わるいこ、いけないこ

「悪い子、いけない子」。


 誰かが言った。

「あの子は悪い子、いけない子」。


 彼らも言った。

「あの子はいけない、いけない、悪い子だ」。


 みんなが言った。

「悪い子、悪い子、あっちいけ」


 僕も言った。

「悪い子、悪い子、いけないんだ」。


 悪い子、泣いて、こう言った。

「もうやめて」。

 悪い子、何度も、そう言った。


 誰かが言った。

「悪い子の言葉は、嘘だらけ」。


 悪い子の言葉、誰も聞いてない。

 次第に悪い子、何も言わなくなっちゃった。


 誰かが言った。

「ほらね、やっぱり悪い子、いけない子」。


 悪い子、何にも言わなくなっちゃった。

 悪い子、何にもしなくなっちゃった。


 何にも言わない悪い子、悪い子、いけない子。

「悪い子、悪い子、あっちいけ」。


 悪い子、気付いたらいなくなっていた。


 悪い子消えて、みんなに笑顔が戻ったよ。


「悪い、悪い子、やっつけた」。

「いけない子、いけない子、倒したぞ」。

「みんなのために、やっつけた」。


 みんな、笑った。

 平和だから笑った。

 楽しいから笑った。


 みんなニコニコ、僕もニコニコ。


「よい子、よい子、いい事したね」。

「よい子、よい子、偉いね」。


 悪い子いない。

 いけない子消えた。


 その影を探して、僕らは笑う。

 平和に、笑う。愛に、笑う。正義に、笑う。


「悪い子、悪い子、あっちいけ」。


      *


 誰かが言った

「悪い子、悪い子、あっちいけ」。


 僕は言った。

「悪い子、悪い子、違うよ」。


 彼らも言った。

「いけない子、いけない子、あっちいけ」。


 僕は言った。

「いけない子、いけない子、違うよ」。


 あの人が言った。

「悪い子、倒すぞ」。


 この人も言った。

「いけない子、消えてなくなれ」。


 僕は、何も言わなかった。

 僕は、何も言えなくなった。


「悪い子、悪い子、あっちいけ」。


 何処までも、追いかけてくる声に耳を塞いで、僕は逃げる、逃げる――はるか遠くに。


 誰かが、言った。

「悪い子、悪い子、やっつけた」。


 彼らも、言った。

「いけない子、いけない子、倒したぞ」。


 僕は、何も言わない。


「悪い子、悪い子、見つけたぞ」。

「いけない子、いけない子、逃げさない」。


 誰かが、誰かに言った。


「悪い子、悪い子、あっちいけ」。

「いけない子、いけない子、あっちいけ」。


 みんなは笑う。

 悪い子倒して、楽しそうに笑う。


 僕は言った。

「悪い子、いけない子、どうして倒すの?」。


 誰かが言った。

「みんな、みんな、やっている」。


 僕は言った。

「悪い子、いけない子、どこがいけないの?」。


 みんなが言った。

「知らない。知らない。分からない」。

「あの子が言った」。

「この子が言った」。

「みんなに、聞いてごらん」。


 みんなは笑う。平和に、笑う。正義に、笑う。愛に、笑う。


 僕も笑う、嗤う、嘲笑う。

 啼いて嗤って、叫んだよ。


「悪い子、悪い子、あっちいけ」。

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