わたくしの婚約者は無能ですが、たったひとつのことだけ有能です
マンムート
わたくしの婚約者は無能ですのよ
第1話 わたくしの婚約者は無能です。
わたくしの婚約者は、はっきり言って無能ですわ。
婚約者であるハインツ殿下は我が国の王太子ですが、顔も成績もパッとしません。
さぼっているわけではないのですが、努力はしても努力家になる才能はなく、成績はひいき目に見ても中の下といったところです。
運動神経もからっぽです。おそらく神経がないのですわ。
なにもないところでよく転んでますもの。無様ですわ。
何もかもぎこちないので、周りからいつも失笑がもれていますが、なにが楽しいんだか周りが笑うと当人も笑います。
今の側近候補達にもとっくに見放されていて、影でバカにされていますわ。
何を着ても似合わず、威厳というものには縁がなく。
全てが不格好で足りなくて、ほんとうに困ったものですわ。
それにひきかえわたくしマロン・アバンダンは非の打ち所がない令嬢ですのよ。
筆頭侯爵家であるアバンダン家の長女という家柄と生まれつき恵まれた容姿に溺れることなく、自分を高めることに抜かりはありませんの。
成績も常に上位。ここ一年は常に一番ですわ。
自分で言うのもなんですが、運動神経も抜群なんですのよ。
鏡をのぞきこめば、いつもそこにはちょっときつめの顔の美少女がいます。
艶やかで波打つ黄金の髪、ぱっちりとしていて少し吊り目気味の目、明るい海原のような青い瞳。
胸だけはやや不満ですが、平均は十分行ってますし、そこまでの完璧は贅沢ですわね。
それに、あと数年が経てば、ここも改善されて、きつめの顔の美女になっているでしょう。
誰もが殿下とわたくしとは釣り合わないと仰いますの。
まぁそうですわね。
わたくしが婚約者だから、王太子でいられるという噂も、事実です。
わたくしの実家だるアバンダン侯爵家がこの国でもっとも力を持つ侯爵家だから、長男とはいえ側室から産まれた殿下は王太子でいられるんですもの。
ですが愚昧なハインツ殿下は、そんな基本中の基本すら判っていらっしゃるか怪しいものですわ。
わたくしとしては殿下に対して色々と不満がありますわ。
というか不満がない部分がありませんわ。
正妃から産まれて有能と噂の殿下の弟君ギース王子の方が一般論としては王にふさわしいでしょうね。
父上から相手を変えてしまおうかと、さりげなくですが何度か聞かれましたわ。
そのたびに、落ち度があったらそうしましょう、とどうとでも取れるように答えていますのよ。
最近はおっしゃらなくなりましたけどね。
今日も学園のお昼休みには、ハインツ殿下と一緒にランチをとる約束をしてますの。
いくら婚約者とはいえ、なんであんなのと……と周りの方は仰いますが、婚約者ですから仕方ないのですわ。
仕方がないだけですのよ。
だって、わたくしが一緒にランチをしないと、殿下が王太子だということを皆が忘れてしまうのですもの。
でも、空が暗くなって来ましたわ。そのうち雨が降って来そうですわね。
庭の東屋から場所を変えたほうがいいかしら――
「あら?」
待ち合わせの東屋へ行くと、ランチの用意は出来ておりましたが……
女の子と一緒のようですわね。
わたくしは見物――もとい邪魔しないように近くの木立の影へ隠れましたわ。
学園についてきてくれている我が家の侍従や、王家の護衛の姿も見えませんわ。
いつものごとく、父上も王家も、殿下が間違いを起こしやすいように配慮しているのですわね。
そうすれば堂々と廃嫡できますもの。
殿下の側近候補達がいないのは、あの女に籠絡され味方しているからでしょうね。
まぁ側近候補と言っても、全員が影で殿下をバカにしている方々なので、機を見て追い払う存在でしかないのですが。
さて、久しぶりに現れた玉の輿狙いの愚か者はどんな人かしら?
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