第11話
少したって少女は落ち着いた。 少女の名前はルキナ、ワーウルフではなくワーキャットだという。
「でルキナ、それでワーキャットの村からここにつれてこられたのか」
「そう。 ワーキャットの村で突然みんながおかしくなり始めて...... 気がついたら商人に捕まってて、人を傷つけないようにこの洞窟まで逃げてきた」
「商人...... それでワーキャットの村がおかしくなったとき、何かいつもと違うことが起こらなかったか?」
「......そういえば、その何日か前に人間の魔法使いがきた」
「人間の魔法使い?」
「そう。 その人間はモンスターの私たちを怖がらず、干ばつでになり始めていた土地をもとに戻してくれたり、傷を治してくれたりした。 だから人間を襲わないようにした」
「マスター......」
「まだそれが原因かわからないが...... 魔法使いか、気にはなるな」
「それでどうしましょう」
「とりあえず、この事を島の人に伝えよう。 ワーウルフではないし、もう安全だと......」
「それは困るねぇ......」
後ろから声がする。 振り返ると、商人リュガインが一人のローブの男とそこにいた。
「ルキナをさらってきたのはお前たちか......」
「さらったなんて人聞きの悪い、私は買い取ったのだよ。 そのモンスターをね」
「誰からだ!」
「知らんね......」
「知ってたところでここで死ぬのだから関係あるまい......」
そういうとローブの男は手から炎を放った。
「セイクリッドフィールド!!」
ミリエルが光の防壁をはる。 その間にリュガインたちは姿を消し、そして大きな音がする。 追うと岩が崩れ道がふさがれていた。
「くそ! 閉じ込められた」
「ふむ、この壁では撃ち抜こうとすると、この洞窟ごと崩れかねませんな」
「あの人、魔法使いでしたね。 しかもかなり高位の魔法を使っていました」
「みたいだな。 しょうがない、オレが暴走させて前を吹きとはすか」
「それしかありませんか......」
「でも...... 戻れるかわかりません」
わーちゃんとミリエルはそう不安そうにいうと、ルミナがたち上がる。
「私が道を作る」
「衝撃を与えると上が崩れるぞ」
「大丈夫、この爪でこの岩だけ切れる」
「わかった! やってみてくれ」
ルミナは岩ノ前にたつと大きく息を吸い込んだ。
「ガァァァァア!!」
その瞬間爪で岩を切り裂いた。 外の光が差し込んできた。
「おお! すごい威力だ!」
「ええ、出ましょうマスター!」
オレたちは洞窟からでで、森を歩きながら相談する。
「さて、どうするか?」
「ふむ、あやつらを捕えねばなりませんな」
「でも、ルミナさんの事をたてに、ここの人々を味方につけるかもしれません」
「だな。 なにか...... ん?」
オレはあることに気づいた。
それから町へと降りていく、リュガインの店の前にいくと、リュガインは驚いている。
「な、なんだ!? どうやってあそこから抜け出た!」
「もう逃げられないぞ」
「くっ! みんな聞いてくれ!! こいつらモンスターをつれている! 助けてくれ!!」
そう大声で叫んだ。
「な、なんだ!」
「モ、モンスターだって! ワーウルフか!」
「あの女の子耳が!」
そう町の人達がそとにでてくる。
「ほら、あいつらモンスターの手先だ! みんな殺されるぞ!」
リュガインが騒ぎ立てると、町の人たちはざわついている。
「違いますよみなさん。 あなたたちは騙されているんです。 ほらみてくださいこの子、ワーウルフですか!」
「確かにワーウルフではないな。 普通の女の子みたいだ」
「違う! 確かにワーウルフではないが、モンスターだ! 危険なんだ! お前たち木々が倒されてたのをみただろう!」
リュガインは声高にさけぶ。
「まあ、確かにモンスターではあるが......」
「襲ってくるって感じではなく、怯えているが」
町の人たちも困惑しているようだ。
「......それなら、これをみてください。 山からとってきました」
オレたちが山から持ってきたひとつの果実をみせた。
「あっ! それは果実!」
「ええ、そうです。 見に行っていただければわかりますが、大量の果実が木からなくなっています」
そういうと島の人たちはざわついた。
「どういうことだ? 山には誰も入ってない」
「おい、見に行くぞ!」
数人が山へと向かった。
「くっ、それはその小娘が食いつくしたんだ!」
「この子の姿をみろ!」
痩せているルキナの姿がそこにあった。
「痩せているな......」
「ああ、そんなに食べているとは思えん」
すると山に向かったものたちが帰ってきた。
「ああ、確かに大量の果実がなくなっていた。 きれいにとられたあとがあった。 これは人の仕業だ」
「これはどういうことだねリュガインさん!」
「それは...... いやちがう。 私は関係ない!」
リュガインは後ずさる。
「お前は果実を仕入れてきたわけじゃない。 島を周り裏手からこの島の果実をとって高値で売り付けてただけだ」
オレがいうと、リュガインはうろたえた。
「うっ...... なんだ! みんなモンスターをつれているそんなよそ者を信じるのか!!」
リュガインはそう叫んだ。
「信じるよ!!」
島の人たちの後ろからディノが出てきた。
「そのお兄ちゃんたちは、ここで買った果実を全部僕たちにくれたんだ。 悪い人じゃない!!」
「そうだな。 わざわざこのことを明かす必要もない」
「ああ、そんな高値で売り付けておいて、お前は信じてもらえると思ってるのか!」
そうだ、そうだ、と町の人たちに言われて、リュガインは逃げ出そうとする。
「うわぁぁ!!」
リュガインはそう叫んで逃げようとしたが、村人にすぐとらえられた。
捕らえたリュガインから話を聞くと、どうやらルキナを売った魔法使いの名前はレギレウスというらしい、それ以外はなにも知らなかった。
「本当にありがとうございました」
町の人たちからとても感謝された。 オレは気になっていて事を聞く。
「海にモンスターが出るって話を聞いたんですけど」
「ええ、ここと他の町とを繋ぐ航路の岩礁帯にマーメイドが出て、船に攻撃してくるのです。 まあ沈められることはないのですが...... それでリュガインに頼っていたのです」
「そうですか」
オレたちは食料と果実を分けてもらい船に戻る。
「私もここにいていいの?」
そうルキナはおずおずと聞いた。
「ああ、他のワーキャットの村の人たちも探そう」
「ありがとう......」
「それで、ワーキャットってルキナみたくみんな人間ぽいのか?」
「ううん、私だけ。 なぜか私だけ人間に近い」
「モンスターも人に近い姿を持つものたちがまれにうまれるときいていますな」
(ほう、不思議な話だな)
「それでこれからマスターどうしましょうかな」
「うむ、さすがにこのままってわけにはいかないな。 食料と果実も分けてもらったし」
「そうですね。 マーメイドがいなくなるかはわかりませんし、このままではいずれ島の食料もなくなるでしょう」
ミリエルはうなづく。
「マーメイド、人魚か...... 海の中だと戦いようがないな。 話しはできるの?」
「ええ、人語は介します。 しかし戦いになった場合の対応策を考えましょう」
わーちゃんがそういうと、ミリエルの表情が曇る。
「戦わずにすめばいいですが......」
それから作戦会議をして、マーメイドのいるという岩礁帯へと向かった。
そして二日後、岩礁帯にちかづく。
「きますマスター!!」
わーちゃんがそういうと、前の海面に複数の影か見える。 そして水中から水柱かたち空から降りそそいできた。
「セイクリッドフィールド!」
「これはアクアレイン! 水属性の下位魔法! ただこれだけの数が集まって多用されると、船が水没しかねません!」
わーちゃんがさけぶ。
「なら覚えたての新魔法でいく!」
ーー闇よりいでし力、声ならざらん、漆黒の咆哮となれーーー
「ダークネスフォール!」
そう唱えると、オレの影から幾本もの黒い帯が砲撃のように船の周りに降り注ぐ。
「きゃあああ!!」
そう悲鳴が聞こえると、人魚たちが海面に浮かんできた。
「お見事!! さすがマスター!」
「すごいです! トラさま!」
「トラ、そんな強かった!!」
ミリエルとルキナがそういう。
「いやぁ、それほどでも! あるかな!」
みんなに誉められて調子に乗る。
「よし! ゴブリンたちとスピード、マーメイド船の上に引き上げてくれ」
「おー!!」
マーメイドたちを船に乗っけた。
「ふむ、確かに上半身は美女だが下半身は魚だな」
オレがみていると、ルキナはちょっといやな顔をした。
「トラ、えっち」
「ちがう! ちがう! これは調べてただけで、そんな気持ちは全く、いやちょっとしかないよ!」
ミリエルは両手で顔をかくしている。
「ちがうよ! ミリエル! ちがうよーー!」
オレの声が空に響いた。
しばらくしてマーメイドたちは目を覚ました。
「ここは...... なっ! お前たちは人間!? いやモンスターもいる!!」
冠を着けた赤髪のマーメイドはそう驚いている。
(あれ? 目が赤くない...... 暴走してないのか?)
「なんで人を襲っている」
オレが聞くと、うつむいた。
「攻撃せねば、この沖へと出てしまうだろう。 そうなれば......」
「そうなれば? 取り合えず話をしてくれ、このままだと人間たちと戦争になるぞ」
「......わかった」
マーメイドの名前はリシェエラといい、ここのマーメイドたちの長だという。
「それで沖にいかせたくない理由はなんだ」
「......実は、沖に我らの守り神たるシーサーペントが暴れまわっているのだ。 もし人間たちの船をみつけるとすぐに沈めれれてしまう。 そうなれば......」
「人間との対立が決定的になって、戦いになるですかな」
わーちゃんがそういうと静かにうなづいた。
「ですが、このまま人間を邪魔をし続けても、いずれ対立が起こりますよ」
「しかし、今は他に手だてがない...... シーサーペントは私たちを襲うことはないが、人間たちは大勢死ぬだろう」
うなだれるようにリシェエラはいった。
「そのシーサーペントは目が赤いのか?」
「目? ああ確かに目が赤かった」
オレたちは顔を見合わせうなづく。
「それでシーサーペントがおかしくなったとき、何かおかしなことは起こってないか」
「おかしなこと? そういえば...... フードをかぶった一団がこの海を周回していた。 あれは確か帝国の船だった」
「帝国?」
「グランディオスという国です」
わーちゃんが補足してくれた。
(その一団、ルキナの村と関係あるのか?)
「なあ、オレたちでそのシーサーペントを倒してもいいか」
「なっ!? 無理だ! 百年はここに住むモンスターだぞ! 町すら滅ぼしかねん力を持つんだ!」
「だけど、このままじゃいつか終わりがくるぞ」
「それは...... だが勝ち目がないぞ」
「ふむ、わーちゃん何か策はあるか?」
「そうですな。 マーメイドたちの助力が得られれば」
「なら、力を貸してくれるか」
そう聞くと、リシェエラは困惑した表情をして、仲間をみると、少し黙ってからうなづいた。
「じゃあ、対策をしよう!」
オレたちはシーサーペント討伐の作戦を始める。
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