第36話

「まあ、取りあえず帰ろうぜ。 今はどうしようもない」


「そうですな...... マスター...... これは」


 わーちゃんがこちらに静かにいう。


「ああ、何か感じる......」


 その瞬間、景色が代わり石壁に囲まれていた。


「ここは!?」


「転移!! バカな! どうやって!」


「ありえないわ。 座標がわかってないと強制的につれてなんてこれないはず!」


 わーちゃんとマゼルダはいう、その部屋にはあの男がいた。


「なぜお前が、レギンゲルサ!」


 クエリアはそういった。


「なぜ帝国に帰ってきた......」


 レギンゲルサは眉を潜め、そうつぶやく。


「お前に皇帝の座を渡せば戦争になる! それを防ぐために決まっているだろう!」


 クエリアはそう吐き捨てた。


「......愚かな」


「まあ、いいよクエリア、どうやら何かは話しがあるようだ。 たった一人でオレたちをここに呼んだんだしな」


「君は......」


「オレはトラだ」


「そして魔王島、魔王城の主だ。 控えよ」


「そして私がマゼルダよ。 控えよ」


 わーちゃんとマゼルダがそういうと、驚いた顔をした。


「あの魔王島と魔王城だと...... モンスターに支配されたあの場所を人間が統治しているのか」


「ああ、モンスターテイムでな」


「それと人望です」


「あと若干の頼りなさね」


 わーちゃんの言葉に照れ、マゼルダに少し腹が立った。


「モンスターテイムだと、勇者と同じ力...... ピクシー、それにお前も人間ではないのか......」


「我はわーちゃん、デューク・リッチとなったものだ」   


「そんな最高位のモンスターまで......」


「それで、わざわざここになんで呼んだ」


「......ここならばあやつに気づかれず話ができる」


 そういって指を鳴らした。 すると壁に先程いた城の映像が映る。


「あれ、あそこにお前がいる!?」


 そこには城の中で演説しているレギンゲルサがいた。


「あれは私の作った人形」


「あんたドールマスターね」 


 マゼルダがいうと、レギンゲルサはうなづく。


「そうだ。 そしてそのクエリエルさまの魔力を元にお前を作ったのも私だ」


「私を作った......」


「ああ、精霊を召還し、人形の人格とした」


「こういうときのためにか!」


 クエリアは詰め寄る。


「いいや、本当の皇女を守り、育てるためだ」


「ん? ん? どういうこと? 皇女を守る」


「そのままの意味だ。 クエリエルをやつから守るため、皇女が生まれてまもないとき、私が皇女から作ったそなたと入れ換えた。 しかし本物の皇女は行方知れずとなってしまったが......」


「どういうことだ話が見えぬが」


 わーちゃんも困惑している。


「この国、いやこの世界はある脅威にさらされている」


「脅威......」


「あの男だ」


 レギンゲルサは指を指した。 そこには白髪の男がたっている。


「レギレウスのことか」


「ああ、あの男はこの世界を我が物にしている......」


「どういうこと? 我が物にしようとしているんじゃないの」


「もはやとっくに、いや遥か昔から、この世界はやつの手のひらの上なのだ」


「詳しくはなしてくれ」


「あやつは遥か昔からこの世界にいて、モンスターの暴走や戦争などに深くかかかわり、魔法技術を開発してきた。 モンスターの融合などな」


「モンスターの融合、ファフニールみたいなものか......」


「そうだ。 他にも人間との融合などもな」


「人間との融合...... まさか亜人、じゃあ私たちって」


 マゼルダは言葉を失った。


「そうだ。 人と近しいものはモンスターとの融合種だ。 まれに魔力を高い人よりのものが生まれる。 そういう実験だろう」


(ルキナが人に近いのはそのためか......)


「あいつなんなんだよ? 不死ってことかアンデッドなのか」


「......それはわからぬ。 しかしそれに気づいた私は、あやつに従うふりをして行動してきたのだ」


「それで私は入れ替わりとして使われたのか」


 クエリアは呟く。


「そなたには悪いが、それしか方法がなかった。 世界を巻き込む戦争などに向かわせるわけには行かぬからな。 しかし本物のクエリエルさまなきあと、そなたしか希望はなかったのだが......」


「もうばれちまったぞ」


「ああ、これで私の人形は皇帝となり、戦争の勅命をださせられるだろう」


「何とか止められないのか」


「私がでていってもおそらくは魔法で操られる。 あの人形はすでに操られているからな」


 そういって映像の自分をみている。


「それで人形をつくって入れかわっていたのか」


「......レギレウスの力は常軌をいっしている。 残念ながら私ではどうにもならない。 やつの休息のすきに入れ替わるぐらいしかできなかったのだ」


「オレフィニシスオーバー使えるけど、それでも無理か」


「......フィニシスオーバー、魔力暴走、魔王や勇者と同じ力か...... 傷を与えられてもおそらくは無駄だ。 あやつの魔力はそれを凌駕するだろう」


「......倒す方法はないのか」


「残念ながらない...... ただ本物のエクリエルさまがいれば、人形皇帝からは座を追わせられたが、しかし見つからなかった。 あやつにばれぬようモンスターにかえたのが、間違いだった......」


 後悔したように下をむくレギンゲルサに、オレたちは顔を見合わせる。


「モンスター...... それってもしかしてサキュバスか」


「そうだ...... まさか知っているのか!」


「ああ、オレたちの仲間だ」


「なんだと...... そんな偶然、いや、そなたはクエリエルさまの魔力からうつしとった人形、引かれあうのは必然か......」


「それでレギレウスを止められるのか」


「......無理だろうな。 ただ少なくともこの国の戦争を止めることはできよう。 しかしその後あやつがどう動くかはわからぬ。 そのまま諦めるのか、更なる狂気にはしるのか......」


「いや、まずは、戦争を止めよう。 それにはどうすればいいんだ」


「ああ、あやつは常に大量の魔力を消費しているため、一定期間休息が必要なようだ。 その時間に私は行動してきたからな。 あやつの休息はもうちかいはず、その時帰るがよい」


 オレたちはレギレウスの休息を見はからい。 レギンゲルサの先導で国に戻ることができた。



「わ、私が皇女......」


 ミリエルは戸惑っている。 帰ってから皆にレギンゲルサから聞いた話をした。


「そうなんだ。 レギレウスの野望を阻止するにはミリエルの力が必要らしい。 頼めるか」


「......はい。 まだ受け止めきれませんが、あなたが必要とするなら」


 ミリエルはそういって覚悟を決めてくれた。


「それにしても、レギレウス、あのものがそのような画策を......」


 バスケスは考え込む。


「それほど昔からか......」


「どうしたのですか? おばうえ」


「いや、遥か昔、ドワーフに魔法技術を与えたものがいたという。 それは人ではなくドワーフでもなかったという話が伝わっておったと思ってな......」


「それがレギレウス?」


 ルキナが首をかしげた。


「わからん。 しかしそのレギレウスという者、フィニシスオーバーをうわまる強大な魔力を操り、さまざまな魔法技術を知る。 まさかとは思うがな......」


 マティナスは珍しく不安そうな顔をしていた。


「まあ、その事はいまはおいておこう。 レギンゲルサが帝国内に隠れてはいれるように手配してくれているからその時出航する。 一応、皆は魔王島から全員魔王城へと退避しておいてくれ」


 その時わーちゃんが部屋にはいってきた。 


「どうやら、一週間後、レギンゲルサどのの人形の皇帝への戴冠の儀式があり、いよいよその座につくようですな」


「......そうか、これでレギレウスとやらの思いどおりか」


 マティナスたちと他のものたちが緊張した面持ちでうなづく。


「レギレウスがそれほどの者なら、帝国を支配するなど容易いでしょう。 いや、そもそも国など操らなくても好きなようにできたはず、なぜそうしなかったのですか?」


 ミリエルは疑問を口にした。


「どうやら活動に限界があるらしい。 魔力を回復するのに休息をとらないといけない。 だから自分以外のものを使う必要があり、その間を狙ってレギンゲルサは行動していたようだ」


 クエリアはそういった。


「じゃあ、戴冠の儀式の日ために作戦をたてよう」



 それから一週間、オレたちはミリエルをつれて小さな船で帝国へ向かった。


「イタタ......」


「大丈夫ですか」


 ヒールをかけながら、ミリエルは心配している。


「ああ」


「ルキナどのにかなりやられましたね。 さすがにワータイガーまで進化した方だ」


 ルキナはついてくると駄々をこねて暴れまわった。


「絶対についていくと暴れて、フィニシスオーバーまで使わさせられた......」


「まったく軽く城が壊されたわよ。 ルキナはミリエルが心配なんだから、連れてってあげればよかったじゃない」


 あきれたようにマゼルダがオレの肩に座る


「だめだ。 危険すぎる...... 本当はオレだけでミリエルを連れていきたいくらいなんだ。 だが正直一人じゃミリエルは守れないかもしれない。 だからわーちゃん、スラリーニョにきてもらった」


「私もいるんですけど! それよりみんなその顔なに?」


 オレたちは顔をわーちゃんの魔法で変化させていた。


「オレとわーちゃんは顔をみられたし、ミリエルはクエリアと瓜二つだからわーちゃんの魔法で変装する必要があるんだよ」 


「何かの魔法で対策をされては困るのです。 私はマスターとミリエルどの、そして自分ぐらいなら、それを妨害できますからな」


 わーちゃんがそういうと、帝国の港が近づいてきた。 港では兵士たちが停泊する船舶を調べている。


「魔法騎士団もいますな。 変身魔法かを調べるために解除魔法をかけています」


「やはり手を打ってきたな......」


「警戒しているんでしょうか、もう帝国は手に入ったも同然なのに......」


 そういってミリエルは首をかしげた。


「戴冠の儀式が、それぐらい重要なんたろう。 逆にいえば、そうしないと困る事情があるってことだ」


「ええ、レギレウスは万能というわけでもないという証拠ですな」


「ああ、勝機はあるってことだ」


 そうわーちゃんと話していると、オレたちの船にも兵士たちが乗りこんでくる。


「帝国への商品搬入とあるが」


「ええ、注文の品をお持ちしました」


 兵士たちが荷物をしらぺている。

 

「たった三人か......」


 少し怪しんでいるようだ。


「まあ、家族でやっているものでして、ですが品はよいものですよ。 かなり高額で、貴族さまたち御用達のものですが」


 オレはそういって銀の食器などを見せる。


「ドワーフ製か...... 確かにいい品だな。 どうだ?」


「特に異常はありません。 量は少ないですが、高価なものばかりです」


「魔法騎士団の方、気になる所はないですかな」 


「............」


 ローブの人物は答えず無言で船を降りていった。


「ちっ、いけすかない。 あいつら何様だ」


「レギレウスさまの直属だ。 下手なことをいうなよ」


 そう兵士たちは話し合っている。


「それでどうですか?」


「ああ、問題はない許可証だ。 通っていいぞ」

  

 オレたちは許可証を得て港へと上陸した。

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