ロストテクノロジー

きゃきゃお

はじまり 前哨

―星暦2164年

 静寂が広がる宇宙の中ひとつの人型ロボット、兼城製旧式プロトタイプのM/Wマシンワーカーが孤独な航海を続けていた。

 その金属でできたM/Wは、地球から見れば星となった宇宙ゴミが反射する光を漆黒の体に吸収し一切の痕跡を広い宇宙であっても残すことはなかった。

 彼らは追われる逃亡者であり、追う狩人である。


……僕らの敵は?」

『現在判明している限り、この宇宙空間には我々を追って月面基地から出動したΔデルタ部隊と惑星アイオン付近で訓練を行っている月の新兵しか存在しません。輸送船はすべて資源衛星アイオンに収容されています』

「恐らくアイオンには予備部隊……デルタと連携されたら面倒だ。集結される前に各個撃破が賢い選択かな?」

『アイオンでの演習監督はケイネス・フロント……彼の部隊所属は17名、そして演習中の新兵は23名。後方デルタは7名の精鋭部隊、データ通りの美しいフォーメーションです』


 男は左右のスラスター制御のための操縦桿の動きを確認し、目の前のモニター以外光の存在しないコックピットの中で数字を数える。その数字は彼にとっての敵の数を意味し、一人一人の位置を目の前のモニターで丁寧に確認した。

 モニターには元は地球と月の一部であった3つの衛星が映し出され、その星と星の間で動く複数の赤い点の位置を記憶する。

 識別番号を詳細に調べれば彼らが搭乗するM/Wを特定することも可能だ。モニターに映る点を拡大すると3Dグラフィックによってそれぞれの個性溢れるマークが描かれ識別が容易である。男はそのマークひとつひとつを記憶した。


「無線は?」

『訓練中の新兵が解放しているモノをキャッチしました』

「実戦だったら真っ先に狙われてしまうね」


 男は暗闇に溶け込む漆黒のフルフェイスマスクを被ると目の前にはヘルメットのVRモニターによって宇宙そとの景色を見ることができた。今日も宇宙は暗闇が広がっていて彼にとっては無限の未知が広がっていた。

 その光景を見ていつも以上に深く深呼吸を行う。

 無臭、無音と集中を乱すようなモノをすべて排除し男は追ってきた部隊、そして現在訓練を行っている新兵と戦闘になることを予測し最終チェックを行う。

 モニターに表示された残弾数は少々心もとないが、彼にとってはソレが最大の不安の種となることはなかった。

 頭上のスイッチを上げてその訓練兵から傍受した無線の内容を把握しどこに誰が居るかなども最終確認をおこなう。失敗すれば命はない、慎重に行動するのは当然のことである。


『バイタルチェック完了……正常です』

「そうでなければ困る。何のために薬を投与したっていうんだ」


 今度は相棒とは別の女性の声がヘルメット内に響く。

 最終確認をおこなった男は操縦桿を握りしめフットペダルに軽く足を乗せ、シートから伝播する心地よく振動していた相棒の核融合エンジンを体で確認し整備の良さを自画自賛した。


「…………これより地球降下作戦を開始する」



―資源衛星アイオン―


『こちらストームデルタ01、繰り返すこちらストームデルタ01。ケイネス部隊に通達する……目標は旧式プロトタイプを奪取し逃走中。目標は会長を殺害した容疑もかけられている。軍統合本部より命令、見つけ次第捕獲或いは撃破せよ』

「目標とは……?」

『例の“ヤツ”だよ』

「あ、ああ……了解」


 軍の上層部のみが使用することができる暗号化された通信に対しそう返したのは現在資源衛星アイオンで新兵訓練をおこなっていたケイネスであった。

 地球に居座る各国政府と月に移住した統一連合の戦争が開始してから今日で一年が経とうとしているなかでのビッグイベント。目標とされる人物が旧式プロトタイプを盗み、よりにもよってヤツの主人的存在でもあるカネシロ会長を殺害し逃走するとは予想外なことが続く。

 今日中に何か事が動く、そう彼の勘が告げるのだった。

 ヘルメットのバイザーをあげると歳のせいか、顔から染み出る脂汗をふき取り訓練を行う彼らにこの情報をどう伝えるのかを必死に考える。


「実戦には早すぎる……しかし、これで幸一派を刺激することは我が軍にとっても悪手。なぜこのタイミングなのだ」


 ケイネスはそう神に問うが、神は都合よく彼の問いに答えるような存在ではなかった。

 彼の問いには沈黙が返る。

 新兵を連れて宇宙空域最初のM/W訓練がまさか実戦であるとは誰も予想できなかっただろう。彼の新兵時代は軽い作業、惑星に設置された地球の資源倉庫の修理を行った程度のことで実戦を想定した訓練や戦闘という言葉自体彼は軍内部で聞いたことがない。

 実戦訓練が開始されたのは40年前の地球に居座る地球連合政府と月移住をおこなった統一政府が対立したことが原因であった。エリートのみが参加できる訓練であり、38年間の長い準備期間を経て2年前、我々月による地上降下作戦が開始され戦争が始まったのだ。


「班長のみ回線をつなぐように」

『繋ぎました』


 ケイネスの命令に新兵は応える。


「急遽別の任務が発生したため訓練を終了する」

『別の任務とは?』

「実戦だ……これより、カネシロ旧式プロトタイプM/Wを奪い逃走した犯人を捕獲或いは撃破せよと、月の統合本部より命令があった。Dead or Aliveだな」

『重罪人ということですか……?』

「まあ、そういうことになるな。あろうことか統一政府にとっても我々にとっても影響力のあるカネシロ会長を殺害したという報告もされた。生き延びるためにソイツは武器を使用する可能性は十分にあるわけだ」


 新兵の班長が息をのんだような反応を見れば他隊員の反応も無線を繋げなくてもわかるものだった。彼らにとっては訓練もままならない状況でいきなり実戦に放り投げられるのだから英雄志願者か頭のねじが外れた愚か者でなければ逃げたいと思うだろう。

 しかし、月の兵士として自ら志願しようやくM/Wパイロットに任命されたというのに「逃げたい」とは上官の私に向かって言いだすことはプライドもあってできないだろう。

 だから私は彼らに生きるための選択肢を与えることにした。


「旧式プロトタイプに搭乗した目標は恐らく地球の大気圏突入が目的である。我々はソレを阻止するのが任務であるが、途中目標は武装補充のため資源を確保する可能性を排除することはできない……自信のない者はこれよりアイオンの拠点に帰還しアイオンの防衛を担当するように」


 そう命令するとケイネスは新兵班長との無線通信を別動隊、現在アイオンに駐留する彼の部下たちに同じ命令を下した。しかし、新兵と違い彼の正規の部下たちは戦闘を求める謂わば頭のネジが外れた連中であった。

 ケイネスの話を聞くといきなり一人の兵士が発狂のような奇声をあげ、ケイネスのM/Wのモニターには複数の味方機体が映し出される。

 それらとの入れ替わりで新兵たちにはアイオン基地に帰還してほしかったのだが、思いのほか彼らは臆病ではなく共に戦うと残った隊員がほとんどであった。


『こちらストームΔ01、繰り返すこちらストームΔ01……目標を捕捉した。目標旧式プロトタイプはまっすぐアイオンへ向かっている。おそらくアイオン基地に設置された電磁カタパルトを利用するつもりなのだろう。我々は後方、アイオン側は前方からの挟み撃ちという形になる』

「こちらアイオン……ケイネス了解した」


 ケイネスはM/Wの肩部に設置された試作であったが電磁砲台を用意するとコックピットの座席からVRスコープが彼の頭を隠すように下りてきた。

 一昔前までの宇宙では敵を見つけるのは困難なことであったが、時代が流れ軍事民間どちらの技術も性能も進化した現代ではそれも最新のAI技術によって可能になっていた。

 すべてのM/Wには学習するAIが搭載されレーダーやカメラの視覚情報から敵を判別することができる。同時に相手の行動も手に取るように読むことが可能で、ある程度の誤差であればAI側が勝手に修正して操縦をおこなってくれたりする。

 今の訓練は昔よりも操縦桿を操作しなくてよくなっていた。

 これから彼が使用するM/Wの電磁砲台もAIが射撃訓練を積んでパイロットの癖などを理解し勝手に修正し目標を補足することが可能となっている。彼のやる仕事といえば操縦桿でスラスター角度の調整と武器の発射ボタンを押すくらいだ。


「それにしても今日はマッドの干渉が酷いな……。これより電波無線はすべて封鎖、情報伝達はアイオンを中継し光通信を使用」


 砂嵐が絶えない無線を光通信に切り替える。

 しかし、ご令嬢は…いや、カネシロの会長様はとんでもない怪物を飼っていたものだ。人の皮を被った怪物に噛まれたことは完璧を誇る彼女の唯一の失敗であろう。

 付近で構える新兵が心配そうにM/Wのカメラを動かしているのがメインモニターで確認できた。彼らは新兵、多くは25歳前後でありこれより接敵する目標も彼らと同じである。

 目標はそんな年齢で幸一派と戦うことを迷わず決意したのだ。恐らくここに居る誰よりもその意志は強く、味方のいないこの状況を生き延びるだけの悪運を身につけているはずだ。

 地球時間に合わせられた時計を眺め最後の無線から約17分が経過したことを確認し、そろそろΔ01率いる部隊又は目標本人が見えてもいい時間であったが未だスラスターの光一つ確認されていない。

 ケイネスの頭がすっぽり埋まったVRスコープのスポンジが彼の脂汗を沢山吸い取った頃、彼のM/Wは背後から衝撃を感じ取った。敵であるかと急いで背後を確認すると通信が自動的に有線に変更される。

 それは新兵班長であった。


「どうした。通信はアイオンの暗号光通信にしろと命令したはずだ」

『それが…訓練機04と11からの通信が途絶えて……!』

「なに!?」


 ケイネスはその報告をもとに急いで光通信を全機に解放し警戒態勢を二段階引き上げるよう命令をする。これは軍のマニュアルに則った行動であり、軍の定めたこの行動は正しいモノだ。

 しかし、彼らは相手が悪かった。

 光通信を常に監視し続ける男にとっては新しくアイオンから配備されたケイネスの部下たちの位置も含め全機体を知る都合のいいモノに変わる。彼らは緊急事態時におけるマニュアルに従ったことで自ら危険に身を晒すこととなるのだった。

 月側で目視可能な距離に2本の交差する光の線が現れ、続いて音もなく暗闇の中に1つの光が生まれる。

 光を確認できたケイネスは幸運だったかもしれない。彼は直ぐにその光が僚機の爆発によって生じた閃光であると断定する。


「全員戦闘態勢!目標は月側ポイント43の位置を狙撃した!」


 こちらの会話をすべて傍受しているからか、目標は隠すこともなくスラスターの光を発生させながら接近を始めた。VRモニターが捉えた画面には機体の姿ではなく3つのテールノズルの光が放つ青い炎だけが残されている。

 行動のすべてに無駄がなく、スラスターの強弱で屈折を繰り返しAIが予測する射撃プログラムに補足されないよう動き回っていた。

 VRモニターに表示されるコンピューターの計算は何度も修正をおこない照準の位置を何度も変更しながら標的を追うもやはり逃げ切られてしまった。暗闇の続く虚空を流れる照準に苛立ち暴言を吐き捨てたケイネスは結局、長年培われてきた技術と自らの勘を信用するしかなかったのだ。

 オートパイロットから手動操作に切り替えると手元のスラスター操作パネルを全開に設定し操縦桿で機体の操作を巧みにおこなう。

 光線が彼の傍を掠める。敵味方どちらの流れ弾であっても一発被弾すれば命に関わるため光が見える度に彼は血の気をひく思いをするのだった。しかし、熟練のパイロットの枠に入る彼がこのように恐怖を抱くならここに居る新兵たちはそれ以上の恐怖を味わっていることとなる。

 彼らのためにもお手本となる戦いを見せなければいけない。


「デルタチーム……生き残っているなら俺に合わせるんだ!ヤツは個人で戦えるほど優しい相手ではない。武功よりも生き残る戦い方を優先するのだ」


 既に自分の部下が3名撃墜されていた。

 たかが数分のうちにだ……。

 皆が焦りを感じ、恐怖を感じ始めた頃こそヤツにとっては戦いやすい戦場へと変わる。

 再びどこかで新たな光が生まれた。ソレを開始の合図とし、ケイネスを含むデルタの精鋭たちが一斉に加速しながら集中砲火を浴びせる。

 ようやく光線の光を反射させ黒鉄のボディを確認することができた。その機体に目立った傷はなく、こちらの攻撃が無力であることを思い知らされることとなる。


「そんなバカな!?直撃しているはずだ……まさか、マッドの干渉!」


 ヤツはマッドを散布しながら移動しているというのか?

 ケイネスの勘は的中する。

 一斉に放たれた光線がプロトタイプの機体に触れる直前、光の粉のような粉末が発光し直撃を免れていた。マッドの高濃度散布は地球と月の間に交わされた国際条約で禁止されているが、組織ではない目の前の個人に対してはその効力が発揮されないというわけだ。

 事実上遠距離兵器を封じられたことで戦闘方法は変わる。

 すぐさまM/Wの手に合わせて作られた筒より放出されたマッドに熱エネルギーと高周波を発生させ形成された炎の剣ヒートエッジで接近戦をおこなうデルタの精鋭たちであったが、相手は数を分散させるため回避をとりながら一機一機接近を開始する。

 左手にビームブライトを構え、右手でヒートエッジによる接近戦を器用におこなうプロトタイプにはパイロットが二人いても疑問はない。

 数の有利で取り囲んでいるつもりが、いつの間にか我々は分散させられ各個撃破されている。接近すればすべての配置を把握し、僚機を射線に被せ同士討ちを牽制しながら後退しつつ人が耐えられる限界の加速で戦線を離脱する。

 蝶が舞うとはこのような戦いを指すのだろう。

 鮮やかな機体の操縦に見惚れてしまうよ。

 マッドの干渉によって鍔迫り合いが発生するも機体を衝突させることでバランスを崩しトドメの一突きがコックピットを貫く。新兵の泣き叫ぶ声が無線に流れケイネスは激しい吐き気を催すのだった。

 プロトタイプの特徴的なバイザーアイが緑色に発光し、次は自分だと覚悟する。


『バ、バケモノがぁぁぁ!』

「やめろ!無駄死にだ」


 新兵は甘い、仲間の断末魔を聞いて感情的に飛び込む者と逃げ出す者に別れたがどちらもプロトタイプにとっては単純な的でしかなった。

 ただの技術屋にどうして操縦スキルがあるのか見当もつかないが、目の前で起こっていることは夢ではなく、蹂躙は現実である。

 機体の内側から膨張する機体は虚しくパイロットの雄叫びも悲鳴も断末魔も包み込みやがて火の玉へと変わる。

 その爆発に音はなかった。

 また若い命が散ることに限界だった。

 向かい合い接近してくるプロトタイプにケイネスは怒り、ヒートエッジを投げつけ肩部の電磁砲を発射する。放たれた電磁砲が自らを狙っていると思いプロトタイプは回避行動をおこなうが刹那、プロトタイプの至近距離で閃光が発生する。

 ケイネスは投げつけたヒートエッジを狙っていたのだ。


「くっ……」


 プロトタイプのパイロットは小さく唸り、自らを包み込む閃光から脱出し態勢を立て直すために後退を始めた。ケイネスのとった咄嗟の行動に関心するも分散した配置を確認することは怠らず、男は冷静であった。

 目くらましの間に宇宙を漂うデブリ、元は部下たちを乗せていたM/Wの残骸に隠れたケイネスたちはある点で動かなくなったプロトタイプの様子を伺っているとその場は膠着する。

 動けば撃ち抜かれるとわかっていれば動きたくはない。

 デルタの一機がダミーデコイを射出するも撃ち抜かれなんの意味もなさなかった。


「なんて目が良いんだ……」

『き……える……か、そち…………のM…………』


 睨み合いを続ける中で閉鎖していたはずの無線がマッドの干渉を受け砂嵐に紛れ青年の声を届ける。

 付近に身を隠すデルタの生き残りがM/Wの二つの目を点滅させて現存する最高権力がケイネスに渡っていることを告げてきた。面倒ごとは引き受けたくないってことだ。

 嫌々ケイネスは光通信を解放しアイオンを介した接触をおこなう。


「こちら、アイオン警備部隊隊長ケイネスだ。貴殿の自己紹介は不要である…………用件を聞こうか」

『お互い睨み合いで精神を削ることはもう止めにしないか?そちらもこれ以上の犠牲は望んでいないだろう』

「そうだな」

『こちらの要求は一つだ。大気圏突入のみで、これ以上の戦闘を望んでいるわけではない……無事に月へ帰還することを約束しよう。ただし、障害となる者は如何なる者であろうと排除するつもりだ』

「そんな声だとは知らなかったよ……以外に幼いのだな。我々の仕事はアイオンに接近する者を管理しなければいけない。そして、今は貴殿を捕獲せよと命じられている」

『何の容疑で?』

「カネシロ会長殺害とその機密情報の塊といっても過言ではないプロトタイプを奪取し逃亡を図ったことへ最高刑が既に下されている」

『そんなに罪を重ねていたのか……身に覚えのない物もあるが、僕は捕まるつもりはない』

「まあ、そうだろうな……」


 そんなこと話さなくてもわかっている。

 本心はこれ以上戦闘を続けたくはない、これは弾薬や機体にコーティングしていたマッドをこれ以上消費したくない目標も考えは一致していた。

 しかし、我々は軍人である。

 自らに指揮権が渡ったとはいえ、一人の判断でここを通すわけにはいかない。

 男を地球に降下させれば戦況が傾くことは、彼の月での功績を見れば明らかである。


『取引に応じろ……そしたらこれ以上の争いは避けられる』


 プロトタイプは背中に担ぐ巨大なライフルを構え照準を合わせていた。


「時間がないようだな……」


 諦めに近く弱音を吐いたケイネスは痺れ始めた指先をどうにか正常に治そうとパイロットスーツの上から腕を撫で平常心を保とうとする。

 これから起こるすべての事象は遡れば必ずここへ辿り着く。

 自らの判断一つによって歴史は変わる。

 大きすぎる責任であった。


「さて、そろそろ決めてもらおうか……第二陣がこちらに向かっている。挟み撃ちは構わないが、すべてを排除し地球降下することは変わらない」

『ならば道は一つだ。我々は最終防衛線である』


 通信が切断され男はため息を吐くのだったた。

 後方から広がって再び囲い込もうと接近する機影が識別されモニターに映し出される。彼らを相手に戦闘を継続すれば本当にコーティングがすべて剥がれ地球降下中に摩擦で機体がやられてしまう。

 タイムリミットは限られている。


「じゃあ、行くよ……!」


 プロトタイプのテールノズルからスラスターに激しい光が灯る。

 人間が、M/Wが耐えうる限界速度で接近を開始する。


「各機散開せよ!回避行動に移れ……!」


 刹那、正面に漂うデブリに隠れる僚機が回避不可能なほどに膨張した光に飲み込まれ連鎖するように閃光が発生する。

 七機!一瞬にして七機すべての識別反応が失われた。

 続いてクラッキングによりすべての機器が混乱し、プロトタイプの正確な位置や速度を把握することができなくなる。AIによる管理の弊害、すべてを機械任せにおこなってきた報いであろうか実戦通りにいかないその攻撃が一番兵士たちを恐怖に陥れるのだった。

 敵識別反応を出す僚機の同士討ち、遮断されていたはずの通信が再び繋がり仲間の悲鳴が聞こえてくれば常人には耐えることができない。

 悪魔の戦い方だ。

 部下たちが混乱に陥る中で戦場から目を離さず、M/Wの耐えうる最高速にまで加速をおこなうプロトタイプを唯一捕捉することのできたケイネスは彼を追う。ケイネスもまた凄まじい負荷に耐えながらその速度に追随し接近戦を仕掛ける。

 マッドの干渉による鍔迫り合いは火花を散らし、暗闇の続く宇宙に光を発生させる。


「貴様、なぜ敵対する!」

『僕はしたいことをする。ソレが偶々キミたちにとっては都合が悪いことだっただけだ』


 プロトタイプは片手間に部下を撃墜する。


「私の部下をよくも!」


 鍔迫り合いの瞬間、体当たりでプロトタイプのバランスが崩れたところにヒートエッジを振りかざす。

 しかし、それは罠であった。

 プロトタイプの腰から射出された黒い物体、バズーカのマガジンにも見えるソレが目標の背後で破裂する。衝撃と激しい閃光が発生しカメラを通しケイネスの視界を塞ぐのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る