見えない物との結婚
連喜
第1話
無生物と結婚する人がいる。正直言って、相手に断る自由がない時点で、フェアじゃない。身勝手で利己的。且つ一方的な愛だと思ってしまう。
例えば、キャラクター、車、抱き枕、亡くなった彼女と結婚したということ起きている。
テレビで放映されていたが、エッフェル塔と結婚した女性がいたらしい。3年も交際したそうだ。その人は軍隊にいたことがあり、レイプされそうになった時に木刀で応戦。それから木刀を抱いて寝るようになり、物に対する愛情を抱くようになったそうだ。こういう裏話を聴くと、物と結婚する心理が理解できないでもないが、ただかわいいとか好きだというだけでは、俺は共感できない。結婚というのは相手とのコミュニケーションを前提にしないと、成り立たないのではないか。そうでなかったら、ただの所有でしかない。
上記のような無生物との結婚に対して、動物と結婚する人がいる。これはわかる気がする。相手からのリアクションがあるからだ。動物の望んでいることを叶え、相手を幸せにすることもできる。もしかしたら、世間には公表しないだけで、心の中ではそう決めている人がいるかもしれない。そして、動物に欲情する人は一定数いると思う。しかし、相手が望んでいない時点で、それは愛ではない気がする。
いずれにしても、相手に断る自由がないという点では共通しているだろう。物との結婚に関しての賛否はともかくとして、結婚につきものなのはやはり永遠ではないということである。
さて。俺の知り合いで、自分の幻覚と結婚した人がいた。
その人の名はA君。
その当時、俺と同い年で、四十代後半だった。
大企業勤めだったが女性が苦手で、一度も交際経験がない人だった。
風俗にも行ったことがないというピュアな男性だ。見た目は中肉中背。顔は下の上くらいだろうか。
純粋に金目当ての女性以外は、無理だろうという感じだった。
幻覚の新郎はまだ十六歳で、名前は
顔は地下アイドルの何とかちゃんに似ていたらしい。
芽瑠ちゃんはAちゃん本人にしか見えないので、俺はアイドルの〇〇ちゃんを奥さんと認識していた。
彼によると、すごく性格がよく、落ち込んでいるときは黙って傍によりそってくれるそうだ。
正直言って頭がおかしい。
しかし、俺はA君に対してはすごく思い入れがあった。大学時代を共に過ごした唯一の友人だったということもある。俺も時々、幻覚を見るのだけど、それを初めて打ち明けたのが彼だった。彼も幻覚が見えるらしく、大学の講義の時、隣にすすで汚れた人が座っているなどと言って、俺を怖がらせていた。俺には見えないから、A君には霊感があるのかと思っていた。
もしかしたら、芽瑠ちゃんというのは幽霊なのかもしれない。だから、A君の前に現れたのだろう。霊にとっては、ジャニーズのイケメンより、自分の存在をわかってくれるA君の方に価値を見出すに違いない。
かわいい女の子の幻覚が見られて、うらやましいとしか言いようがない。
一方の俺は自分が見たい物を見られたためしがない。今まで会ったのは、若くても頭から血を流した女だったり、パンツを穿いていない中年のおばさんだったりした。
***
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