bot撃ち少女が有名配信者になるまで(仮)

@momomomor

Nyalorant/bot撃ち雑談#1

ーーー

処女作です。

ーーー


≪このストリーミングは0分前に開始されています。≫


「…出来てる…のかな?」


ゲームが映るメインモニターと、コメント欄と配信のプレビューが確認できるサブモニターをチラチラと見ながらひとりごちる。


緊張からかカッスカスな声だ。


「映ってるのか心配…」


スマホを取り出して、配信サイトから、『Nyalorant』のタグで検索し、ダーッと50秒ほど下にスクロールして、自分の配信を見つけた。


「あー、あー」


スマホからもちょっと遅れて声が聞こえてくる。


「ゲームの音も確認しておこう…」


射撃訓練場にいるアバターに、左クリックでアサルトを撃たせてみる。


「わっ、わっ!?」


遅れて今度はとんでもない爆音の銃声が聞こえてきて、思わずスマホを落としそうになった。


「早く調整しなきゃ…!」


折角来てくださったリスナーさんの鼓膜の危険が危ないぞ!


よくよくスマホの音源を聴いてみれば、準備しておいたBGMも殆ど聞こえない。


それから音量をいい感じにしようと努力するも、銃の爆音波がなくなったと思ったら消滅したり、クソデカBGMになったり、音の調整をしてるはずなのに画面のレイアウトが変わったりと踏んだり蹴ったりである。


「どっ、どどどうしたら…!?」


手汗ベッタベタで、半ばパニック状態の私に、更に追い討ちをかけるように、コメント欄が動いた。


-コメント欄-

but0233:初見です!


「あっ、あああ初見さん!!え、えっとこんにちわあ!!」


びっくりして大声が出てしまった。ついでに裏返っている。


-コメント欄-

but0233:声デカっ!?w


「ごっ、ごめんなさいぃ音量調整中なんですぅぅ」


見えてもいないのに頭をぺこぺこと下げる。


-コメント欄-

but0233:そうでしたか!良ければお手伝いしますよ〜


「あっ、ぜ、是非お願いします…!」


butさんは配信に結構詳しかったのか、私が10分くらい格闘してこんがらがった毛糸みたいな配信環境をテキパキとコメントだけで整えて頂いた。


-コメント欄-

but0233:よし!いい感じ!


「大丈夫そう…ですかね?すいません本当に…助かりました!改めてバットさんいらっしゃいませ♪」


-コメント欄-

but0233:いえいえこちらこそ!

しょしんしゃ:初見です


「あっ、しょしんしゃさんいらっしゃいませ!えっと、ホントに射撃訓練場のbotをただ撃つだけの配信なんですが、良ければごゆっくりどうぞ…」


-コメント欄-

but0233:ホントにタイトルのままかw

しょしんしゃ:職人スタイル、嫌いじゃないよ


「初心者とは思えない風格を感じますね…」


一つ咳払いを入れる。よし!ここからここから!


「さて、それでは早速やっていきましょうか。まずはニャンダルを撃っていきますね」


-コメント欄-

but0233:ほうほうニャンダルとな、くるしゅうないくるしゅうない

しょしんしゃ:そこはキャットムだろバーロー?!


「あはは、その論争は永遠の課題ですよね」


威力が高く、壁抜きの威力減衰などをのぞいて全距離で頭一発で敵を倒せるニャンダルと、頭一発で倒せないシチュレーションがあるものの発射レートとリコイルのしやすさで勝るキャットムのどちらを利用するか論争は、ニャロのリリース当初からの議題だ。

某チョコのキノコタケノコ論争に近いかな?


-コメント欄-

but0233:主さんはどっち派?


「私はどっちも好きですね、それぞれに倒した時の気持ち良さのベクトルが違う感じがします。ただこうして配信のBGMとしては確実に頭一発で倒せるニャンダルの方がテンポよくていいかなと」


-コメント欄-

but0233:ほれみぃ!!

しょしんしゃ:あーヤダヤダ、ニャンダル派はすぐそうやって結論を急ぐんだから

ニャンダルを崇めよ@宗祖:初見でございます、ニャンダルの布教に参りました

but0233:うわ出た!!

しょしんしゃ:コイツどこにでもおるってww


「いらっしゃいませ!宗祖さん…踏み絵は勘弁して下さいね?」


そんなおちゃらけたことを言いながら、早速射撃練習モードをONにして、ネコミミのついた無数のハリボテbotを狙っていく。


-コメント欄-

but0233:相変わらずこのゲームの異常な猫推しなんなんだw

しょしんしゃ:犬派以外の全人類にウケるって公式が言うだけあるわホント


高威力特有のアサルトの重たい射撃音が、ドン、ドンとリズミカルに響くと同時に、ヘッドショットの気持ちいい破砕音が重なる。


「う〜ん、やっぱりダルのヘッショは気持ちいいですね!」

軽く撃ち回してふとコメントを覗く。


-コメント欄-

but0233:いやうま、ストッピング完璧か??

しょしんしゃ:エイムもビッタビタやね、主結構ランク高い?

ニャンダルを崇めよ@宗祖:あぁ…芳しきニャンダルの音ぉ…それにしても上手いですね、何かコツありますか?

but0233:素に戻るなww


皆さんお世辞が上手いことで。

初配信だから気を遣わせてしまっているだろうか。


「ありがとうございます、お世辞でも嬉しいです。えっと、ゲーム自体は初心者というか、ほとんどランクどころかアンレートもやったことなくて…」


-コメント欄-

しょしんしゃ:まじでか

but0233:そうは見えないけどな〜別のFPSとかやってた?


「いえ、別タイトルもそこまでは…ただずっとbot撃ちはやってます」


詳しく言えば他のゲーム"も"bot撃ちしかしていない。


-コメント欄-

but0233:なるほど、文字通りbot撃ちマスターってことね、どれくらいやってるの?

しょしんしゃ:bot撃ち職人、いいね


「…えと、リリースからほぼ毎日…ですね」


-コメント欄-

but0233:wh!?もうそろ2周年だぞ!?

しょしんしゃ:割とガチで職人だった

ニャンダルを崇めよ@宗祖:なるほど…私めも毎日欠かさずbotを撃てば主様のようなニャンダルマスターになれるのですね!!


「マスターなんてそんな…絶対試合では通用しませんですから!あっ、ちょっと感度ズレてますね」


今日はちょっと腕の振りがイマイチかな?

やっぱり配信で緊張してるのかも。


-コメント欄-

しょしんしゃ:それは俺でもわかる、ダウト

but0233:こうやって駄弁りながらほとんど外してねえのはだいぶやってるのよ。あぁもう今の感度調整でたまーーに外れてたやつすらなくなったじゃんね

ニャンダルを崇めよ@宗祖:ふつーにすごい、これだけ当たるとめちゃくちゃ気持ちいいですね!

しょしんしゃ:化けの皮剥がれてっぞ


「あはは…ありがとうございます?」


-コメント欄-

but0233:え〜自覚なしと。お疲れ様でした


「え!?ちょっと!?」


-コメント欄-

しょしんしゃ:あ、エイムずれた

but0233:メンタル×


なんて、そんなバカみたいな会話をしつつ、挨拶だけしてROMしてくださるリスナーさんが何人かいらっしゃったりして、初回として予定していた1時間はあっという間に過ぎ去っていった。


「ーーよし、では今日はこの辺りで終わりにさせて頂こうと思います!」


-コメント欄-

but0233:もう1時間か、あっという間だった

しょしんしゃ:bot撃ってただけなのに面白かったな

ニャンダルを崇めよ@宗祖:ニャンダルが過剰摂取できる最高の配信でしたわ!!


「またこんな感じでbot撃つだけですが配信しますので、良ければチャンネル登録して頂ければ!!」


-コメント欄-

but0233:もうしたよ〜

しょしんしゃ:毎秒待ってる

ニャンダルを崇めよ@宗祖:全裸待機いたします!!


「ホントですか…ありがとうございます!!後宗祖さんは服来て下さいね」


「それでは、枠閉じさせていただきます!また来てくださいね〜!」


-コメント欄-

but0233:またね!楽しかった!

しょしんしゃ:ノシ

ニャンダルを崇めよ@宗祖:服きます…


宗祖さんのコメントに吹き出しそうになりながら、ストリーミングを止めた。


一つ、大きな息を吐く。


正直、こんなに楽しいとは思わなかった。

高校3年生にもなり、周りの女子高生とは趣味も話も全く合わず、引きこもってゲームしてばかりだった。


コミュニケーションに自信がなくて、バイトを始める気力も勇気もなく、唯一やってみようと思えたのがライブ配信であった。


なにより、外では全然喋れないのに、配信では自分でもびっくりするほど言葉がすらすらと出てきた。


「…これなら、続けられそう…かな?」


次はいつしようか、今から楽しみだ。


≪このストリーミングは0分前に終了しました。≫

『Nyalorant/bot撃ち雑談#1』

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