最終話 先輩であり幼馴染であり
それからというもの、姫野鈴羽の日常は。
肉親の事故により暗雲垂れこめていた心は。
上月至という少年が再び現れたことにより一変していた。
「鈴羽は上月先輩と、どうなりたいとかあるの?」
初音がにやついた顔で、悪戯っぽく訊いてくる。雨の季節が明けて
「どうなりたいって、それは……」
毎日図書室で隣り合って宿題を片付け、家に帰ればメッセージや通話で頻繁にやり取りをする。内容は他愛もないものばかりだ。
周囲からはちょっと仲が良くて、世話好きな先輩と後輩というように見られているらしい。
鈴羽にとって至という人は。
「そりゃあ、至先輩は大事な大事な人だから、もっと仲良くなりたいとは思うけれど」
「ふーん」
鈴羽の答えに、初音が面白いものを見つけたかのようににっこり笑った。そのリアクションに鈴羽は首を
「今日もこれから一緒に宿題するんでしょ? 早く行ってあげなさいな」
女友達からほらほらほらと急かされて、鈴羽は図書室へ向かう階段を
薄っすらと冷房がかかった図書室。夏休み用の本の貸し出し期間とあって、いつもに比べて司書の先生がよく手を動かしている。貸出カウンターのそばに、見慣れた姿があった。
「至先輩」
「鈴羽ちゃん」
立ったまま読んでいた文庫本から顔を上げて、至が微笑む。
「お父さん、退院おめでとう」
「ありがとうございます」
鈴羽の父が家に戻ってきたことで、鈴羽の心の乱れは急速に落ち着いていった。
ここまで来るのに、至には随分世話になっている。
――そういえば。
だが今後は、至なしでも鈴羽は宿題ができる。
忘れ物も、今となってはほとんどない。
――だけど。
『鈴羽は上月先輩と、どうなりたいとかあるの?』
脳裏をよぎる友人の問いに、はっきり具体的な答えは出せない。
「あー、鈴羽ちゃん」
「なんでしょう?」
「……僕とすると、これからも一緒に宿題できたらいいなって、思うんだけど」
けれど。らしくもなく頬を
先輩であり幼馴染! 七草かなえ @nanakusakanae
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