キラメキROCK2023
嗚呼兎小判
第0話 ”かなわないゆめ”
「優勝は、このバンドに決まったから」
ある出版社の会議室に呼び出された私は、上司のその言葉にぎょっとした。
「お言葉ですが編集長、言っている意味がよく...」
「だから、お前が担当してる賞レースの優勝はこのイケメン十代4人組バンド『ノベックス』に決まったから、うまくやっておいて」
そういうと薄い紙資料一枚を机の上に置いて編集長は去った。私は渋谷を一望できるビルの窓から空を見ていた。音楽が好きで、音楽に携わる仕事がしたくて、やっと入った音楽情報誌の編集社。何年も練りに練ってやっとの思いで通した企画、『キラメキROCK2023』。それがこんな形で大人の手垢のついたいやらしい大会になっていくのかと、絶望し脱力した。
睡眠時間を削り、何千もの応募の中から決めた煌めきを持つ9組のバンド達。そこにごり押しで入ってきた最後の一枠に、この会社は優勝という肩書をつけることに決めたようだ。
音楽という、興行がそこにはあった。
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「もしもし、弐大画報社の天羽ですが、ノベックスの代表者様のお電話でお間違いなかったでしょうか?」
「...はい、自分ですけど」
まだ青い少年の声が電話口から聞こえた。一目でならぬ一聞きでそれがノベックスのVoだとわかった。
「この度なんですけど応募していただいたキラメキROCKにですね、ノベックスが最終選考を通過いたしまして...その後報告と、今後は自分が担当する旨を連絡させていただいた次第です」
「あ、はい、よろしくお願いします」
少年はさも当然のようにそう答えた。他の9バンドに連絡をした時はみな思い思いにその感情を爆発させていた。夢をかなえるんだというエネルギーが電話口からメラメラとあふれ出ていた。だが、彼からはそういった熱量を少しも感じなかった。
業務的な連絡をいくつかしてから電話を切ると、ちょうど退勤の時間になったのでタイムカードを切り、私は岐路についた。帰り道、私は爆音で秀吉を聴いていた。
”君の夢は叶わないよ
もうそんな夢は叶わないよ
きっとどれだけ願っても叶わないもの
さあ それなら君はどうする?”
秀吉/かなわないゆめ
「それなら...私は...」
續
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