頃、みんなの前に立ったままのシュダが再び手を叩く。


俺の背中に冷や汗が浮かぶ。

何故かシュダが俺を見ていたからだ。


「みんな聞いてくれ。スカウトの質が上がった」

シュダはゆっくりと拳を前に出すと人差し指を立てた。

「会計や交渉の仕事も優秀な専任者が出来た」

中指も伸ばす。

「料理や身の回りの家事をしてくれる者も現れた」

薬指が伸びる。

三本の指が伸びた時、みんながゆっくりと俺の方へと振り向いた。


「マジかよ……」

震える声でそう呟いた。

「優秀な人材が揃ったんだ。ここから先、グレイには荷が重いと思わないか?」

全員の目がただ一点、俺だけを見据える。


「……なあ? どう思うよ、グレイ?」

沈黙が粘土を持ったように絡みつく中、ゆっくりと改めてシュダに聞かれる。


「あ、いや、俺は……」

カラカラに乾いた口から細い声が漏れる。

チカチカする視界でみんなの顔を見回す。

はっきりしている。

ここにはもう俺の居場所はない。

「俺は…

「ん? あれ? 何これ? グレイ居なくなるの!?」

錘のような沈黙を吹き飛ばしたのは、ディーラだった。

「いやいやいやいや、グレイ居なくなるなら、私入る意味ないし」

「「へ?」」

思わず素っ頓狂な声を上げる俺とシュダ。

ブンブンと手を振るディーラ。

「グレイが、得意でもないのにご飯作ったり、女の子の下着洗ったりするの大変だろうなぁって思ったから私はここに来たワケで、グレイが居なくなるなら、私入んないよ?」

「え?いや、おいディー

「待って!待って待って!」

ハイハイとぴょこぴょこ手を挙げて飛び跳ねるのはリホ。

「そうよ! 泥々で汗まみれとかなんかそれ以外とかまみれになった服とか下着とかをグレイが手洗いしてくれるっていうご褒美があるから頑張ってるのよ、私!」

「はぁ!?」

とんでもない事を言い出すリホ。

「だから、グレイが抜けるなら私も抜けるわ。そして、グレイについて行く!」

「おい!こら! 淑女協定を破る気か!?」

次いで声を上げたのはモーリス。

「破るも何も、居なくなるなら意味無いわよ! 無効よ!無効よ!」

「は!そうか!! 確かにそうだ! 私もグレイについて行くぞ。 グレイに酌されないならいる意味はない!」

「ワタシもぉ、2週間に1回のぉ、グレイの補充が出来ないならぁ、生きていけないからぁ、抜けるぅ」

「へあ? はえ? メヌエット? 補充って何?」

自分の体を抱きしめてクネクネするメヌエット。

ピンクと紫のヤバいオーラがゆらゆら広がっているように見える。

「こう手をきゅって握ってぇ、グレイを補充するのぉ。するとぉ、また2週間頑張れるぅ」

「無理も出るわよね」

うんうんと物凄く理解を示すリホ。


「私もですよ?」

リリエンさんが小首を傾げる。

「リリエン?」

シュダの中途半端に伸ばした手が宙を掴む。

「あのギルド長相手に、報酬の2割アップをもぎ取る程の交渉術を持つグレイさんと仕事が出来ると思うから入るんですよ」

「え? リリアン?」

「グレイさんと一緒に出来ると思ったからこそ、そこの人のセクハラにも耐えたんですよ」

「セク? え? リリアン?」

「グレイさんが居ないなら私が学べることなんてないじゃないですか。入るの辞めます。ベタベタ触られるのも気持ち悪いし。グレイさんが新しくパーティー立ち上げるんですよね?」

「え?俺が?」

「Aランクになって世界中飛び回るんでしょ?」

ディーラが真っ直ぐ俺を見ている。

「それで、Aランクになるには勇者が居ないといけないからシュダと組んでたんでしょ?グレイは1人しかいないけど、勇者は他にも沢山いるじゃない」

カラカラと笑うディーラ。

「なので、グレイさんが作るパーティーに私も入ります」

リリエンさんがニコッと笑う。


「ベリオもだろう? グレイがいなくなったら、しっぽのブラッシングはないぞ?」

モーリスがベリオに声を掛ける。

「……」

いつも無表情のベリオが難しい顔をしている。

「ブラッシングも大問題だが……」

「ベリオが喋った!?」

「それ以上に、ダンジョンの選定やら、戦闘時の指揮、不慮の事故への対応、作戦の立案、シュダの放言を実現する計画なんかを立てられなくなるということだ。シュダはそこそこ強いが、リッチミルクの討伐だって、グレイが予めフォーメーションや、作戦をしっかり準備してくれていたから、あんな隙だらけで威力だけの欠陥技を当てられたわけでな」

「おい? ベリオ?」

知り合って2年。

初めての長広舌に驚く。

ぽんと手を叩くベリオ。

「それに、グレイは私の胸に夢中だからな。私がそばにいて上げないと寂しいだろうし。私もついて行ってやるぞ」

大きなおっぱいを持ち上げるベリオ。顔だけは無表情なので不思議な絵面だ。

「グレイは私の太ももも大好きだが?」

着流しの裾からチラリと内ももをめくって見せるモーリス。

「私のぉ、唇もぉ、好きよねぇ」

チュッとプルプルした唇を鳴らすメヌエット。


「ティアナはぁ、どうするのぉ?」

事態についていけてないティアナに声を掛けるメヌエット。


「あの、私はシュダに返す恩が」

「??」

ティアナの言葉に首を捻るベリオ。

「恩? シュダにか? 勘違いでなければ、珍しいことだな」

驚きを露わにするモーリス。

中身は知らないのに断言するモーリス。


「シュダにはフェルシコアの森を守ってもらったんだ」

「フェルシコアぁ?」

「フェルシコアってあれか、アシッドサンミースッパイダーが巣食った樹か?」

以前の仕事を思い出す。

「そうだ。シュダがあの化け蜘蛛を討伐してくれなかったら、私たちの村は壊滅していた。その恩がある」

「「「「ふーん」」」」

「な、なんだその反応は!?」

「「「「別に」」」」

「言いた

「あ、思い出した!」

パンと手を叩くリリエン。

「『もう森を焼き払うしかない!』ってなったけど、グレイさんが『他に方法があるはずだ』ってみんなを押しとどめて、最終的に上手く解決したあの件よね」

「そうなのか?」

ティアナの目が俺に向く。

「あ、うん。まあ、その、ね」

「うむ」

「シュダはぁ、合法の乱伐で荒稼ぎできるってはしゃいでたけどぉ、グレイに止められてぇ、キレてたわよねぇ」

「うむ」

「汚ぇ森の1つや2つ消えたって誰も困らねぇんだよ!!ってグレイの顔が倍になるぐらい殴ったアレだな」

「うむ」

「損失分はお前の報酬から払わせるって3ヶ月ぐらいタダ働きさせたのよね」

「うむ」

「あら? 見込み差額は冒険者ギルドと商業ギルドから補填しましたよね?」

「見込み差額が低過ぎるって理由だったな。森全体の樹を材木にした場合で計算するのが当然だってな」

まあ、あれはなかなかな事件だった。

食費がなくて、リホに食べ物を恵んでくれと頼んだら食べかけのリンゴとか食べかけのプリンとか食べかけのスープパスタとか分けてくれた。

まあ、済んだことだ。


「………」

信じられないという顔でシュダを見るティアナ。

事態の転落にポカーンと口を開けて呆然としているシュダ。

「ティアナが思うならぁ、シュダについて行ってもいいと思うけどぉ……恩は無いと思うからぁ…村に帰ってもぉいいと思うわぁ」

「うむ」


「はーい、それじゃあ、グレイについて行くよーっていう人、こっち集合ー」

「なんでアナタが仕切るんですか?」

「幼馴染だからよ」

真っ白になったシュダを見向きもせず、キャイキャイと集まるみんな。


「貴女も来る?」

宙に浮いて戸惑うティアナに声を掛けるディーラ。

「多分、こっちの方が楽しいし、恩返しならグレイの方が近いんじゃない?」

「あ、ああ……うん。そうだな!そうだ!そうしよう!」

「うむ」

「はーい、じゃあとりあえず初期メンバーはこの7人ね」

「バランスも悪くないな」

「冒険者だけじゃなくて、なんでもやれそうなメンバーね」

「色々選択肢があるのはいいですね」

ハハハと盛り上がるみんな。

「淑女協定もぉ見直しねぇ」

「そうね。グレイは奥手だから、遠くから見てても進展はないわよね」

「うむ」

「とりあえず夜は順番にしましょう。全員一斉でもいいけど、流石に毎晩それだとグレイがもたないだろうし」

「うむ!」

「そうねぇ」

「そうね、ってお前は貞操はどうした?」

「あらぁ? 伴侶はぁいいのよぉ」

「正妻は譲りませんよ?」

「あらぁ? 寝技で艶魔族私達に敵うと思ってるのぉ?」

「む! 葉精族私たちも使い心地はいいと聞くぞ?」

「使い心地って、アンタ……」


「いや、待て! ちょっと待て!」

「「「「「「「??」」」」」」」

「何でそんなまとまってるんだよ!? 色々おかしいだろ!?」

「「「「「「「??」」」」」」」

「いや、首を捻るのは俺だよ!?」

「でも、揉めるよりいいでしょ?」

「え? いや、そりゃそうだけど?」

「じゃあいいじゃない。はい解決ー」

イエーイと盛り上がる7人。

「解決ーじゃねえよ! そもそもお前らシュダの恋人じゃねえのかよ!?」

「「「「「「「は?」」」」」」」

殺気が突き刺さる。

「本気で止めて貰えます?」

「そんな悪趣味だと思われるのは心外だ」

「神にぃ誓ってぇ、そんな事実はイエナシスアリの巣穴ほどもぉありませんよぉ」

「うむ」

「想像するのも嫌な話ですね」

「シュダはね」

「過ちはないぞ!」

「ごめんなさい」

思わぬ剣幕に圧倒される。

後、ちょこちょこ酷い。


「大人しく責任を取ればいいんですよ。理不尽に責任取らされるの慣れてるじゃないですか?」

「何、その嫌な慣れ?」

「さ、行くわよー。もうちょっと可愛い感じのベースがいいわよね。リリエン、いい所ないの? 寝室が広くて防音がしっかりしてる所がいいわね」

「ありますよ。候補はいくつか上がってます。直ぐに内見出来ますよ。イチオシは東区第7ブロックの一軒家です。最低10人は同時に寝れるベッドが置けます」

「じゃあ今日はこのまま内見に行きましょうか」

「「「「「はーい」」」」」

「あ、シュダさん?」

「ほえ?」

「パーティー資産の分割は本来第4条8項に基づき行われますが、第4条11項サ行の特記事項が適用されます」

「はあ?」

「簡単に言うと、シュダさんの私物以外は全て他の元メンバーで分割されます」

「へ?」

「リリエンさん、第6条9項は適用されるんじゃないかな?」

「あ、そうですね。さすがグレイさんです。このベースは〖トリセトグリア〗の所有物になっていますので、シュダさんの…―あれ?第2条3項に抵触しますね、この状況」

「あー、パーティーベースの取得条件?」

「ええ。パーティーメンバー5人以上いないとパーティーベースの免除項目が無効になります」

「ということは?」

「分割支払猶予が消えますね。来月の15日までに、支払残金の3/4を支払う必要があります」

「あー」

ここ、高いんだよね…。立地がいいし、デカいし。あ、冒険者ギルドが後見人代理を務めてるから、違約金も発生しちゃうな…。

「正式な通知は近日中に書面で届きますので、不服がある場合は、必要書類を集めて提出して下さい」

「現金と宝物は集めて来たぞ」

モーリス達が地下の宝物庫から根こそぎかき集めて来たらしい。

「凄い量ね!……この量なら第11条3項ウ行が使えますね」

「えーっと……丸被せ法だっけ?」

「言い方は悪いですが。まあそうですね。この分の税の支払いはシュダさんにお任せしましょう。勇者ですから、払えますよ」

「勇者って税率高いんだよね……あ、そのガルフェスの剣は残しといて。勇者専用装備は所有権の移動が邪魔な上に使えないから」

「うむ」

豪奢な装飾のされた剣をポイっと放り捨てるベリオ。

「勇者特権は100%使いこなせないと損する仕組みですからね」

「使いこなすと優遇が凄いんだけどね」

「どっかに従順な女勇者がいれば引き込みたいですね」

「従順て」

「ああいうのは邪魔になりますからね」

見向きもせず親指でピッとシュダを指すリリエンさん。

「女勇者なのか?」

「男がいいなら探しますが?」

「いや女の子がいいな。仲良くできる」

また集まりキャイキャイとどんな勇者がいいかで盛り上がるメンバー。


「あー、シュダ?」

「……」

口から何かが飛び出しているシュダに声を掛ける。

「まあ、その、お互い頑張ろうぜ」

ぽんとシュダの肩に手を置くとシュダはそのまま後ろ向きに倒れた。


「ほら、グレイ。行くわよー」

「ああ」

これからどうなるか分からないけど、案外何とかなるかもしれない。


15の時に街を飛び出した時のようなワクワクを思い出しながら、新しい一歩を踏み出した。




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