第8話

 一週間後、軽傷者は完全によくなり、重傷者も動けるようにはなった。 


「おそらく、マスターとの契約で、モンスターたちは強化されていたのでしょう。 でなければ死んでいました」


 そうわーちゃんはいっていた。


「そうか! よかった! さあ、とりあえずギルドから新しい仕事を得ないと資材も燃えちゃたからな」


 オレとミリエルは依頼を得るため、ギルドに向かっていた。


「トラさま。 私はみなさんの手当てをしたいのですが......」


「わーちゃんはやることがあるし、今オレも暴走する可能性がないともいえない。 もし町中て暴走でもしたら、その後モンスターたちは人間たちに襲われ殺されるだろう。 だからその時抑えてくれる者が必要なんだ」


「それは...... でも私が止められるとは思えませんが......」


「君は一度助けてくれたからね。 他の者よりは可能性がある」


「そうですか...... わかりました」


(まあ、何かしたいのはわかるけど、あそこにだけいて塞ぎこむのは良くないからな)


 ミリエルをとりあえず納得させ町へと急ぐ。


 ギルドに行くと受付のマクロさんが話しかけてきた。


「トラさん一週間ほど前、北の森付近ですごい音がしたらしいんですが、なにか知りません? あのあたりですよね住んでるの」 


「い、いや、何かな! オレは何も知らないよ! ゴーレムが転んだのかな?」


 それを疑うような目でじっとみていたが、ため息をついた。


「これ以上目立つのはよしてくださいね。 国が動いてるなんて噂まであるんですから」


「国が?」


「ええ、最近モンスターの事件が多いでしょう。 それで国のお偉いさんが苛ついてるんですよ。 国民から不満の声が多くてね」


「そうなの、わかった気を付けるよ」


(なら、はやく計画を進めないとな)


 マクロさんに挨拶すると、オレたちは掲示板の前にたつ。


「ミリエル何かここでよさそうな依頼はないかな? できるだけ高額なやつで君もきてもらえるやつがいい」


「私も......」

 

「ああ、少しお金が稼ぎたいんだが、少し進めていることがあるから、わーちゃんを拠点に置いておきたい。 ミリエルが代わりにきて欲しいんだ」


「そ、そうですね...... 高額なもの...... これはどうでしょう」


「ん? 幻のキノコ、プリンセスマッシュの入手か、報酬は...... ええっ!? 100万ゴールド!?」 


「ええ、東の迷いの森に生えているキノコです。 幼い頃迷って一度だけみたことがあります。 ただ見つかるかはわかりませんが、トラさまならそこに住むモンスターたちを仲間にすれば、あるいは」


 そう自信なさげにミリエルは提案した。 


「なるほど! その森のモンスターから場所を聞けばいいのか! よし! さっそく行ってみよう」


 仲間に使えそうな装備をみつくろうと拠点にかえり、ミリエル、ヴァンパイアバットのバッタン、ルートスパイダーのミチと迷いの森へむかった。


(まあ、みんな万全じゃないから少し不安だが、仕方ない。 今はお金が必要だからな。 慎重にいこう)


 迷いの森につく、しかし奥は霧のようでよくみえない。


「朝もやじゃないよね」


「ええ、ここの植物が魔力の含む霧をだしているんです」


「なんのために?」


「迷わせて、いずれ自分達の栄養にするためです......」


「ほぎゃあ! こわっ! でもいくしかない!」


「ギャイ!!」


「ギギ!!」


「は、はい」


 その森は霧が立ち込め、視界が悪くすぐ奥すらもみえづらい。


「入り口の木とオレたちにミチの糸を巻いてもらって中に進もう」


「ギギ」


 ミチは糸をだして木々とみんなの腰に糸を巻き付け繋いだ。


「固いですね。 この太い糸、植物みたい。」


「うん、ルートスパイダーは蔓のような太くて柔らかい植物の糸を出すんだ。 これなら離れたりしないですむ。 でもミリエルはこんなところに子供の時入ったの?」


「はい、実はサキュバスの里から一度だけ逃げ...... 遠出したことがあって、ここに迷いこんだんです


 そう伏し目がちに言う。


(まあ、里での境遇は予想がつくな......)


「よくここから逃げ出せたね」


「ええ、たまたま走っていたら出られただけです」

 

 オレたちは森の奥へと進む。 


「ギャア!」


 しばらく進むとバッタンが鳴いた。


「なにかいるのか!?」


「なにもみえません!」


「バッタンは超音波で周囲をみているから、とりあえず攻撃に警戒して」


 その時、何かが複数飛んできた。 オレは剣でうちおとす。 


「これは木の根!? それらがねじられてて槍みたいに飛んできた!」


「ギャア!!」


 バッタンは突風で霧を吹き飛ばした。 一瞬、赤い目を持つ木の切り株のようなものが複数動いているのが見えた。


「あれは、トレント!!」


「トレント?」


「ええ、木のモンスターです!」


 だが、また霧が辺りを包み見えなくなる。


「くそっ! バッタン以外相手の位置がわからない! ミリエル何かないか!」


「......やってみます......」


 ーー光よ、その輝きを束ね刃とし、眼前に降り注げーー


「ライトレイン」


 そうミリエルが呟くと、上空におおきな光が生まれ、それは空を裂くように降り注いだ。 


「カカカ!!」


 そして、そういくつかの場所で声のようなものが聞こえる。 近づいてみると、体が裂けたトレントが横たわっていた。


「すげえ! そんな魔法使えたの」


「ええ、サキュバスは光魔法を嫌ってたので使うことはなかったですが...... あっ、目が赤くなくなりました」


「ほんとだ」


 ミリエルにヒールをかけてもらい治ったトレント三人ほどは契約できたが、それ以外はできなかったのでそのまま倒し、土に埋め供養した


(仕方ない...... あの苦痛は並みじゃないから...... 解放してあげた方がいい)


「じゃあ、お前たちは、トレイチ、トレニ、トレサンと名付ける。 それでプリンセスマッシュのこと知らない」


 そう聞くとトレントたちはなにやらそわそわとしだした。


「何か知っているようですが、怯えているようにも見えますね」


「確かに...... とりあえず逃げてもいいから、場所だけ教えてくれないか」


 三人は集まり何か意志疎通をしているようだ。


(会話ができないからな。 何となく察するしかないのが歯がゆいな)


 すると一番小さなトレイチが先に行ってこちらに振り向いた。


「ガガ」


「どうやらあっちか」


「でも、この怯えよう何かいるのかもしれません」


「だな。 ゆっくり進もう。 一応バッタンとミチはトレントたちを守ることを優先してくれ」


「ギャアギャ!!」


「ギーギ!!」


 トレントたちを守るようにモンスターたちが移動する。


 オレはトレイチの横に並びすすむ。 トレイチは安心したのか森の奥へとすすんだ。 しばらく進むと木々の間から光が見える。


「ん? どうしたトレイチ」


 トレイチはオレの後ろにかくれた。


「何かいるな...... みんな気を付けろ」


 オレたちはその光りがもれる場所へすすんだ。


「ここだけ霧がない?」


 木々を抜けて光る場所に足を踏み入れると、そこだけ霧がなく木々の間から太陽の光が差し込んでいる。


「ええ、それにほとんど魔力を感じない...... あっ! トラさま、あそこに」 


 ミリエルが指差す方向に白く仄かに光っているキノコの群生地があった。


「あれがプリンセスマッシュなの?」


「ええ、そうです!」  


 オレたちはゆっくりとそのキノコに近づきそれをいくつかかごにとった。


「全部とると増えないから、このぐらいで......」


「そうなんですか、大抵みつけるとみんな全てとってしまうんですが......」


「だから、幻になっちゃうんじゃない」


「なるほど」


 感心したようにミリエルはうなづいた。


「でも、何でここだけ霧がないんだろう? このキノコのせいかな」


「いえ、逆でそのプリンセスキノコは高い魔力があるそうですよ」


「そうなの、ならなんで......」


 その時、ふいに地面が大きく揺れる。


「地震...... いや離れろ!」


 そこからミリエルを抱き飛ぶと、地面から何かが飛び出してきた。

それは巨大な芽のようで、それが花のように開いた。


「これは......」


「そんなマジックイーター......」


「マジックイーター!?」


「ええ、早く離れないと!!」


 モンスターたちが崩れるように倒れ始めた。


「どうしたみんな!!」


「......マジックイーターは周囲の魔力をすいとる、マジックドレインを使うモンスターなんです。 でもこの大きさは異常...... うっ」

 

 ミリエルも苦しそうだ。


(確かに...... オレもなにかが体から失っていっている。 これが魔力、早く倒さないと、このままだとみんなが......)


 オレは盾を前にして走りマジックイーターへと近づく。 するとと地面からつるが伸びムチのように頭上からしなる。


「くっ! あっ!」


 盾で防ぐも巻き取られて持っていかれる。 


「ライトレイン!」


 その時光の柱がマジックイーターに降り注ぎ、マジックイーターは暴れている。 


「ミリエルか!!」


 そのすきにオレは近づいて茎のような場所をきりつける。 


「ギイイイイイイイ!!」


 マジックイーターは甲高い声のような音を発した。 


「これで契約!!」


 何も反応がない。


「こいつ! 契約できないのか!!」


 その瞬間もう一本つるが地面から伸びオレの体に巻き付いた。


「なっ! この力の抜ける感じ! 魔力を吸われている!? まずい!」


 持ち上げられて抗おうとするが両腕ごと巻き付かれていて動けない。 体から力を失っていく感覚がある。


(このままだと、また魔力を失って気絶する...... そうなったらみんな死ぬ、......まずいもう意識が、そうだ...... あのときみたいに暴走すれば......)


 オレはそう思いあのときのように必死に感情を高める。


(このままだと、みんな死ぬぞ! 怒れ! 怒れ! 怒れぇぇぇぇ!)


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 どす黒い憎しみと怒りの感情が心の中にあふれてきた。 周りに黒い炎のようなものが見える。 


「ギィィィオ!!」


 魔力を吸おうとしていたつるが崩れ落ち、オレは地面に降りた。


「さあ、吸えよ!!!」


 オレがマジックイーターに近づき茎を殴り付ける。


「ギィィィィィィィ!!!」


「死ね! 死ね!! 死ね!!!」


 感情がコントロールできないまま、意味もなくモンスターを殴り付けると、茎に穴が空いていく。


「ダークスフィア!! ダークスフィア!! ダークスフィア!!!」


 空いた穴に魔法を連発する。


「ギィィィィィィィ!!!!」


 どんどん意識が飲まれていく、それでも怒りを抑えられない。


(やめろ! やめろ!) 


 心ではそう思うも体が止められない。 


 マジックイーターが横に倒れ動かなくなっても、オレは攻撃し続ける。


(ダメだ、このままじゃ、また......)


 闇に飲まれていき、意識を失いそうになる。


「もうやめてください!!」


 そういって後ろからミリエルが抱きしめ、ヒールを使った。

 

(暖かい...... 意識が戻る! よし、いまだ!)


「うおおおおお!!」


 オレはあらん限りの力で怒りを振りほどいた。 黒い炎はきえ、体が止まった。


「はぁ、はぁ、やった抑えられた...... ミリエル助かった」 


「い、いえ、よかった」 


 二人でその場で寝転んだ。


「ふぅ、ありがとうミリエル、なんとかみんな落ち着いたみたいだ」


 ミリエルのマジックチャージで皆魔力を少し回復し、みんなは動けるようになって小躍りしていた。 


「いえ、私は......」 


「それにしてもあの黒い炎はなんなんだろう? 魔力?」


「ええ、あれはおそらく魔力の密度が高いから、そう見えたんだと思います。 マジックイーターが吸いきれずにくずれていましたから」


 そういって倒れたマジックイーターをみている。


「それよりトラさま、あんなに魔力を放出して大丈夫ですか?」


「ああ、あの暴走状態になると魔力が吹きだしてくるんだ。 今は平気だよ」


「......よくはわかりませんが、感情からも魔力が生まれるとは聞いたことがありますね」


(それか、確かにあの膨れ上がってくる感情が魔力になるなら、すごい量にはなるよな)


「でも仲間にしたかったんだけど、マジックイーター......」


「トラさま! あれ!」


 倒れたマジックイーターのつるの先に小さな実のようなものがなっていた。 


「あれは実か、動いている」


 丸い実から短いつるが生えて手足のようになった。


「あれはマジックイーターです!」


 それはとことこと歩いてきて、オレの前にとまる。


「キィ」 


「かわいい、どうやら、この子はあの大きなマジックイーターが残したみたいですね」


「なんかわからんが、契約してみようか」


 オレが頭に触れると模様が浮かび上がる。


「契約できた。 さっきはできなかったのに?」


「多分、マジックイーターも暴走して苦しんでいて、それで止めてくれたからかもしれませんね」


「そうか、確かにあれは苦痛だからな。 じゃあお前の名前はイータな」


「キィ! キィ!」


「喜んでいるみたい。 ......トラさま、私も契約していただけませんか?」


「ミリエルが?」


「ええ、自分のせいであんなことになってしまった...... みなさんのお役に立たないと責任は果たせない。 契約すると魔力が増えるとききます。 お願いできますか?」


 真剣な眼差しでこちらをみていった。


「......ああ、わかった」


 オレはミリエルの手をとる。 するとミリエルの手の甲に模様が浮かびあがる。

 

「どう? 何か変わった」


「そうですね。 確かに魔力が上がったような感じがします」


 そういって笑顔になった。


「よし! では帰ろう!」


 オレたちは森を出て拠点に戻った。

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