第7話

(な、なんだ!? まさか人間に襲われた!)


 オレたちが拠点に戻ると、家に火がつきもえている。そして倒れたモンスターたちが多く横たわっていた。

 

「な、なんなんだこれ、まず助けないと!!」


「マスターあれを!」


 そうわーちゃんに言われてみた。 


「なっ! お前たちは!?」


 そこには前にみた三人のサキュバスたちがいた。 いや四人だった。


「ミリエル...... どうして」


「す、すみませんトラさま......」


 そうミリエル涙を流し膝をついた。


「ふふふっ、あんたのモンスターたちの魔力はいただいたよ。 さああんたたちも私たちに魔力をよこしな」

 

「なんだと貴様ら。 我らに勝てると思うてか」


「勝てるわ。 こいつらを殺してほしくないのでしょう」


 そう剣でゴブリンを突き刺した。


「お前!!」


「動くな!! このまま首を跳ねるよ!」


「ねえさま!! 約束が違う! 少し魔力を奪うだけっていったじゃない!」


「うるさいわね!」


「ああ!!」


 ミリエルは髪の毛をもたれ引きづられる。


「あんたは黙ってな! 全くクズな子だね! もっとはやくここのものたちを薬で眠らせろっていったのに、いつまでかかってんだい!」


「で、でも、みんないい人で......」


「モンスターにそんなもんはいらないのさ! 私たちは強くなるため他の人やモンスターから奪うんだ! わざわざあんたをあいつに売ったのはその為なんだよ! 役目ぐらいまっとうしな! 役立たず!」   


 そういって足蹴にされている。 ミリエルはそれでも服にしがみついて懇願する。


「うっ! 私はいい! でもみなさんにはひどいことしないで!!」


「......ああ、わかったわ......」


「ほ、本当! ねえさま!」


「ええ、本当にバカな子」


「えっ? ねえさま......」


 サキュバスのその剣がミリエルに深く突き立てられる。 ミリエルは崩れるように倒れた。


「ミリエル!!」


「ミリエルどの!!」


「おまえなんてことを!!」


「ふん、こんなグズはもういらないわ。 なにせかなり大きな魔力を手に入れられそうだからねぇ、あんたたちだって裏切り者なんて必要ないでしょ」


 そういってにたりと笑った。


「お前...... ぐっ!」


(なんだ頭が割れるようにいたい...... 今はそれどころじゃみんなを助けないと......)


「他のモンスターの命が惜しかったら、抵抗はやめてね」


「まずあんたたちから魔力を吸いとってあげる」


 二人のサキュバスが前へ進んでくる。


「ぐっ! どうなさいますか、マスター......」


「......抵抗するな。 まだみんな死んじゃいない、命があるだけましだ......」


(そうだ、それならみんなを助けられる...... 生きてさえいれば...... コロ、ス......)


「なっ!」


(なんだ...... 今の声、頭が痛い、コ、ロス、この殺すってオレの声なのか、コロス...... やめろ!)


 心のなかから沸き上がる感じたことのない感覚。 それは怒り、マグマのように沸き立つ、そして憎しみで破壊したいという衝動が抑えようもなくわきあがってきた。


(コロス...... だめだ! コロス...... なんだこれは! まさかこれが魔力の暴走! 抑えないと!)


 その時ミリエルの姿が目にうつる。 俺が買った服が血でにじんでいる。 それをみた瞬間、信じられないほどのどす黒い感情が沸き上がってきた。


「なに!? この人間!?」


「マスター!! どうなされた!!?」


「うわああああああ!!!」

 

 そして気がつくとオレは真っ暗な世界に一人いた。  


(まさかまた死んだのか...... 魔力の暴走って人間にも起こるのか...... みんなを助けたかったのに......)


「コロス......」


 その声で気がつくと、目の前に黒い炎をまとうオレがいた。


「なっ、おれ!?」


「コ...... ロス!! コロ......ス!!! コロスゥゥゥオオオ!!」


 そういって赤い目をしたオレが鬼のような形相で向かってくる。


「なんだ!! やめろ! おまえ!!」


 もう一人の首を絞められる。 すごい力だが、なんとか蹴り飛ばした。


「げほっ!」  


(なんだこいつ!! オレなのか! あの赤い目! モンスターと同じだ!)


 もう一人のオレはその姿を黒い泥のように変えるとオレにはいより体を登ってくる。


「なんだ! こいつ! また怒りがこみあげてくる!」


 顔まで登られ体がうごかない。 口にまで入ってくる。


(ぐわっ!!)


 ものすごい悪意と怒り、憎悪の感情が自分の中に入ってくる。


(飲み込まれたらだめだ、 オレは変わってしまう......)


 だがすぐ黒く自分が変わっていってしまう恐怖よりも、楽になりたいという感情が勝ってきた。


(も、もう...... ダメだ......)


 その時暖かい光が差し込み、黒い泥は怯えるように口からでた。


「ぐほっ! こ、これは......」 


 目の前に映像がみえる。 


「ミリエル!!」


 そこには黒い炎に焼かれながらオレにヒールをかけている姿がうつる。 苦しみながらもなにかを訴えているようだった。


「なんだ、ミリエル! 何をいっている!」

 

 沸き上がる怒りを抑えて、声を聞こうとする。


「...... や、やめ、て、みん、な、しんで、しまう......」 


 そうしぼりだすように出した声が聞こえる。


(そうだ! オレはみんなを助けるんだ!)


 思い出したオレはあらんかぎりの力をふりしぼった。


「おおおおおおおお!!」


 するとオレをおおっていた闇が消えていった。


「こ、ここは」  


 オレがハッとして周りをみる。 周囲がなにかに焼かれたようになっていた。 目の前にミリエルがいる。


「ミリエル!!」


「よ、よかった。 はやくみん、なを......」


 目の前で崩れていくミリエルを支える。


「ミリエル!! まだ息がある!」


 オレは持っていたポーションをミリエルの口に流し込む。 腕にはおおきな傷がみえる。


「くそっ...... だがこれで多分大丈夫...... 他のものたちは」


「も、もとに戻られたのですね...... マスター......」


 ふらふらと上半身だけになったわーちゃんが浮いている。


「わーちゃん! お前大丈夫なのか!? 何があった!」


「わ、私は大丈夫です。 死霊ですから...... あの時、急にマスターから黒い炎のような魔力が吹き出して周囲を焼き払いました......」


 ポーションを倒れていたものたちに飲ませながらその話を聞く。


「オ、オレがこれを...... それでサキュバスたちは」


「重症をおったようですが、マスターに怯え逃げていきました」


「そうかわかった。 わーちゃん...... とりあえず休め。 オレがみんなを助ける」

 

「は、はい...... す、少しだけ休まさせていただきます......」


 わーちゃんはゆっくり降りると横に倒れた。 オレはすべてのポーションを使いきり、みんなを回復させた。 何とか死者は出さずにすんだ。


 みんなをとりあえず無事な家に運び夜を越した。

 

 その次の日。 眠るミリエルの横でオレとわーちゃんが看病をする。


「なんとか、みんな死なずにすんだな」


「ええ、ですが申し訳ありませんマスター...... なんのお力にもなれませんでした......」


 上半身だけになったわーちゃんが申し訳なさそうにいった。


「いや、いいよ...... これはオレが引き起こしたことだしな...... それよりわーちゃんはその体、回復するのか」


「はい、魔力さえ戻れば......」


「そうか、オレはちょっと町までいってポーションを買ってきたいんだが、ここ守れそうかな」


「はい、軽傷者と私で十分守れます」


「あのサキュバスたちはこないかな」


「正直あのケガと怯えようなら二度と来ることはありますまい」


「わかった。 すぐいって帰ってくる」


 オレは足早に町にいき、必要なものを買い戻って治療に当たる。


「ふぅ、何とか、みんな回復しそうだな」


「ええ、マスターの迅速な行動のおかげです」

 

「ただミリエルが......」


「ええ、彼女はマスターが暴走したとき、その傷をおして止めようとしましたから、しかしあの傷でよく生きていた......」

 

 わーちゃんは考え込む。  


(体の傷より心のほうが心配だな)


「それでやはりオレの暴走は魔力のせいなのかな...... モンスターだけじゃないのか」


「ええおそらく、その時どのような感じでしたか」


「止めようもないほど怒りと憎しみがわいてきたよ。 心で押し留められない程の感情だった......」


「......やはり、そうですか、私もそれゆえ魔法で自ら眠りについたのです。 しかしさすがですな! あれをご自分の力ではねのけるとは!」


「......いや、ミリエルのおかげだよ。 もうあきらめかけてたけど、ミリエルの魔法と声で何とか目覚められた......」


 そう寝ているミリエルをみる。 かすかに吐息がもれている。


「ふむう、声が聞こえた...... サキュバスの深層催眠のようなものですかな?」


「わからないけど、助かった。 あのままだとオレが取り込まれるところだったから......」


 オレはあの時の異常な恐怖を思い出していた。



 その日の月夜の晩、森を木に手をつきながら歩く影がある。


「どこにいくんだ?」


 オレはその影にいった。 


「あっ...... トラさま......」


 ミリエルはオレの姿をみて驚いている。


「あのサキュバスたちのもとへ帰るのか?」


「い、いいえ、もうねえさまたちとは...... 元々人間に里を滅ぼされて行くあてのない人達だから」


「じゃあ、ミリエルもいくところなんてないだろ」


「......ここにはいられない......」


「自分のせいで......か」


「............」


 ミリエルは押し黙った。  


「でもミリエルはオレを助けてくれた。 あの闇に取り込まれるところだったオレを止めてくれた」


「そんなの...... そんなことで償えるわけない」


「償うためにしたんじゃないだろ。 オレを、みんなを助けたくてだろ」


「それは...... でもあんなによくしてくれたみなさんを裏切って、傷つけて...... 私はここにいられないんです」


 ミリエルは目に涙をためていう。


「......それでも君にはここにいてもらう。 本当に責任を感じているなら、逃げるんじゃなくて、ここでその責任をはたすべきだ。 オレも君もな」


 そういうと、しばらく静寂が訪れる。


「......わかりました。 責任を果たすまでまでここにいます」


「一生の約束だ」


「はい......」


 そういうと涙を拭きとぼとぼと帰っていく。   


「......かわいそうですが、このまま放置すれば自ら死にかねませんからな」


 横にいたわーちゃんがそういった。


「......ああ、傷ついたまま死なせるわけにはいかない。 後悔があっても生きてさえいれば、いつか救われるときがくるよ」


「ですな。 生きてさえいればいずれ良きことも訪れましょう」


「ものすごい説得力だな。 わーちゃん」


「ふふっ、そうでしょう。 実際死んだ経験者ですからな」 


 わーちゃんがそういって笑う。


(まあそれは、オレもだけど)


 そう空にあるかけた月をみて思った。

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