第37話

 オレたちは町から少し離れた山にあるちいさな遺跡へとやってきた。


「ここだ。 前に来た遺跡......」

 

 遺跡は古いが特に何もない部屋が連なる。 ここはこの間レギンゲルサに転移させられた場所だった。 その一番奥更に隠し通路を抜けるとレギンゲルサがいた。


「来たか...... ではその方が」


「ああ、ミリエル...... クエリエルだ」

 

「ですが、本当に私が皇女なのでしょうか?」


 レギンゲルサはすまないといって、ミリエルの方に手をかざす。 そして膝を折り曲げ頭を下げた。


「間違いありません...... あなたはクエリエルさまでございます」


「どうしてわかるんだ?」


「生まれたときに、クエリエルさまの魔力を一部手に入れた。 それでクエリアの体を作ったからだ」


「なるほど、それでクエリアは、ミリエルの姿も同じというわけけか......」


 マゼルダはうんうんと首をふり納得している。


「これで準備は整った。 夜に城で戴冠の儀式が始まる。 今から作戦をねろう」


 オレたちは夜まで作戦をねった。



 そして夜になると、遺跡からのレギンゲルサの転移で城にもぐりこんだ。 この間来た部屋に入ると、大勢の人々が集まっている。


「レギンゲルサが皇帝になるのか...... これで近しいものは莫大な利益を得るな」


「そんなことより、この国のいく末よ......」


「ああ、かなりの軍の強化や、怪しげな魔法研究をしているらしい」


「それで帝国に批判的な国は軍事同盟をして、戦力を増しているそうだ。


「かなり大きな戦争が起こるわ...... この世界はどうなるのかしら」


「くっ、皇女殿下が亡なってさえいなければ......」


 そう貴族たちは口々に不安を漏らしていた。


 レギンゲルサの人形が部屋に入ってくる。 その隣にはレギレウスもいる。 みな一様に口を閉ざし、その沈黙で空気がはりつめ耳鳴りがした。


 そして人形は中央までくると、皆に語りだした。


「みな今日は我が皇帝戴冠の儀式に集いてもらい感謝する。 我は先代皇帝の意思を継いで、この帝国、いやいずれ、この世界を統べる皇帝となるだろう。 みなにはこの繁栄を共に享受してもらいたい」


「世界を統べるだと......」


「やはり、戦争を引き起こされるつもりか」


「このままでは本当に......」


 周囲がざわついているのをしり目に、オレたちはレギンゲルサの前に姿を現したった。


「......何者だ......」


「私は皇女、クエリエルです」


 一歩ミリエルが前に出ていった。 兵士たちがオレたちの周りを囲む。


「何をばかな...... この間も愚かな偽物がきたばかりだというのに、レギレウスこの者たちの姿を解き明かせ」


「御意...... ディスペル」


 レギレウスが解除の魔法を唱えると、オレたちは元の姿へと戻る。


「なっ、あれは確かにクエリエルさま!」


「死んだのではなかったのか!」


「モンスターがなぜここに!!?」


「解除の魔法だ! 偽物ではないのか! たが後ろのモンスターは」


 周囲の家臣や貴族たちはざわざわと騒ぎ困惑している。


「静まれ! この子供、さきのとき偽物と共にいた! それにそこにはアンデッドまでいるのだ、本物のわけがなかろう!」


 レギンゲルサの人形はそういい大声で周囲を叱責する。


「た、確かに、モンスターとこの間の少年か、一体どうなっている!」


「真偽がわからない!!」


「どうなっているのだ!!」


 周囲は更に騒ぎ始めた。


「黙んなさいよ!」


 マゼルダは飛びだして大声で怒鳴る。


「あんたたちの目はふしあななの! この骸骨の姿が見えるってことは魔法は解除されてんの! このクエリエルをみてみなさい! 人形に見えるの! おばかたち!」


「あれはピクシーか!」


「しかし、確かにクエリエルさまは魔法が解けているはず、この間の人形ではないぞ」


「ならば本物か!」


「......みなさま。 魔法は確かに解けましたが、クエリエルさまが本物とは限りません。 帝国の混乱を狙い、似たものをつれてきただけやもしれません。 よくご覧ください。 モンスターに偽物をつれてきた少年、信用にたりえますか......」


 そうレギレウスは顔色ひとつかえずに静かに語った。


「まあ、確かに本物という証拠はないな......」


「うむ、モンスターをつれている時点で、信頼できぬ」


「しかし...... ほかに何か証明するものはあるのですか?」


 そういう声がとんだ。


「確かに、オレたちにはそれを証明する術はない。 しかしこの人が証明してくれる」


 オレがはっきりとそういうと、後ろの扉が開きレギンゲルサが現れた。


「なっ!? レギンゲルサさま!」


「ど、どういうことだ。 レギンゲルサさまが二人!?」 


「みなのもの静かに、確かにその少年トラどののいうとおり、その方こそまことの皇女クエリエルさまだ。 そしてあのレギンゲルサは偽物」


「ディスペル」


 レギンゲルサが魔法を唱えると、皇帝の椅子に座っていた人形は崩れ落ち、その本当の姿をみせた。

 

「なっ! 人形!?」


「どうなっている! あちらが偽物だったのか」 


「そうだ。 それを仕組んだのは、あの男レギレウス」


 レギンゲルサはレギレウスを指差した。  


「レギンゲルサ...... 貴様」


「兵士たちよ! レギレウスをとらえよ」


 家臣たちの声でレギレウスを兵士たちが囲んだ。 


「......何かをしているとは思ったがな...... 仕方ない......」

 

「フリージングランス!!」


 レギンゲルサの氷のやりがレギレウスをとらえるが、片手で防がれる。


「いまだ! 一斉に攻撃!」


 オレたちはレギレウスへと向け放った魔法は爆発する。


「やったか......」


 煙がはれると、レギレウスは無傷でその場にたっていた。


「無傷だと!?」


「......またこれほどの時間をかけるのは今は無駄だな...... もういい、このまま贄とする......」


 そうレギレウスがいうと両腕を伸ばした。 ふくれ上がる圧倒的な魔力を感じる。


(まずい......!!)


 背筋が凍るような感覚を感じてフィニシスオーバーを使い、飛び上がるとレギレウスごと城の天井を破った。


「貴様...... この力、フィニシスオーバー。 なぜ貴様が、まあいい......」


 オレは蹴り飛ばされ城の屋根にあたる。 


「ぐっ! ......」


(なんて力だ。 シャドウレイクに引きずりこむか...... いや無理だ。 ここまで差があるなんて......)


 レギレウスは空に静止し両腕をだした。 するとその腕に周囲から黒い霧のようなものが吸い込まれ始めた。


「なんだ!? ......体から力が失われていく......」


 下をみると、みんなが倒れていくのが見えた。  


「トラさま、みんな魔力を吸われています!」


「このままでは魔力ごと命を吸われてしまう!」


「トラ! 早くなんとかしてよ! このままじゃ防御しきれないわ......」


 ミリエルとわーちゃんとマゼルダ、そしてレギンゲルサはみんなを守るため魔力のシールドをはっているようだ!


「スラリーニョこい!!」


「ぴーー!」


 スラリーニョは飛びながらその体を剣へと変えた。 オレはそれをつかむといま出せる限界までフィニシスオーバーで飛び上がり、レギレウスを切りつけた。


「......人間がここまでの力を持つとは......」


 そういうとレギレウスの体が盛り上がり、その背を破り鳥のような巨大な翼が生え、腕も生えて四腕となった。


「この姿は!? いやいまは! このまま消し去れ!!」


「無駄だ...... お前の魔力ごときでは、我を消し去れはしない」


 体の内から憎悪が生まれ、オレを取り込もうとする。 その感情にのまれて意識を失いそうになる。 


(......かまわない限界を超えろ!! こいつを倒せなければみんなが死ぬ!! そんなことはもう...... あのときのような思いはもういやだ!! オレが狂ってもこいつさえいなくなれば!!)


 どす黒い欲望に身を委ねると意識を失った。



「......ここは、あの黒い場所じゃない......」


 大きな柱の立ち並ぶ世界にオレはたっていた。 そこは見覚えがあった。

 

「トラよ......」


「あっ!」


 そこにはあの、オレを異世界へ転生させた老人がいた。


「じいちゃん! いまは話を聞いている暇はないんだ! あいつをレギレウスを倒さないと! 帰らせてくれ!」


「いま帰ったとてあの力には勝てはしない。 あれはこの世界の魔力の塊のようなものだ」


「なっ! なんなんだよあいつは!」


「あれはデュエルワキナ......」


「デュエルワキナって神様...... 神様はいないんじゃなかったのか!」


「ああ、神などではない。 あやつは精霊のような存在だ」


「精霊...... 魔力が意識を持ったもの......」


「そうだ......」

 

「あいつは一体何をしようとしてるんだ!?  なんで戦争を起こそうとしたり、モンスターを暴走させたりするんだ」


「魔力だ...... あやつは自らの魔力を増やすために画策をしていた」


「魔力を増やす......」


「そう、あやつは遥か昔からこの世界から魔力をえていた。 しかし、更なる魔力を欲した...... そして高まる感情から魔力を生まれることをしった」


「それじゃあいつは感情を高めさせるために、戦争を起こそうとしたのか!」


「ああそうだ。 モンスターと人間の対立やさまざまな方法で、心から産み出される巨大な魔力をえようとした。 負の力の方が大量の魔力をえられるからだ」


「......じいちゃん、あんたは一体」

 

 オレがそういうと、老人は懐から、ひとつのペンダントをだした。


「それは! クエリアのもっていた...... まさか!」


「そうだ。 私はグランディオス......」


 そう老人はいった。

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