第3話 リリア

 ノーム子爵たちはアレス王子の部屋を出て行った。

 一人になったアレス王子は部屋に並んだ人形を一つずつ見ていた。どれも細かなところまで丁寧に作られていて、ため息が出るほどきれいだった。

 アレス王子は一通り人形を眺めてからベッドで横になり、目を閉じた。

「弟に強いところを見せようとしてしくじってしまった……。父上が知ったら、怒るだろうな……。身から出た錆か」


 目をつむっていると眠気に襲われた。けがを治すために、体が休養を求めているのかもしれない。アレス王子は体の要求に素直に応じた。


 夕暮れが迫る頃、ドアがノックされる音でアレス王子は目を覚ました。

「アレス王子、食事をお持ちしました」

「はい、ありがとうございます。お入りください」

「失礼します」


 ドアが開いた。

 金髪に青い目の少女が食事を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。

「はじめまして、アレス王子。私、リリア・ノームと申します」

「はじめまして、リリア様」

「お食事をどうぞ」

 そう言うと、リリアはアレス王子のベッドのわきにワゴンを置き、食事をベッドサイドのテーブルに並べた。


「お口に合うと良いんですが……」

「ありがとうございます。いただきます」

 アレス王子が野菜のスープを口に運ぶのをリリアは見つめた。

 ごくり、とアレス王子がスープを飲み込むとリリアは興味津々な様子でアレス王子の言葉を待った。

「……美味しいです」


 アレス王子が微笑みながらリリアに言うと、リリアは頬を赤く染め微笑み返した。

「よかったです。たくさん食べてくださいね」

 リリアはアレス王子のそばに立ったまま、またアレス王子に話しかけた。

「あの、姉は……ミスティアお姉さまは……すごく人見知りなんです。でも、悪気はないんです。だから……あまりご挨拶に来たりはしないかもしれませんけれども、悪く思わないでください」

 リリアは心配そうにアレス王子を見つめている。


 アレス王子はリリアを安心させるために笑って見せた。

「その人見知りなミスティア様が私を助けてくださったなんて、ずいぶん勇気を出してくださったのでしょう」

「ええ! お姉さまはとても優しいですから!」

 リリアが目を輝かせてにっこりと笑った。

「この人形たちもミスティア様が作られたとお聞きしました。とてもきれいな人形で驚きました」

 リリアはアレス王子の言葉を聞いて、得意げに言った。

「ええ。ミスティアお姉さまは人形を作るのがとても上手なんです」

「ミスティア様がよろしければ、直接お礼を伝えたいのですが……」

 リリアの表情が急に曇った。


「あの……ミスティアお姉さまは……家族とジーン以外には……お会いにならないので……」

 アレス王子はそこまで聞くと、あわてて言った。

「ああ、それなら無理をさせるつもりはありません。……ミスティア様によろしくお伝えください」

「はい、わかりました。……あの、食事が終わったころにまた来たほうがよろしいでしょうか?」


「そうですね……ただ食事が終わるのを待っていただくのも申し訳ありませんし……私はもう大丈夫です」

「それなら、またしばらくしてからお邪魔しますね」

 リリアは食事をとるアレス王子に笑顔でお辞儀をしてから部屋を出て行った。

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