可憐な殺し屋と飼われる少年

烏目 ヒツキ

あなたに捧ぐ

因縁の種

 それは、夜の出来事だった。

 バイト帰りの途中にある雑居ビルの路地裏で、男女が揉めている現場を目撃した。


 普段なら、意に介さず通り過ぎる所だけど、その日は違った。


「車に乗れッ!」


 路地に反響する女の怒鳴り声。

 女は何かを男に突き付けていた。


 よく見れば、それは銃だった。


 銃口を向けられた男は、明らかに怯えた様子で女の命令に従い、通りの向こうに停められた車に乗せられる。


「お、おい! 何やってんだ!」


 俺は相手が銃を持っていようが、お構いなしに叫んだ。

 女は振り向く。


 薄暗くて顔は見えない。

 やがて、俺を無視した女は車に乗ろうと体を傾ける。

 その時、街灯の明かりに頭が照らされ、が見えた。


 ――俺は、『拉致の現場』を目撃した。

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