ラクダのネクタイ

猫又大統領

読み切り

 私の家は地域の住民から長年愛されている八百屋さん。一階がお店になっていて二階で両親と私と婆ちゃんが暮す。

 営業時間が終わり、掃き掃除をしてシャッター閉め終わると母がすぐ来るように私を呼ぶ。

 返事をして向かうと母がテレビを指さす。

 テレビ画面にはラクダが一頭、ネクタイを締めている。ネクタイの色は常に変化していて、コーヒーにミルクを垂らしたように動く。

「テレビ全部のチャンネルをこのラクダの顔がアップで映っているのよ」母が不安そうに言う。

「スマホやインターネットも全部これ。ああ、野球が見てえのに」そいうと父がチッと口から音を出す。

 婆ちゃんは「この光るネクタイはえるいーで……か?」と呟く。

 私は自分のスマホを確認するとやはりラクダが画面いっぱいに映っている。

 母によると突然、画面が暗くなると一頭のラクダが中央に映り、ラクダの全体が映るような映像だったが次第に顔がアップになったそうだ。


「ええ、みなさんこんばんは。宇宙から来ました」ラクダが話す。

「しゃべった」私達家族は口を揃えた。

「これから人間のひとりにクイズを出します。それに答えられたら私は退散します。不正解の場合はこの星を貰います。まあ、それは絶対にありえない話だ。君たちは賢くない。自分たちでも自覚はありますよね?」

「癪に障るやつだ」父が画面に吠える。

 それに私は同意だったがクイズが気になってしまっていた。


「我々には弱点があるが、お前たち人類には理解はできない。それはなんでしょう?」


「背中のこぶ」婆ちゃんがそいうと茶を飲む。

「そんないい加減なこと……地球の命運だぜ。だけどこぶしか思いつかねえな」と父が諦めた。

 私の着信音が鳴る。こんな時に紛らわしい。

「誰? 今世界のピンチだよ? 考えな――」

「正解は? 分からないだろう?」何故か自動的にスマホはスピーカー設定に切り替わったようで大きな声でスマホからラクダの声がした。

「え、え。ちょっと、アイツ、テレビのラクダから」

「えええ」両親そいうと口を開け目を見開く。

 婆ちゃんは茶を飲む。

「どうしました。早くしてください。答えをどうぞ。人間の中でも頭の悪いものに聞いてしまったかな?」

「背中のこぶ!」イライラした私は少し大きな声で言い放つ。

 それから沈黙が続く。画面のラクダは下を向いたまま動かない。

「あ、あ、ああ。正解だ……私のまけ……まけだ」

 画面は元に戻り、テレビ局も混乱しているのだろう。その日の夜から朝方までずっとコマーシャルが流れていた。

 翌日は新聞、テレビ、ネットは大騒ぎになった。あのクイズを答えた人を探してるようだがまだ見つかっていない。

 今日は午後から店を開けた。お客さんもラクダの話で持ちきりだった。

 営業時間も終わり、シャッターを半分ほどおろしたところで声が聞こえた。

「お嬢さん。昨日はお世話になりました」

 ラクダの声。

 半分下したシャッターから動物の薄い茶色の毛が生えた足も見える。

「え、昨日の……」

「はい」

 私はシャッターを一気に上げた。

 目の前にラクダ。昨日のネクタイを締めたラクダが八百屋に。

「な、なんのようですか。昨日の仕返し?」

「君に私のネクタイを譲ろう。勝者にこそ、そのネクタイは似合う」

「え? いらない」

「ネクタイを付ければ私のような力を手にすることができる」

「いらない」

「どうしてだ」

「ラクダになりそうだから」

「君らのいうとこのラクダにはなるが、力が手に入る」

「力を手に入れた私は、ラクダだよね? ラクダが力を手に入れて人間になるならまだわかる。なんで力を手に入れてラクダになるの?」

「ラクダ、ラクダ、と君はラクダを否定的な意味で多用するのはやめてくれ、傷つく。傷ついている」

「ごめん……それは、ごめんなさい」

「分かってくれるならいい」

「あなたはこれから帰るの?」

「いえ、母艦が迎えに来るのが三年後です。その時、地球の監督者として私が君臨しているはずでしたが……」

「それまでどうするの? あなた政府とかに追われそうなのに。調べられたりするのかと思った」

「あのあとすぐにされました、それはそれは隅から隅、いや、文字通り毛の一本まで調べられました。その結果……」

「その結果? なに? なんなの? やっぱりあれ? 未知の物質とかが見つかったの?」私は前のめりになって聞く。

「え、と……ただの……ラクダでした」

 それを聞くと私の上昇した心拍数が落ち着く。

 その時、後ろで物音がした。

「おお、ラクダ。いんたーなんとでラクダを使えばバーガーる」婆ちゃんが私をみていう。

「婆ちゃんそれはバズるってこと……確かに!雇おう」

「働きます」真剣な目のラクダがいう。

 こうしてラクダはマスコット兼従業員として働くことになり、お婆ちゃんの思惑通りお客さんが激増。

 三年後、母艦が再び来襲することを考えてネクタイはタンスの奥に隠しておく。 その時、地球はどうなってしまうのか。果たしてラクダになってでも地球を救うものは現れるのだろうか。

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