プロローグ
「てかさぁ、お兄ちゃんってさぁ、なんで男なのに1人称私なの?」
妹の
「……人に対してあまり踏み込まない1人称がいいから」
まあ、先生に対しての「私」とクラスメイトに対する「僕」の一人称の使い分けが、だるいのが主な理由なんだけど、こんなこといったら「だから友達がいないんだよ」と反論されかねないので黙っておく。
そういって私は、逃げるように家を出て高校に向かった。
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「キンカーンコーン」
昼休みのチャイムが鳴った。さて、いつも通り屋上で弁当を食べるか。そう思い、屋上に向かい、屋上の入り口の階段から少し離れたコンクリートブロックに座った。
うちの学校は、進学校だからか校則が緩く生徒でも屋上に入れる。
高1のころは、うるさい教室でボッチ飯してたけど、高2の始業式の日に屋上に入れることを発見し、今は静かに弁当を食べ、食後の読書も集中できた。
さて、弁当も食べ終わったことだし本でも読もう。
スマホを軽くいじり、横に置いた後、持ってきた『完全自殺マニュアル』を読み始めた。
勘違いされたら困るんだが、私は自殺志願者ではない。ただ、知的好奇心から読むだけだ。
読み進めていると、屋上の扉がガチャっと開く。
おいおい、せっかくの孤独を邪魔する奴は誰だとドアのほうを見ると黒髪ショートの女子が入ってくる。
何しに来たんだよ……と思いながら興味もないのでまた本を読み始める。
その女子はこちらを一瞬見たが、すぐに視線を戻しそのまま歩いていく。
そこで少し驚いた。彼女が、靴を脱ぎ、屋上のフェンスを越えようとしたからだ。
一瞬、自殺現場に巻き込まれたらだるいという、考えが浮かんだが、どうせ本気じゃないしほっとけば教室に戻るだろうと思い、そのまま本を読むことにした。
彼女は、靴を脱ぎ終えた後こっちを見た。
……なんだ、止める気はないぞ。
またこちらを見てきた。……こちらはお気にせずにどうぞ。
とうとう、こちらに向かってくる。
やっと帰る気になったかとおもっていると
「止めないの?」と訊いてきた。
「いや、君の自殺をする理由は知らないし、無責任に止めるのもよくないと思って」
本当は、めんどくさいことにかかわりたくないだけなんだけど。
「しかも、君の読んでる本、完全自殺マニュアルって不謹慎過ぎない(笑)」
彼女はそう言ってほほ笑んだ。いや、何読もうと自由だろ。
「いや、教室帰らないの?」
面倒くさいし、帰ってほしい。
「ふふ、君面白いね。普通自殺しようとしてる人には、もっと優しくするよ?」
「へぇ、そうなんだ。参考になったよ」
早く、帰ってほしい。
「ここまで塩対応する人初めてだよ。なんか自殺する気なくなっちゃた……君、面白そうだしLINE交換してよ」
「はぁ?」なんだこの女、私は一人でいることが好きなんだ。ほっといてほしい。
「ちょっとスマホの充電切れてて……」
とりあえず定番の断り方をしておく。もちろん嘘だ。
「いやでも、スマホついてるけど」
しまった……スマホを裏にしておくの忘れてた。
「いやぁ、うちの親、拘束が厳しくてLINEやってないんだ」
嘘PART2。なんとかして切り抜けねば。
「絶対、嘘でしょ……」じとめでこちらを見てくる。
しかし、こちらも譲れないし逃げようと思い、弁当を片付け席を立とうとする。
「交換しないなら、自殺止めてくれなかったことクラスにバラしちゃおうかな」
「……いや、法律上問題ないし」
そういえば、クラスにこんな奴いたな。クラスメイトだったのか。そう思いつつ、ごまかす。
「でも、クラスのみんなはどう思うかなーー?」
からかう口調で言ってくる。これこそ脅迫で法律上問題なんじゃないか……
てか、そっちこそ自殺のこと広められたら困るんじゃないか。友達いないから広められないけど……
「ああ、もうわかったよ」
半ばあきらめ口調で答えた。
やった!と喜ぶ彼女と仕方なくLINEを交換した。あーあ、せっかくの平穏なボッチライフが。高2開始早々嫌な予感しかしない。そう思いながら教室に帰る彼女を見送った。
これが彼女との出会いだった。
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