73日目 八咫烏さん



 妖精ぺぺは、ある山の上にある小さな神社に住んでいる。


 妖精なので、ほとんどの人間には見えない。



「ぺぺ、ぺぺ」


 そう言ってぺぺを呼ぶのは、フウフウと言う名の風の妖精だ。


 最近この神社にやって来た妖精で、ずっと同じ場所にいるぺぺ達妖精と違って、場所を転々とする妖精だ。


 フウフウは目をキラキラさせながら指をして、


「ぺぺ。あそこの木の枝に止まっている鳥さんの名前教えてー」


 と言うので、ぺぺは左から順番に言う。


「カラスさん」

「カラスさん」

「カラスさん」

「八咫烏」

「カラスさん」


 すると、フウフウは「やっぱり!」と喜んだ。


 どうしたのかと尋ねると、


「さっき、変わったカラスさん見つけたから、なんて名前なんだろうと思って-」


 と言ってフウフウは八咫烏さんを見る。


「ああ。八咫烏ね」


 そう呼び捨てにしてぺぺはぶうと膨れる。


 理由は、また八咫烏さんにちょっとした悪戯をされたためだ。


「あそこにいるのは、意地悪なヤタガラス」


 その時だ。 


 コン!


 どんぐりがぺぺの頭の上に落ちた。


「あれはヤタガラス」


 すると、また


 ゴン!


 今度は栗がぺぺの頭に落ちた。


「…………」


「ヤタガラ――」


 今度は、後ろに殺気を感じる。ちらっと後ろを見ると、大きな石を持った八咫烏さんが立っていた。


 ぺぺは見なかったことにして、


「八咫烏です」


 と、今度はさん付けで言った。


 すると八咫烏さんは、何事もなかったように元の木の枝に止まったのだった。



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