何でも屋 ※リュドミラ視点
キャンピングカーを別の場所に置いて、現地に着いた私たち。
他の仲間は周辺の家に営業をして、少しでも名前を憶えてもらおうと普通に仕事をする。
私だけ営業用のパンフレットを持ち、依頼人が特定した場所まできていた。
微妙に町はずれになった屋敷。
住宅街から少しだけ離れた場所に建っていて、ちょっとした林道を抜けた先にある建物だ。
敷地は広い方だけど、私は門の前に立った瞬間に違和感があった。
締め切ったカーテン。
花壇には背の高い植物が植えられていて、それが窓を覆うように並べられている。
監視カメラは門の所に一つ。
玄関先に一つ。
屋敷の
全て目立たない場所にあって、死角がないように、広く見渡せるようにレンズが向けられている。
門を潜って、玄関に立つ。
インターフォンは今時なく、ドアノッカーを摘まんで、声を張り上げた。
これは営業だ。
「どうもーっ! ハートフル何でも屋でーすっ!」
もう一度、ドアノッカーで、扉を叩く。
玄関の扉は磨りガラスで、奥がよく見えない。
でも、奥の方で動く影があったのを見逃さなかった。
影は私が立ち去らないので、ゆっくりと近づいてくる。
「は、はい」
出てきたのは、20代前半の可愛らしい女の人だった。
「あ、どうも。お忙しいところすいません。少しだけお時間よろしいですか?」
「え、……えっと」
おどおどしていて、落ち着きのない様子だった。
「実はただいま出張キャンペーンをやっておりまして。あ、これパンフレットです」
「あ、はい」
女性が視線をパンフレットに向けた隙に、建物の中に目を向ける。
扉が半開きだったけど、身長は私の方がずっと高い。
なので、限定的だったけど、確認はできた。
「水回りの工事。害虫駆除。日曜大工。何でも格安で承っておりますぅ。あ、現金決済も受け付けてますよ」
「そ、そうなんですか……。えぇ、困ったなぁ」
もじもじとしおらしい仕草で、俯く女性。
きゅっと小さく拳を握ったつもりなんだろう。
手首から肘に掛けて、綺麗な筋肉のラインが見えていた。
拳骨は平らで、「あの、う、家はこういうのは……」と慌てて手を広げた途端、手の甲に太い筋が浮かんだ。
「そうですか。では、気が変わりましたら、パンフレットに書いてある電話番号までよろしくお願いしますぅ! ではではっ!」
帽子を取って、精一杯の営業スマイルを作る。
依頼人が場所を特定したおかげで、場所は分かっていたけど。
自分の目で見ると、改めて確信する。
こいつ、黒だ。
*
業務用のワゴン車に乗り、車が走り出す。
「どうだった?」
「黒」
「即答だな」
理由はある。
拳とか、筋肉とか、そういうのじゃない。
まあ、女の人にしては、変な鍛え方しているな、とは思ったけど。
「外観と内観の不一致」
「というと?」
「外観は大きい方だね。でも、中の空間が狭い。棚とか、置物とか、色々な物を壁際に置いてるんだけど。たぶん、空間の狭さをカムフラージュしてる」
「防音で補強してるのかな」
「あと、ぬいぐるみにカメラが付いていた。……私が好きなぬいぐるみだから、すぐに分かった」
ぬいぐるみの鼻の大きさだ。
外の明かりが反射して、レンズが光っていたのだ。
「おっかないのはいたか?」
「女の人が出てきたから確認できなかった。あぁ、それと……」
扉が閉まる際、私は一礼した。
日本式の深い礼だ。
顔を上げる時、出入り口の上部に違和感があった。
「玄関にシャッターついてる」
「変な造りしてんじゃねえか」
「しばらく様子窺おうか。中に侵入するのと、外でさらうの。2パターンで考えよう」
頭に浮かぶ、先ほどの女性。
私には、怯えたフリをしているように見えた。
証拠はない。
女の勘だから。
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