君のしていること

 カリナの部屋で、一人テレビを点けてボーっと眺める。

 テレビでは、映画俳優のインタビューが行われていた。


「学校、退学なったよな」


 保護者の了解が必要だ。

 あいつが了解を出すとは思えないし、了解を出していたら、ずっと軟禁状態なんきんじょうたいにはなっていない。


 本はフランス語で書かれてる物や英語の物ばかり。

 言語は頭に入れたチップのおかげで、会話が可能。

 しかし、文字となれば話は別だ。


 ガラケーがあればアプリで翻訳できるから読めるけど、ガラケーは没収されて、どこにあるのか分からない。


「くそ。後輩に道作ってやりたかったな」


 優しい奴や普通の外国人だって、山ほどいるんだ。

 こんな滅茶苦茶な時代になったから、つい良くない感情が向きがちだけど、相手がどこの誰だろうが、『敵視するな』と、口酸っぱく言われてる。


 何でも、敵視した時点で、から、それが一番まずいらしい。


 だから、人並みに仲良くなれる環境とか、繋がりを残したかったのだ。


「あー、元志のゲームやりてぇ!」


 お姫様趣味のベッドに寝転がる。

 ベッドが軋み、マットレスがバウンドする。

 その拍子で、何か金具が外れたみたいだった。


「うわ、やべ」


 ベッド壊したとか、ちょっとシャレにならんな。

 ベッドはクイーンサイズで、二人は余裕で寝られるくらいの大きさ。

 下には空間が空いていて、ベッドから下りた俺は、どこの金具が外れたのか調べてみる。


「んー、見えねえな」


 布団をまくり上げて、光で闇を透かして見る。


「何も、……ないな」


 ベッドの下には、何も落ちた形跡はない。

 念のため、潜り込んでみて、あちこちを見回す。

 その際、ベッド下に頭をぶつけてしまい、しかも変な感触がしたので、首だけで振り返ると、俺は思わず二度見をした。


「うおぉ……っ! んだよ、これ」


 ベッドの裏側は、ワイヤーネットになっていた。

 そのネットには、『散弾銃』と『拳銃』が括りつけられている。

 何より、ネットの向こう側には、鉄板がはめられていて、枠の端っこの辺りを見ると、ボルトで止められていた。


 穴が空けられた部分は、木の粕が微妙に溜まっていて、「後からつけたんじゃないか?」と俺は予想した。


 何で、こんな物騒な物がベッドの下にあるんだ?


 言葉を失っていると、外から人の気配がした。


 ヒタ、ヒタ、と近づいてくる足音。


「女の子の部屋。じろじろ見たらダメなんだよ。うりゃ」


 わき腹をくすぐられて、再び額をベッド裏にぶつける。


「い、って」


 丸まった態勢で這い出てくると、これまたビックリした。

 カリナはパンツ一枚の格好で座っていた。


 清らかな見た目に反して、黒を基調とした大人の下着。

 それ以外は身につけておらず、また隠そうともしない。


「なんつう格好してんだよ」

「ひひ」


 にっと笑い、立ち上がる。

 まだ、シャワーを浴びていないのか、汗の臭いがした。


「ん~、……そろそろ褒美あげた方がいいのかな、って」


 手を引いて、立ち上がる。


 これは決して邪な気持ちで見ているわけではないが、カリナの露わになった体つきには、釘付けになってしまう。


 ちゃんと、『女の子の体型』だ。

 出る所は出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。


 ただし、太すぎず、細すぎずの中間でありながら、カリナが動く度に、肩、背中、尻、太ももなどに、『のライン』が薄っすらと、浮かび上がったり、消えたりを繰り返している。


 腹は微妙に、薄っすらと六つに割れていて、背中には『大きな蝶々のタトゥー』と尻には『花のタトゥー』を彫っていた。


 何が気になるって、がちょっと特殊なのだ。


 ボディビルダーのように綺麗な筋肉の形ではない。

 また、そのような大きな筋肉ではない。

 細く、皮が突っ張ったような筋肉の付き方ではない。


 例えば、扉を開ける瞬間。

 肩甲骨が大きく浮かび上がり、その斜め下に太い腱の様な肉筋が浮かぶのだ。


 歩くと、尻のえくぼが引っ込んでいるのが下着越しでも見えて、二の腕は内側にへこんでいる。


 何をしたらこんな体になるんだろう。

 アスリートによって特化する筋肉はあるけど、それが部分的に混ざり合ったような肉体だ。


 視線に気づいたカリナが振り返る。


「……見たい?」

「見たくはないかな」


 お前の体つきがヤバすぎて釘付けになっていただけだよ。


 カリナはにっと笑うと、手招きをする。

 下を向くように言われ、目だけを床に落とす。


「ほい」


 パンツの中身を見せてきた。

 すぐに目を逸らして、俺は舌打ちをする。


「待ってるから。入ってくれば?」

「一緒に入る」

「目腐るっての」


 すると、カリナがムッとした。


「男の人のは触れて、私のは無理なんだ」


 一瞬、思考が止まる。


「……なんだって?」

「ほらほら。ペットはご主人様の言う事聞くの」


 無理やり、浴室に連れ込まれた俺は、脱ぎこそしなかったが、別の事で頭が埋まった。

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