第16話 練習

 ミスティアが部屋で休んでいると、ドアがノックされた。

「お姉さま、よろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

 リリアはドアを開けると、笑顔でミスティアに駆け寄った。

「お姉さま、ブライアン公爵へのお手紙を召使に渡しましたわ!」




「……そう」


 ミスティアは沈んだ表情でリリアを見つめた。


「お姉さまのフルートの演奏も楽しみにしてくださいと書いておきましたから」


「まあ……なんてことを……」


ミスティアは眉間にしわを寄せ、リリアを軽くにらんだ。


「そんな怖い顔をなさらないで! お姉さまのフルートは本当に素敵です。ぜひブライアン公爵にも聞いていただかなければ!」




 得意げなリリアを見て、ミスティアはため息をついた。


「もう、逃げるわけにはいかないようですね……」


 ミスティアは戸棚から、よく磨かれたフルートを取り出した。


「お姉さま、演奏してくださるの?」


「……あなたが、そうしなくてはいけない状況にしたのでしょう?」


 リリアはミスティアがフルートを吹くのを待ったが、ミスティアは難しい顔をしてリリアに言った。




「申し訳ないけれど……外に出てもらえますか? ……一人になりたいの」


「……わかりました」


 リリアは口をとがらせて、ミスティアの部屋を後にした。


 ミスティアはリリアの足音が遠ざかったことを確認してから、フルートを吹いた。


 奏でたのは、簡単な練習曲だった。


「……演奏会で……吹かなければいけないなんて……。リリアの無邪気さにも……困ったものですね……」




 ミスティアはいくつかお気に入りの曲を吹き、フルートをしまった。


「こんな未熟な演奏を……人にきかせるなんて……恥ずかしいし、申し訳のないこと……」


 ミスティアはベッドに座り、ため息をついた。




 ドアがノックされた。


「ミスティア様、昼食の時間です」


「はい……今いきます」




 ミスティアは鈍く輝くフルートのケースを見つめ、ゆっくりと首を振った。


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