ファンタジー:ダウナー魔導士とツンデレデレ弟子
「──師匠、アイツら全員殺しましょう」
会合から帰って来た途端、弟子が物騒なことを言いだした。
「仮にも国家公認魔導士が言うコトじゃないね」
「何なんですかあの態度は。師匠を舐めてるとしか思えません」
「まぁ、舐められてたねぇ~」
わたしの帽子を預かり、ローブも預かり、ラックに掛けていく今この瞬間にも、弟子はむすっとした表情のまま。全部任せてソファに座りこみながら、昨日王都で行われた魔導士協会の会合を思い出す。
国内の著名な魔導士が集まって、各々が自身の研究を皆に伝え聞かせる栄えある場。一応わたしも一級魔導士なもんで、数年おきに招待状が届いてはいた。で、ずっと無視し続けてるのも良くないかと思って、久方ぶりに出向いてみた訳なんだけど──
「アイツら、師匠の研究を鼻で笑ってました」
「そうだねぇ」
良い経験になるかと思って連れて行った弟子──マリは、帰るあいだもずっとこんな調子。わたしの研究テーマのウケが悪かったのが、よほど腹に据えかねているらしい。
「まぁ──輪廻転生だなんて、我ながら荒唐無稽な話だからねぇ」
マリが淹れてくれた紅茶のカップを手に取りながら、溜め息を一つ。向かいに座った彼女はまーだ怒っているのか、目尻をいつも以上に鋭く吊り上げている。
「生命の魂の根源は死せども失われず、また新たな生命として那由他の世界の何処かに再誕する──どこに笑う要素があるというんですか」
「うーん……どこもかしこも、かなぁ」
まずこれ、実証できてないし。
それどころか仮説というにも曖昧で、現状ではほとんどわたしの妄想みたいなものだ。勿論、そこからスタートする研究だって世の中にはたくさんあるだろうけど……でも流石に、おとぎ話が過ぎるというか。そも魂の定義すらまだ曖昧な状態で、一体何を語ろうというのか。
あの場で投げかけられた批判の数々は、わたし自身がよくよく分かっていたことで。それでも何故だか、このテーマを突き詰めてみたくなったんだけど。
「あたしは、アイツらみたいには笑いません」
「……」
それで弟子に嫌な思いをさせちゃってたら、世話ないなぁ。
「──大体、師匠も師匠ですよ」
やべ、こっちに飛び火した。
吊り上がった目付きをそのままこちらへ向けて、唇までツンと尖らせて、マリが苦言を呈してくる。
「ずっとへらへら笑ってて、なんで言い返さないんですか。あんな老害共より、師匠の方が実力も実績もずっと上なのに」
「口が悪いよー」
協会のお偉方に聞かれたら大騒ぎになりそうなことを、
「納得行きません。師匠は、師匠は──」
──とても偉大な方なのに。
悔しそうに唇を噛むその様子に、実はわたしの中にもあった悔しさも、全部溶けてなくなってしまった。
例え誰に馬鹿にされようとも。一級魔導士の恥、だなんて言われようとも。マリがわたしを師と呼んでくれているのなら、それで十分だって思えた。
「マリ~」
「ぅわっ、ちょ、何ですか急に……っ!」
「良いんだよマリぃ~っ。このちょー凄い研究テーマはさ、わたしとマリだけで独占しちゃおうっ!」
魔法でマリを引き寄せて、自分の胸の中に抱き込む。ぎゅうぅってすれば、慌てふためく彼女の声がくぐもって聞こえて。わたしにはコレさえあれば良いって、そう
「わたしたちだけの、二人だけのもの。誰にも渡さない。凡百共には理解できっこない。そうでしょー?」
「それ、は……」
気付けばマリの両腕もわたしの背中に回っていて。いつもいつも、キツい態度の割に優しく抱きしめてくれるその手が、わたしを捉えて離さない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
何やら色々な葛藤を抱えてそうに、もぞもぞと身じろぎを繰り返すこと少し。それでもマリは最終的に、体の力を抜いて、わたしに身を預けてくれた。二人分の体重で、ソファがぎしりと一度軋む。
「…………師匠が、そういうなら……」
顔は見えないけど、唇を尖らせて言ってるのは良く分かる、そんな声音。そういうところがホントに。
「マリすきぃ~」
「はっ、はぁっ!?そ、そんなの…………あたしも、その……」
死ぬまでにどれほどの成果を得られるかは分からないけど。
あんまりにも荒唐無稽で、人生を棒に振ってしまうかもしれないけど。
でも。マリと一緒に得られるであろう全てを、他の誰にもくれてなんかやらないって。腕の中でどんどん熱くなっていく彼女を感じながら、そう決めた。
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次回、近未来?:ツンデレデレ教授とダウナー助手
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